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199.夢と現実と

就寝中に突然目が覚めた。

外から鳥の鳴き声が聞こえる。うっすらと外が明るくなっているがまだ暗い。夜と朝の境目の様な時間帯。

数秒程、布団の中で放心した後に思った。

『(・・・なぜ・・あんな夢を・・)』

夢を見ていた。

私はある部屋の中にいた。家屋の部屋などではなく、ビルの一室の様な、例えるなら会議室の様な整然とした部屋である。その部屋には一体のマネキンが置いてあり、そこに私も含めた約10人程の男性が集まっていた。

そのマネキンの横で1人の男性が何やら四苦八苦している。それを囲んで見守る我々男衆。その男性はブラジャーを装着しようと躍起になっていた。何故かその夢では《ブラジャーの付け方が分からん》という世界線だった。

足から履いてみたり、前後逆に付けたりと、なかなか上手くいかない。大人の男10人が雁首揃えて装着する様子を見守りながら《どうやって装着するのだろう》、《一体どういう仕組みなのだ》と頭を悩ませる。

すると、そのブラジャーをつけようとしている男が

『分かったかもしれない!』

と言いながら意気揚々と装着し始めた。固唾を飲んで見守る我々。そして

『どうだ!?』

とその姿を見せつけてきたが、首と肩にヒモを引っ掛けただけの状態だった。

『いや、全然違う』

『難しいなあ』

という声が所々から発せられる。本当に難しかった。どうやったら良いのかさっぱり分からない。まるで知恵の輪を解いている様な感覚である。

それからしばらく試行錯誤していると、再び男が声を上げた。

『分かったかもしれない!』

また意気揚々と装着し始めた。固唾を飲んで見守る我々。そして

『どうだ!?』

と見せつけてきた。だがその姿は

《ブラの左カップを右乳に被せている》

という状態だった。装着出来ていない。その姿を見た私は思わずこう声をかけた。

『いや、伊達政宗じゃねえか』

するとその男は

『そうかー。難しいなー』

と再び頭を悩ませていた。それ見守る私。

『(・・・・・・)』

その時、ふと私は思った。

『(・・・いやちょっと待て・・今の例え・・めちゃくちゃ面白くねえか?)』

【独眼竜 伊達政宗】言わずと知れた右目に眼帯を付けた隻眼(せきがん:片目)の戦国武将。その姿と右乳だけをブラで覆った姿を重ね、飛び出した例えツッコミ。

『(ああ、やばい。めちゃくちゃ面白い)』

我が言葉ではあるが、これがツボに入ってしまった。一気に笑いが込み上げてくる。だが私は歯を食いしばり、下を向いて堪(こら)えた。堪えたのには理由がある。何故かその世界は《笑ってはいけない》という世界線でもあったのだ。

『(ああやばい。笑ってしまう。だめだ。これはまずい)』

全身全霊の力を使って笑いを堪え続ける。

『(というか、頼むからブラ外してくれ)』

ブラをつけた男はまだ片乳を隠した状態で頭を悩ませている。非常に滑稽である。勘弁して欲しい。私は笑いを堪えつつ、こんなに面白い事を言ったという自己顕示、そして道連れにする人が欲しいという願いを兼ねて、隣にいる男の耳元で囁いた。

『なあ、あれ見てくれ。伊達政宗じゃね?』

何を言わんとしているか察したその男は秒で下を向き、笑いを堪え出した。そして私の腹を肘で小突き、小声で

『変な事言うなよ。やめろよ』

と囁いた。それが相乗効果で更に笑いの力が強くなる。2人で笑いを堪えていると、それに気付いた更に隣の男が小声で

『どうした?』

と聞いてきた。事情を説明すると、そいつも下を向いて笑いを堪え出した。そしてそれは他の男達にも連鎖し、気付けばブラを付けた男以外の男全員が笑いを堪え、うつむく状態となった。

『誰か何か良い案出してくれよ!』

何も知らず片乳を隠した男が声を上げる。だが誰も言葉を発さない。いや、発せない。こっちはもう限界寸前なのだ。一言でも発すれば笑いが吹き出してしまう。

『なあ!何か言ってくれよ!』

『(頼むからブラ外してくれ!)』

そう切望しながら全身全霊の力で笑いを堪えていた。

ここで夢は終わり、目を覚ました。

『(・・・よく分からん夢だ・・)』

『(・・・何故あんなにツボに入っていたのだろうか・・)』

『(・・・一体・・あれの何が面白いというのか・・)』

布団の中でそんな事を振り返りながら二度寝をした。

という記憶である。

それからすっかりこの事を忘れてしまっていたのだが、少し経ってからこの夢の事を唐突に思い出した。

二度寝する前は《あれの何が面白いのか》と思っていたが、今思い返すとあの例えは悪くないと思った。いや、悪くないというか結構好きだ。なんなら

『(なかなかやるな、夢の俺)』

と、少し感心すらした。

いつか使ってやろうと思っている。

あんなシチュエーション2度と無いと思うけど。

おわり

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