生成AIとジャーナルクラブ 「ググる」の逆襲 (Gemini 1.5)編:第3回 番外編:MGH Case Recordの要約
主な対象者
本記事は番外編で、MGH Case Recordのエッセンスを抽出し、それに基づいた臨床推論の教育を研修医や専攻医に対して行う指導医(卒後6年目以上を想定)をサポートするプロンプトを紹介しています。
ノーコードで出来る内容を扱っています。
#ジャーナルクラブ #抄読会 #Gemini #ググる #プロンプト #臨床推論 #NEJM #MGH #AIとやってみた
本記事の画像はAdobe Fireflyを用いて生成しました。
はじめに
ジャーナルクラブもそうですが、カンファレンスでのレクチャーを用意するのも時間や労力のリソース投入が多く、自身の診療・研究や管理業務、および家庭との両立が求められる指導医にはなかなか大変です。
先日、Claude 3を活用してのMGH Case Record——New England Journal of Medicineで定期的に掲載されている——を素材とした教育コンテンツの骨格を作成するプロンプトを公開しました。
このテーマでも、Google AI StudioからGemini 1.5 Proに教育コンテンツを作成させることが十分可能です。Claude 3の時は有料版で利用できるOpus使用を推奨しましたが、Google AI Studioで無料で作成できることもポイントです。
Googleアカウントを持っていれば、上記のサイトから、中央の「Google AI Studioにログイン」のアイコンをクリック、次の画面で左側のサイドバーにある'Create new prompt'→'Chat Prompt'の順に進めていくと、フリーテキストでプロンプトの入力ができます。
開始時に、ファイルを添付する(この時、Googleドライブを使用します)か、URLのリンクを貼り、Shift+Enterとして、次のプロンプトを入力します。
プロンプト①——System Instructions
上記の手順で'Chat Prompt'を選択すると、中央の列の上段に'System Instructions'という項目があります。まずはここに、以下の内容を入力します。
(ここから)
#あなたは臨床経験豊富で教育能力にも優れた専門医です。論文査読にも優れています。
#添付したファイルの内容を、教育効果を最大化する目的でプレゼンテーションしてください。
#プレゼンテーションはプロフェッショナルなトーンでお願いします。
(ここまで)
この部分は以前のClaude 3を使用した時には「聴き手がワクワクして、次にどんな展開があるのか聞き入ることを目指してプレゼンテーションしてください」という指示にしましたが、Geminiではそれだとプレゼンテーションの型は一定残しつつも、語りかけるような調子になります。
それはそれで面白いのですが、普通の症例提示のスタイルにするために、ここでは「プロフェッショナルなトーンで」とお願いしています。
プロンプト②——症例提示〜鑑別診断とその考え方
ファイルを添付し、System Instrutionsを入力すると(ここまでは順不同)、本論へ入ります。
(ここから)
#一つずつ手順に沿って進めてください。まずは以下の指示を実行して下さい。
症例提示の部分を、以下の要素を含めてプレゼンテーションしてください。ただし、’Presentation of case’より後ろの部分で初めて提示される検査内容は含めないでください。
病歴:主訴、現病歴、既往歴、その他病歴(社会歴、家族歴など)。現病歴は患者の病像がリアルにイメージできるよう、症状や身体所見の詳細を時系列に沿って述べる。病歴の途中で医療機関を受診している場合は、そこでの主要な身体所見や検査所見、受けた治療とその後の経過についても簡潔に述べる。
身体所見:バイタルサイン、全身状態。以下、頭頸部所見、胸部所見、腹部所見、四肢所見、皮膚所見、神経所見について、情報が得られる範囲で過不足なくまとめる。
主要な検査所見:血液検査、尿検査、画像検査、その他のより専門的な検査
#続けて、以下の指示も実行してください。
鑑別診断についても、以下の要素を含めて、聴衆を魅了するプレゼンテーションを行う。
まず、症例提示部分のsemantic qualifierを挙げて、その症例の特徴を一文で表現する。
次にそれ基づいた鑑別診断を、症例提示の文脈に依存しない形で箇条書きで列挙する。
その鑑別診断に基づいた、診断のためのアプローチを述べる。病歴や身体所見をとる時の考え方、とり方のエッセンス、各情報の感度・特異度。もしあれば臨床予測規則も含めて説明してください。手法については、初学者が分かりやすいように、できるだけ具体的かつ詳細に指導してください。
続いて、ディスカッションに基づいて考えられる主要な疾患や病態を挙げ、各々について本症例に合致する所見と合致しない所見を列挙し、可能性の高さを検討する。
ディスカッションで触れられていないが重要な鑑別診断がある場合は、それについても同様に、本症例に合致する所見と合致しない所見を列挙し、可能性の高さを検討する。
鑑別診断を、疾患名、合致する所見、合致しない所見、本症例での可能性についてまとめて、表形式で提示する。
診断に至った決め手となった所見や検査結果を示す。その所見や検査の特性(感度、特異度、結果を修飾する要因など)について簡潔に要約して示す。
(ここまで)
Geminiにこのようなプロンプトで指示すると箇条書きスタイルとなる傾向があり、内容を膨らませるためにClaudeの時より指示は細かく出しています。
前半のプロンプトの構成は、プレゼンテーションに関する定番のテキストの内容を一部修正した程度のものです。「’Presentation of case’より後ろの部分で初めて提示される検査内容は含めないでください」と指示していますが、これ無しだと先のディスカッションで診断確定に至る検査結果まで提示することがあるため、制約を課しました。
英語で長い病歴・・・となると、それだけでどこから着手すれば良いか分からなくなりがちです。病歴の中の症状や時間経過などを、普遍的な医学用語(もちろん日本語で)に置き換えてまとめることで見通しが良くなります。この普遍的な医学用語をsemantic qualifierといいます。この言葉に関しては、例えば以下のリンクでも説明されています。
続いて、そのsemantic qualifierに基づいた鑑別診断とそれへのアプローチをまず挙げて、その上で症例のディスカッションに引きつけて検討してもらいます。ここはかなり幅広く挙げてくれます。やや最終診断を持ち上げた議論となる傾向がありますが、そこは後で少し修正しましょう。
プロンプト③——診断後の経過と考察、Take Home Messages
診断後の経過、症例の転帰と、いわゆる「お勉強スライド」、そしてTake Home Messagesです。Gemini 1.5だとここまで一気に作成することも可能なのですが、それだと「お勉強スライド」の内容が薄くなりがちなので、ここで分割しました。
(ここから)
#続けて、以下の指示も実行してください。
診断後の経過についても、以下の要素を含めて、聴衆を魅了するプレゼンテーションを行う。
診断に至った後に行われた治療と、治療法の適応について述べる。行われた治療が標準的な内容でない場合は、それを選択した根拠も提示する。
治療後の経過や転帰、フォローアップの要点を簡潔に記載する。
最終診断に関して、以下の内容について、一般的な内容と症例の文脈に関連した考察を、それぞれ詳細にプレゼンテーションする。全体で800〜1200字程度で要約してください。
疾患概念
疫学やリスク因子: 罹患率、有病率、地域差、主要なリスク因子とオッズ比/リスク比
病態生理: 発症メカニズムの最新知見、遺伝・環境・免疫の関与
臨床症状: 典型的症状、症状の多様性、症状と病型・重症度との関連。本症例における症状の考察
診断法: 推奨される診断アルゴリズム、各検査の感度・特異度。本症例における診断についての考察
治療法: 各治療法のエビデンスレベル、適応、有効性と安全性。本症例における治療法の選択についての考察
予後: 生存率、予後因子とそのハザード比、機能予後、再発率
#続けて、以下の指示も実行してください。
この症例から学ぶべき重要な臨床的ポイントや示唆を3~4つの箇条書きでまとめてください。
この論文のキーワードを5つ、ハッシュタグをつけて提示してください。
更に学びたい人へ、おすすめの論文を3~5個挙げてください。挙げた論文一つひとつに対して、特徴を一文で記載してください。症例報告の発表年から5年以内に出版された比較的新しい論文を少なくとも1つは含めるようにしてください。引用文献以外の論文を挙げてもOKです。バンクーバー方式でお願いします。この論文をデータベースに保存したいです。バンクーバー方式で記載してください。
(ここまで)
上記のうち、「お勉強スライド」の部分は、他の記事でも紹介している総説の要約プロンプトを転用しました。このくらい指示しないと記載があっさりし過ぎて使いにくいためです。
おすすめの論文で引用文献以外の論文も参照できるのは、Web検索ができるGeminiの性質を活かしたもので、Claudeには無い強みです。なお、頼みもしないのにPubMed IDを挙げてくることがありますが、ハルシネーション率が高い(つまり、全く違う文献のIDのことが多い)ので注意して下さい。
5/25 19:00追記
Gemini 1.5において、こちらで紹介した方法でおすすめの論文を提示してもらうと、ハルシネーション率が非常に高いことが判明しました。タイトルもバンクーバー方式の巻号記載も、全く存在しない論文を挙げられることが多いです。そのため、この記載は削除とさせていただきます。
それ以外の点では、十分実用性があると思います。
終わりに
ここまでのプロンプトを用いることで、ものの数分でMGH Case Recordを題材とした教育資料の骨格が出来上がります。あとは細かい部分の原文との整合性の確認をやったり、必要な図表を用意するなどすれば十分でしょう。最後の確認は人間が行う必要があります。その点は忘れないようにしてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後とも有益な情報を発信していきますので、応援よろしくお願い致します。