【hint.638】まさか「意味の無さに惹かれる」という話を
ん〜〜〜、なるほど〜。こういう展開できましたか。
西加奈子さんの『i(アイ)』、昨日、読了しました。
率直なところ、ここから先の話こそ読みたい!
この主人公が、ここから先の人生を、どのようにまた生き始めるのかをたっぷりと見せて欲しい!
と、それがいまの僕が、読んだ後に感じたこと。
* * * ネタバレ注意 * * *
主人公は、どんなに目立たないように生きようとしても、周りがすぐに勝手な「意味づけ」や、「やさしさ」を発揮して関わってきがちな特徴を持っていて、大体いつも、どこか力んだ関係性から始まってしまうことにうんざりしている描写はとても印象的だった。
自分の人生に、「意味」や「個性」を乗っけたいと願いつつ、どうしても「普通」と、ひとまとめにされてしまいがちな人との、感情の対比も印象的。
アイは(中略)iについて徹底的に学ぶうち、数学の静謐さ、美しさに完全に魅せられたのだ。
例えば語学や歴史にはどうしても意味が付加された。そして意味から広がる様々な世界は、最終的に必ずアイを苦しめた。無意味の中にいたいのとは違う、ただとにかく自身のことや世界のことを考えてしまう時間から解き放たれたかった。数学に意味がないわけではない。でも数字は数字以外の何物でもなかったし、数式は数式としてしか世界に存在していなかった。それらに没頭していると、他の声は消えた。その難解で、でもシンプルな時間を、アイは愛した。
(「『i(アイ)』著:西 加奈子 ポプラ文庫 2019年11月5日出版」より)
まさかね、「意味」とか「意味づけ」に触れたい!と思って小説を読んで、「意味の無さに惹かれる」という話を読まされるとは思わなかった。
でも、この感じはわかる気がする。
いまこの瞬間、目の前にある状況に対しての「意味」を感じられるといい、それはよくわかる。
だけど、そういう時間ばかりだとしんどくなってしまう、とか、自分としては今は意味のことを考えずに集中して過ごしたいのに、誰かが「意味の時間」を不意に連れ込んでくることが、ちょっと億劫に感じることってきっと誰にもある。
「いまこの瞬間、目の前にある状況に対して、自分の納得のいく、『適切に表現された意味づけ』がほしい!」
主人公の、その「意味の無さに惹かれる」というライフスタイルには、逆説的ではあるけれど、こういう強い気持ちが含まれているように僕は感じた。
たびたび繰り返される「どうして?」「どうしてなの?」という、主人公自身や世界に対する問いに込められた強いエネルギー。
シリアで生まれ、アメリカ人男性と日本人女性の夫婦のもとに「選ばれて」養子に来た主人公・アイ。
恵まれない環境にいつづけることになっていたかもしれない自分が、とても裕福でやさしい両親のもとへと「自分だけ選ばれて来た」という状況が、物心ついた頃から彼女の中に住み続ける。
「普通」であれば「当たり前すぎて考える機会が、きっとほとんどないこと」について、説明を求められる機会が何度もあることで、どうしても向き合わなければならないという一人の女の子、女性。
こういう人生もあるよなぁ、としみじみと考えさせてもらえた良い本でした。
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