
今オプションを売ろうとするあなたへ
あなたはプットオプションを売り新規に株式を買おうとしている方ですか?
それともコールオプションを売り保有株を売ろうとしている方でしょうか?
前者には「ターゲットバイ」、後者には「カバードコール」と素敵な愛称までついているようですが、私の話を5分だけ聞いてください。
オプション取引は証券会社や取引所によって積極的に宣伝されていますね。
しかしそこでの「指値の成否を問わずプレミアムという確定利益が付いてくるお得な取引」という説明は本当ですか?
今オプションを売ろうとするあなたへ。
オプションの売りで得られるプレミアムは、誰が何を目的にあなたに支払うものなのかを考えたことがありますか?
オプション売取引はプレミアムが必ず貰えること以外はふつうの指値取引と何も変わらないという夢のようなwonderland(不思議の世界)なのですか?
お答えします。
先ず、あなたが売るオプションを買ってプレミアムを支払ってくれる人は、平時を超えるような損失が発生する、または大きな利益が取れる時に備えて、小銭で喜ぶあなたを「保険」として利用する方々です。
すみません、失礼な言い方をして。
でもオプション売取引の推奨セミナーで使われるチャートを思い出してみてください。
いわゆるボックス相場で小さく上下を繰り返すものですよね。
要は保険機能が発動しないで済む相場です。
これであれば「保険引受人」のあなたは指値売買の繰り返しで利益を上げると同時にオプションプレミアムという名の保険料まで貰えて幸せです。
しかし上でも下でも相場が「突き抜ける」ことを考えたことがありますか?
オプションの買い手側はいつもそのことを考えています。
今オプションを売ろうとするあなたへ。
オプションを売るあなたは、まさか医療保険とかに加入していませんよね。
毎月何千円かの保険料を支払えば、病気や怪我の際にまとまった額の保険金を受け取れるやつです。
医療保険で保険会社が受け取る保険料は、あなたがオプションの売リ取引で受け取るプレミアムと同じです。
同様に予期しない病気や怪我の際に保険会社が加入者に支払う保険金と、大きな市況変動時に、オプションを買った相手の大損失をあなたが肩替わりする(またはあなたの大儲けを渡してしまう)仕組みも同じです。
よって私にはオプションを売り他人のリスクを引き受けるような勇気のあるあなたが、他方で医療保険などに加入するとは思えないのです。
2023年3月10日(金)の日経平均終値は6営業日ぶりの反落となり28,143円でした。
そして日本時間の翌11日(土)朝に、ある米銀破綻のニュースが飛び込んできました。
その直前まで週明けの株式市場に買いの指値を入れようと考えていた人は、このニュースによって週明け13日(月)朝は様子見を決めたことでしょう。
しかしプットオプションを既に売却済みの人はその取引ルール上、指値を撤回できませんので、なすすべもなく高値掴みとなったことでしょう。
この情景はオプション売り取引の本質を理解する上で重要です。
最新情報に反応して敏感に変動するマーケットに対しては「臨機応変な朝令暮改力」がとても大切ですが、オプションを売却してしまった人にその力はもう残されていません。
市況の急変が迫ろうとも、約束した(1週間などの)期間中に指値を撤回することは許されません。
それがプレミアムの代償ですから。
今オプションを売ろうとするあなたへ。
オプション売り取引は、魔法の国のwonderlandではありません。
それでも投資は自己責任ですから、目先の小銭欲しさにオプションを売るのはもちろんあなたの自由です。
しかし最後にもう一度「貧すれば鈍する」という諺を思い出して下さい。
追記:
私は過去から現在まで金融業界に関わったことがありません。
とある大手総合商社にて典型的な市況商品の現物グローバルトレーディングに長年携わってきました。
その仕事は「同業競争相手よりも高く買い安く売り自分も儲ける」スキル勝負の世界でした。
そのスキルとは商品市況に対する見越力、傭船力と共にいかに上手くオプションを取引先から取得するかというものです。
例えば、輸出者からは市況よりも多少高く買う代わりに購入数量に関して、輸入者には市況よりも少し安く売る代わりに商品受渡月に関して、一定の幅でオプションを個別交渉で獲得していきます。
しかしその商品市況がいわゆる凪(なぎ)の状態であると、いくらオプションを確保していても利用機会がなく少額な損失が発生します。
一方、市況が大きく動く時であれば、数量や受渡月のオプション発動を駆使して莫大な利益を得ることができます。
いわば小さく負け続ける中で、年に数回は訪れる大きく勝てるチャンスを活かして年間利益を確保するような仕事です。
このような職歴の私には、オプションの売取引を真顔で推奨する記事や動画等が筋の悪い冗談にしか映らないのです。