掌編小説 「2020戦争」
戦争が起きた。 どこの国がどこを目標に攻撃したのかはわからないーーが、瞬く間に戦火は広まった。
敵の攻撃から逃れるため、人々は息を潜めて暮らさざるをえなくなった。 日本はおろか、各国の防衛軍など全く役に立たない。
世界の首脳陣たちも戦争の経験などほとんどない者の方が多く、右往左往するばかりで鎮静化の方法がわからない。 それどころか責任の押し付け合いばかりしていた。
人々の暮らしも荒れはじめ、食糧や生活用品が不足し、買い占めや盗難、あるいは高額で売りつけるような輩が出るようになった。 他人にやさしさや思いやりの気持ちを持つ余裕もなくなり、とにかく自分が助かればいいと考える者が増えてきたのは、仕方のない事かもしれなかった。
倒れる者は日に日に増え、医療に携わる者は足りなくなり、あげくに学生まで駆り出されるようになった。
ところが、ある日突然戦争は終わりを告げた。いや、誰が告げたのかはわからない。とにかく襲撃される心配はなくなったのだ。人々は心身共に平穏を取り戻した。
だが誰も反省はしない。窃盗した人も、混乱に乗じて詐欺をした人も、そこまでではない小さな意地悪をしていた人も。そして皆言うのだ。
「あの時は仕方なかった」「そう、せざるを得なかった」と言い訳だけを口にする。