お薬のお話〜風邪に抗生剤は効かない
こんにちは、やま茶です。
しばらくお休みしていましたが、少しずつ復帰していこうと思います。
今回はずっと書きたかった記事です。
私が抗生剤について詳しくなった経緯
抗生剤と耐性菌を取り巻く環境
風邪に抗生剤は効かないどころか副作用のデメリットしかないよ(論文紹介)
それでも抗生剤は悪ではない
参考文献
上の順番で書いていきます。
知ってるよ!と言う方は論文だけでも見てやって下さい。
また、こちらの記事では、”抗生剤”と”抗菌薬”、両方使用しますが、同じものです。
”抗菌薬”が正しいのですが、”抗生剤”という言葉の方が浸透しているため、あえて使用します。
私は薬剤師なりたての頃、日本化学療法学会に2度程行き、e-learning講座も受講し、抗菌薬関連の本を何冊も読み漁って勉強していました(病院の感染症部門の仕事をしていたため)。
知識がついていき、だんだん見えてくるものがありました。
それは、ほとんどの医者は抗菌薬治療をあまり理解していないということでした。
治れば良い、とりあえずカルバペネム系抗菌薬(ほとんどの原因菌をやっつけてくれる)を使っておけば大丈夫だろう、そんな意図が透けて見えたのをしっかり覚えています。
日本化学療法学会でも、感染症専門医が足りないと課題を主張していました。
カルバペネム系抗菌薬を使うことの何が問題なのか、治れば良いではないか、そういう意見もありそうですね。
昔はそれで良かったのです。
そう、耐性菌の出現です。
菌は自分達が生き残るために、抗菌薬を無効化する酵素を出したり、取り込まれないよう構造を変えたりして変化します。
しかし、薬の開発には10年はかかり、近年では頭打ち状態1)です。
ということは、耐性菌による感染症にかかってしまった人は、治療法がないのです。
健康で元気な人は、自己免疫で回復できますが、そうじゃない免疫が落ちている状態の人(糖尿病患者、がん患者、免疫抑制剤を服用している患者、透析患者、著しい栄養失調の方、etc…)は、治療法がないのです。
ですから、カルバペネム系のようなほとんどの原因菌に効く抗菌薬を思考停止で使用するようなことは学会だけでなく厚労省も推奨しておらず、原因菌を想定してその菌に効く抗菌薬を使用する、また風邪はウイルスがほとんどですから健康な人の風邪に抗生剤は使わないことを推奨2)しています。
抗菌薬の開発が盛んだった時期に医師になった先生は、その後の知識のアップデートがなく、湯水のように外来で抗生剤を処方しています。
この傾向は日本だけでなく、世界的にそうです3)。
そんな世界情勢の中、風邪に抗生剤は効かないどころか副作用のデメリットしかないよ、というデータが次々に出てきました4)。
それを今回ご紹介しますね。
RCT論文は人によるバイアスが入らない前向きな研究ですから、質の高いデータです。
ここで言う副作用リスクとは、下痢やアレルギー症状のことです。
抗生剤の効果の方は、信頼区間が1をまたいでいますから、統計学的な差はないと言うこと(無治療も抗生剤治療も治りは一緒!)。
また、副作用リスクの方は、無治療グループと比較して、急性上気道炎では2.62倍高い(子供では統計学的な差はなかったそうなので成人データを使用しています)。
抗生剤は腸内細菌もやっつけますから、免疫向上に貢献している腸内細菌は温存しておきたいですね。
風邪はウイルスが悪さしていることがほとんどで、風邪の症状がキツければ、その症状に特化した薬を飲んで睡眠取って休んでいれば健康な人は回復しますから、これからは自信を持って医師に抗生剤はいりません(咳止めだけ下さい等)と言いましょう。
最初の方で紹介した基礎疾患のある方は、風邪を拗らせて肺炎を患えば、しっかり抗生剤は使用します。
また風邪(急性上気道炎)ではなく、蜂窩織炎や胆管炎、腎盂腎炎(膀胱炎は水分しっかり摂ればOKです)、心内膜炎等、別の感染症であれば抗生剤は必要です。
抗生剤は悪と決めつけず、必要な時は頼りましょうね。
以上、やま茶でした!
1)「薬が効かない感染症の時代」がやってくる.公益社団法人日本化学療法学会; 2015.https://www.chemotherapy.or.jp/uploads/files/seminar/openlecture2015report.pdf , (参照2023/6/15).
2)厚生労働省健康局結核感染症課編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第二版. 東京:
厚生労働省 健康局結核感染症課; 2019.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000573655.pdf , (参照2023/6/15).
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