小澤の不等式
小澤の不等式: ε(Q)η(P)+ε(Q)σ(P)+σ(Q)η(P)≧h/4π
ε(Q)は位置の不確定性、η(P)は運動量の不確定性、
σ(P)は運動量の量子ゆらぎ、σ(Q)は位置の量子ゆらぎ
ε(Q)η(P)は測定の不確定性(認識論的)
ε(Q)σ(P)+σ(Q)η(P)は量子ゆらぎ(存在論的)
量子論の位置と速度の測定の誤差には以下の2つがあります。 観測によって「不確定」になるもの。観測と関係なく、物体に備わっている性質として、ゆらいでいる(不確定)。 測定とは「位置の測定による速度のずれ」を知るには、「位置の測定」の後に「精度の完璧な速度の測定」を行う必要がありますが、この二つを立て続けに行うことで、「精度」と「ずれ」の二つをともに求めることができます。しかし、結局この2回の測定で「位置」と「速度」の測定がそれぞれ行われており、位置と速度に関する何らかのデータがこの一連の測定で得られるのだから、これは「位置と速度の両方を測るような測定」の一種だと言え、測定精度が完璧な測定をしてもなお、位置や速度はばらついてしまうというのが量子力学の本質的な性格であり、「位置と速度の両方を測るような測定」によって得られる測定結果は、元のばらつきよりもさらに大きくばらつきます。この「両方測るような測定」において、「位置の測定結果のばらつき」と「速度の測定結果のばらつき」とを掛け合わせたものが、ある一定の値よりも小さくできない、というのが「アーサー・グッドマン不等式」の主張であったのですが、 ただし、この不等式では実は測定の種類にある条件を課している。それは「精度が完璧な測定の場合の位置/速度の平均値」と「両方測る測定の位置/速度の平均値」とが一致するというものである(これを「不偏測定」という)。要するに、「両方測る測定」では、本来よりも値がばらついてしまう(精度が悪くなる)のはいいけれど、そもそも全体がごっそり横にずれてしまうような、そういうひどいタイプの測定ではいけない、ということである。 この条件があるので、アーサー・グッドマン不等式の議論では測定の誤差を「実際の測定結果のばらつきの度合いー精度が完璧な測定の際のばらつきの度合い」で定義できる。要するに、位置と速度を両方とも測ろうとしたために、大きくなってしまったばらつきの度合いが「誤差」として定義されているのである。 小澤の式は実験によって証明 中性子のスピン(自転に相当します)の異なる2方向の成分(x成分とy成分)とは,粒子の位置と運動量と同じく,「片方を測定するともう片方の乱れが大きくなる」というトレードオフの関係にあります。量子力学的に見て,両者の関係は同じ不確定性で表されるのです。長谷川准教授らは,まずある中性子のx成分を測定し,続いて同じ中性子のy成分を測定しました。 測定条件を変えていくと,x成分の測定誤差が大きくなるにつれて(測定1),y成分の乱れ(擾乱)が小さくなり(測定2),確かにトレードオフの関係になっています。注目すべきは実験パラメータが0の点です。x成分の誤差は限りなくゼロに近いので,ハイゼンベルクの式が正しければ,y成分の乱れは無限大に発散するはず。でも実際は1.5弱に収まっています(縦軸は測定値がh/4πの何倍かを表しています)。両者を掛け合わせるとh/4πより小さくなり,ハイゼンベルクの不確定性原理を破っています! 実際,上の測定ではどの実験条件でもxの誤差とyの乱れの積はh/4πより小さく,ハイゼンベルクの式はまったく成立しません。 スピンxとスピンyの量子ゆらぎは量子力学から理論的に求めることができ,実際の測定結果もよく一致しました。この値を用いて小澤の不等式の左辺を計算すると,どの実験条件でもh/4πを超え,小澤の不等式は確かに成立していることがわかりました。 今回の実験は,量子力学を覆すものではありません。超光速ニュートリノが本当だったら相対性理論はひっくり返ってしまいますが,ハイゼンベルクが間違えていたとしても,量子力学の基本方程式は変わりません。小澤の不等式はそれ自体,量子力学の枠組みによって成り立っています。ハイゼンベルクの式ではできないとされていた測定を可能にする小澤の式は,むしろ量子力学の可能性を広げるものと言えるでしょう。