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Chapter6:ITイノベーターとしてのニューミドルマン <1>(80年代生まれの音楽起業達)


『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2021年視点での分析を加筆していきます。 アーティストと対等なパートナーとなって、音楽活動を成功に導き、ユーザーを喜ばせ、自分もしっかり稼ぐ。そんな新時代型エージェントになる方法について本章では考えていきます。

 音楽に携わるニューミドルマンの目指す方向として、もう1つのとても重要な道があります。ITサービスの分野でイノベーションを 起こすことです。 欧米では、SpotifyもPANDORAもShazamもBEATSもすべ て、ベンチャー企業のサービスとして始まっています。 残念ながらエンターテインメントの分野で、これらに匹敵するよ うなサービスは日本から登場していないのが現状です。 本章では、スタートアップでも取り組める、日本に必要な音楽関 連サービスについてまとめました。洗練度の高い日本人ユーザーをベースに、世界で通用する音楽関連サービスが出てくることを 強く願っています。もちろん、僕に手伝えることがあれば、何でもやるつもりでいます。いくつか“場つくり”は始めています。 奇想天外なアイデアと強い意志を持って、新サービスで音楽を拡 張してください。

活躍する80年代生れの 起業家たち

 2013年に出版した拙著『世界を変える80年代生れの起業家』 (SPACE SHOWER BOOKS)では、可能性のある起業家を10人紹介しました。僕の目線で選んだので、音楽と接点のあるサービスも多く、 みんなそれぞれ頑張っています。彼らのその後を、ここで紹介しておきましょう。
 LyricaやDiscodeerと言った人気スマホアプリをつくった関根裕介さんは、FOGGという会社を設立して、iamというプロフィールサー ビスを始めました。そのバリエーション的にリリースした CHEERZというアイドル応援アプリがブレイクして、今、勝負に出ている印象です。マネタイズが難しいこの分野で、アイドル事務所とシェアしながら収益を上げているのは立派なことです。
 YouTube などのプレイリストをロボットのアバターで交換するというアイデアで始めた BEATROBO は、スマホのイヤホンジャックに挿してアクティベートする方式の特許を取って、PlugAir というスマホガジェットを開発しました。第二章で紹介したようにアクセス権をグ ッズ化できることになるので、CD プレーヤーを持っていない若年層向けの商品としてレコード会社から、ファン向けのグッズとしてTM NETWORK や倖田來未といった大物アーティストから利用されるようになっています。日本で製造を行なうなら、大手企業との提携が必要だと思い、ローソン HMV エンタテイメントをつなぐお手伝いをしま した。最近は、エンタメの世界でデファクトになるだけではなく、多方面で注目を集めているようです。
 スマホで誰でも簡単に多重録音ができる nana も、爆発的にユーザーを伸ばしています。パソコンを持っていない女子高生などが中心で、ニコニコ動画の“歌い手”のボジションが nanaに移っている印象です。 nanaフェスというリアルイベントも好調のようです。
 スタートアップと大企業をマッチングする creww は、日本テレビからの出資も受け、着実に実績を上げているようです。START ME UP AWARDS(P153 参照)にも協力してもらっています。
 平山和泉さんのワンプルーフも、EC 運用のコンサルティングとして目覚ましい伸びのようです。
 インディーズアーティストと音楽配信サービスをつなぐ、ソリューション提供型のアグリゲーションサービスTunecoreの日本法人 TunecoreJapan も着々と存在感を高めています。
 他にもプロ/アマの作曲家1万5千人超の会員を抱える“日本のSoundCloud” クレオフーガや、スマホチケットの tixee、女性向けのファッションキュレーション&セレクトショップの Locari など、それぞれ個性的なサービスです。
インディーズアーティストを応援するフリクルは、パーソナルレコメンドを行なう Lumit を開始しました。
 スタートアップが、当初の事業方針や主力商品を変えて方向転換することを“ピボット”と言いますが、BEATROBOのPlugAirや、 FOGGのCHEERZなど、機敏なピボットは成功への近道です。
 この10人を選ばせてもらったのは 2013年の初夏の頃ですが、あと数年で、何人かの成功組は出てきそうです。僕は投資家ではありませんが、5%くらいでほめられるスタートアップへの評価の中で、3 割打者になれたなら自慢できるなと楽しみにしています。
 もちろん、音楽シーンに刺激を与えてくれること、日本の広義のエン タメ、コンテンツ業界を活性化してくれることにも大きな期待をしています。
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2021年4月付PostScript
 ITスタートアップの世界では6年前は二昔前という感じですね。成功の基準をどこに置くのかは微妙なところですが、クレオフーガ改めAudioStock、crewwは本塁打と言えそうで、CHRRZとTunecoreJapanとnanaも確実に安打以上の結果です。投資したわけではないので、あくまで目利き力という意味ですが、過半が成功しているという現状は、スタートアップスタジオ代表になった僕にとって誇れる話です。彼等の近くにいさせてもらえたことで僕自身が成長することもできて感謝しています。
 これから彼等に続く起業家をどんどん輩出できるように頑張ります。

『世界を変える80年代生まれの起業家』はマガジンとしてまとめていますので、こちらもご覧ください!



 


モチベーションあがります(^_-)