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クリエイター・ファーストを目指して〜(株)CWF設立

 2019年6月に株式会社CWFが法人登記されました。プロ作曲家を育成する「山口ゼミ」のOBOG会であるクリエイター・コミュニティのCo-Writing Farmのエージェント機能の部分を法人化しました。これまで東京コンテンツプロデューサーズラボに事務を依頼し、DCUという組合の一部として運営していたのを独立させた形になります。
 山口ゼミでは、「相方」の伊藤涼と二人で、作曲家がもっとリスペクトされる世界をつくること、そのために、ビジネスの仕組みを理解し、責任を果たす、セルフマネージメントができる音楽家を送り出すことを掲げて6年間続けてきました。メンバーは130名います。Co-Writing FarmのメンバーがNexToneAward2019 GOLDMEDAL受賞など、メジャーシーンでそれなりの成果をだしているところで、ビジネス面にもクリエイターの参画を明確にするために、エージェント機能をガラス張りにして、作曲家自身が責任を持てる仕組みを目指すことにしました。設立時の代表は伊藤涼で、僕も取締役に加わりますが、Co-Writing Farmで選挙で選ばれたメンバーが取締役に加わり、すべてのビジネスプロセスを可視化します。作家から見てブラックボックスになっている箇所がないようにし、自分の入金ステータスなどをリアルタイムに知ることができます。エージェントフィーは20%に抑えて、自分たちでマネージメントするという姿勢の仕組みです。同時に、専属的な拘束は行わず、あくまで楽曲単位で窓口となるエージェント制で、構想した僕自身、日本では画期的と思える仕組みになったと思っています。設立して5年以上経つCo-Writing Farmは活発なコミュニティになっています。130人いますので、コーライトの組合せは無数にあります。CWF外部の作家との共作にも制限はないので、煮詰まらずに、活発な創作が可能で、年間100曲以上をコンペに提出する作家も珍しくありません。コンペを待つだけではなく、アーティストサイドに楽曲を聴いてもらう作家主軸の提案型デモ制作とか、会員同士の勉強会、研究会で現場の情報を共有し、スキルも磨いています。神奈川県真鶴町を拠点とするソングライティグキャンプでは、レコード会社のA&Rが泊まり込んで意見交換したり、アーティストがレパートリーを増やすために作家と共作したりすることもあります。欧米では一般的でも日本では稀な内容が当たり前のように行われるようになっています。

 お金に関しても、昔は、音楽家は契約のことはよくわからず、誰かがやっておいてくれるという依存体質と誰かに騙されているのではないかという猜疑心を持つ社会性が低いクリエイターも少なくなかった気がします。音楽業界のスタッフ側もそれを許容、時に促進していた側面があるのは、僕自身の過去の言動も含めて思います。音楽家を守ることとスポイルすることは紙一重なのです。クリエイターの立場でいうと騙されないことと他人に依存せず責任転嫁しないことはコインの裏表です。以前の日本の音楽業界は、性善説で牧歌的にそれなりにやってこれましたが、もうそんな時代ではありません。Co-Writing Famのメンバーには甘えは認めず、自分で責任を持ってもらうという方針にしています。そのために必要な著作権の知識や業界慣習は、専門家のスタンスで僕がきちんと伝えていきます。

 僕がこれからの時代の日本人音楽クリエイターに必要だと思うポイントは3つです。

1)ビジネス構造を理解し、責任をもって取り組む
 日本の音楽ビジネスは複雑ですが洗練された仕組みを持っています。世界に誇れる仕組みですが、デジタル化とグローバル化の進展で、時代にアップデートする必要な部分もたくさん出てきていて、改革が急務です。
 クリエイター自身がその本質と構造を理解して、クリエイテイブだけでなく、ビジネスにも責任を持つべき時代になっています。

2)最新テクノロジーの動きに敏感
 ポップミュージックはメディアの発展とともに変遷してきた歴史があります。トランジスタがなければエレキギターは無く、ロックミュージックは生まれませんでした。ラジオの普及が音楽の聴き方を変え、レコード産業を大きく発展させました。インターネット以降のデジタル化の波はそれ以前を大きく上回る速度と規模であらゆる産業に変革を促しています。音楽も例外ではないと言うか、むしろ音楽はインターネットの実験場の役割を担ってきています。
 JASRAC80周年記念セミナーで CISAC(著作権協会国際連合)代表で、著名DJ・プロデューサーのジャン・ミシェル・ジャールは、テクノロジーの対応の重要性を強調していました。偉大な音楽家の発言を待つまでもなく、音楽の聴き方がパッケージ(CD)からストリーミングサービス(スマホ)に変わっている状況の中、ユーザーが求めるものを知るために作曲家は音楽サービスによる聴き方の変化にも敏感であるべきです。デジタル活用でこれから出てくる新しい楽器やツール、プラグイン類は上手に消化して使いこなすことがアドバンテージになります。A&Rやアーティストに時代感が旬でカッコいい楽曲を提案するためはテクノロジーに関心を持つことが必須なのです。

3)海外市場も視野に入れた活動をする
 著作権使用料という意味では、日本は成熟した優良市場がまだ暫くは続くと思います。ただ、人口が減り経済成長率も低い中で、もう市場全体が伸びることは正直期待できない。作曲家に定年は無いのでライバルは減らない。スタートアップ的に言うとレッドオーシャン(競争が激しくてシンドイ市場)です。

 そんな日本人作曲家が期待するべき「のびしろ」は伸長している海外市場です。これまでは外国人作曲家が日本市場で活躍する「輸入過多」でしたが、これからは日本人クリエイターが関与した作品を海外市場に売っていかなければなりません。製造業や金融で遅れを取っている日本が世界に持っている優位性はクリエイティビティ(創造性)というの高さ特にその多様性だと僕は捉えています。海賊版天国だった中国でも有料サービスのストリーミングサービスが広まり、権利者に対して積極的に印税を発生させる動きをサービス事業者が見せています。中国は変わっています。ここで予言しておきますが、5年以内に中国を始めとしたアジア市場で年間1億円以上の印税を稼ぐ日本人作曲家は必ず出現するでしょう。僕はその一助を担いたいし、できれば日本人アーティストの海外活動や日本の音楽シーンの構造改革に繋がる機会にしたいと思っています。特に外国人作曲家とのコーライトは特にアジア市場の開拓に有効な手法でしょう。
 今年は、CWFがMCIPに企画協力して台湾人との合同キャンプをやりました。その模様はこちらにまとめています。(経産省も期待してくれていて、来年以降本格的に広めるつもりです。)LAで頑張っているヒロイズムとも連携するつもりですし、Co-Writing Farmメンバーの海外キャンプ参加も応援しています。
 海外との交流が広まると日本と欧米の出版権の業界慣習の違いという大きな課題が浮き彫りになるのですが、その話は別の機会に提言を含めて語りたいと思います。

 これらのことをまとめて「クリエイターファースト」というキャッチフレーズを掲げます。日本の音楽シーンにクリエイターファーストの精神と仕組みを広げたいと思っています。そのためにはいろんな方々と連携していきたいです。自分の現状に課題や疑問を感じている音楽家の方や業界関係者は遠慮なく御連絡ください。(株)CWFもまだ始まったばかりで試行錯誤中です。

 プロ作曲家育成の山口ゼミは継続しています。興味のある人は門を叩いてみてください。

◆山口ゼミ公式サイト
◆Co−Writing Farm公式サイト
◆Co−Writing Farm公式blog


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山口哲一:エンターテック✕起業
モチベーションあがります(^_-)