見出し画像

強い作家性とプロ魂を持つ気鋭の作編曲家宮野弦士に期待すること〜「山口ゼミ」講義録

 だいぶ時間が経ってしまいましたが、6月1日の「山口ゼミ」のゲスト講師を宮野弦士にお願いしました。全8回講義の内、ゲストを招いて対談的に話すのが2回というのが「山口ゼミ」の基本形なのですが、最近は、山口ゼミを卒業して、Co-Writing Farmで活躍している(採用をたくさん取っている)メンバーを2人呼んで、受講生にリアリティを感じてもらう回と、僕が話を聞いてみたい初顔のゲスト回というパターンにしています。上級コースの山口ゼミextendedの受講生やCWFメンバーの聴講する場にして、リアルで懇親会までやることにしています。
 宮野君は、専門学校の学生時代に、友人の浅田祐介さんが教えていたり、いち早く加茂啓太郎さんが「フィロソフィーのダンス」の編曲家に抜擢したり、近しい人たちが関わっていたこともあって、20代前半から存在は知って、注目していました。気づけばキャリアも10年になっていて、プロの作編曲家として、独自のポジションを築いています。僕自身、話を聞いたみたいなと思って、山口ゼミのゲスト講師を依頼しました。

作家性が強い理由は?

 事前にアンケートをお願いして、代表作を5〜6曲選んでいただきます。講義の前に予習しながら、質問内容を考えるのですが、宮野ワールドの濃さに改めて驚かされました。プロフィールに書いてある影響を受けた音楽と作品集が深く結びついているのです。

主に70年代,80年代の洋楽ロック、ファンク、フュージョン、AORなどのバンドサウンドを中心に、ハウス、アシッド・ジャズ、フレンチ・ディスコなどのダンスミュージックやネオ・ソウル、渋谷系音楽などにも強く影響を受けたダンサブルなサウンドを駆使し、ソロアーティスト、アイドル/アニメ/声優ソング、子供向け教育番組まで、多彩なフィールドでの音楽制作に携わっている。

宮野弦士プロフィール

 講義の中で生い立ちや音楽歴を尋ねていきながら、少しずつ僕の中で謎が解けていきました。音楽家の両親の元で、良質の音楽を聴いて育っていったこと、高校時代にバンド活動に熱中したいたことなど。そもそもルーツとしている音楽が1994年生まれにしては渋すぎます(笑)。30歳年上の僕の思春期の音楽的嗜好と近いと思ったのは、ご両親の影響だったのですね。だとしても自分の表現の軸になるところまで消化されるのは簡単なことではなく、素晴らしいなと思います。

キーボードを弾きながら具体的に語ってくれたのもミュージシャンらしかったです

 講座の中で語ってくれたことはめちゃめちゃ本質的でした。
「良い音楽を作るのは当たり前で、継続するためにそのために健康に気をつけています。」というのもプロとしての自負に溢れる発言でした。

こだわりの強さに懐かしさを感じる

 きちんと話すのは初めてなのに、何か懐かしさを感じている自分がいて不思議だったのですが、講義中に気づきました。僕が若い頃にマネージャーとして付き合った音楽家と同じバイブレーションを感じたのです。村上ponta秀一や佐山雅弘などのスタジオミュージシャンで稼ぎまくっていたミュージシャンのマネージメントをやらせてもらっていたので、様々な音楽制作の現場を経験しましたが、才能ある編曲家たちは音楽的なこだわりの強い人が多かったです。もちろん業界で活躍する売れっ子アレンジャーは、人間的な器が大きく、人当たりも優しいのですが、心の奥に自分なりの音楽のこだわり、いわば「偏屈さ」を内包していました。いつからかそういう「扱いづらい」音楽家は減っていって、「聞き分けの良い」人が増えたような気がします。
 宮野くんは、とても感じの良い音楽好きのナイスガイで、音楽関係者からは愛されるタイプのキャラクターですが、僕が若い頃に向き合った才能ある編曲家たちと同じこだわりを持っているのが感じられました。
 70~80年代の洋楽をベースに音楽性の高いポップスといった辺りに、自分のテリトリーを定めていて、そこで必要とされたらやりますよ、というマインドもすごくよかったです。

年収の上限を感じた才能ある音楽家は海外からも稼ごう

 受講生だけではなく、僕もたくさんのものをもらったこの日の講義でしたが、一つだけ僕が宮野くんに役に立てたかもしれないことがありました。
 健康維持や音楽性のことに関連して、「年収の上限が見えてしまった」との発言に対してです。「作曲印税をあてにしないので考えると、編曲料×年間にやれる曲数が見えている」という趣旨なのですが、編曲料の単価が上がらないという前提になっている発想に対して、「アメリカではトラック買取(≒アレンジ料)の相場は4000ドルだよ。実績あれば1万ドルとかも。アジア市場も伸びていているし海外の仕事やろうよ」と提案しました。「日本の会社も外国人トラックメイカーには払っているんだよ、ムカつくじゃん」とも。
 才能、実力的には世界中どこに出ても遜色ないはずです。30年位編曲料の定価相場が上がらない日本のレコード業界に依存せずに、自分の活動領域について、視座を上げようという意見は彼に届いたと思います。
 メジャーを自称している日本のレコード会社から支払われる編曲料の相場が30万円位(もっと安いことも珍しくない)日本に対して、4000USドルは今の円安だと60万円以上になります。宮野くんの計算式に当てはめると、年収が二倍になることになりますね。

 AI時代は「何でもできる値段が手頃なクリエイター」の価値は下がります。作家性=クリエイター自体にブランドがあることが重要になります。グローバルに活躍して年収も3倍くらいを目指して、長く音楽活動を続けて欲しいなと思った夜でした。改めて飲みながら、ゆっくり話したいです。

プロ作曲家育成「山口ゼミ」受講生募集中

 「コンペに勝つ」と「コーライティングを身につける」をテーマに、既存の業界でキャリアを積みながら、次世代での活躍にも備える作曲家を育てる山口ゼミは、現在1月期生募集中です。説明会は11/9です。興味のある方はどうぞ。11/19に「日本人作曲家がアジアで稼ぐには?」をテーマにした無料トークイベントやる予定です。上記のpeatixからお申し込みください。

モチベーションあがります(^_-)