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リアルとバーチャルの間には?芸術体験とテクノロジーのこれから。とりあえず、「無観客コンサート」って言葉はやめよう

 COVID-19の影響で世界中で多くの美術館が閉鎖されている中、進取的な団体やギャラリーがオンラインでのデジタルな展示に取り組んでいます。そのうちの一つ、ARのソリューションを提供しているスタートアップ企業CUSEUMが、興味深い調査を行ったというニュースです。神経科学の専門家が、芸術作品を鑑賞する際の神経学的知覚をAR、VRを通した体験と比較する実験を10カ月に掛けて研究によると「美的体験は作品のデジタル化によって損なわれないことを示している。ARの場合は、オリジナルの芸術作品を鑑賞するよりも、デジタル化したコピーの方が脳の動きが活性化される」とのことです。
 CUSEUM、CEOのBrendan Ciecko氏は「批評家は長い間、芸術の展示、鑑賞、創造に与えるテクノロジーの役割と影響について論じてきた。これまで、現実世界と仮想世界での芸術体験に対する人間の脳の反応の違いについての実証的な研究はなかった。今日、人間がデジタル経由でどのように芸術を知覚し、反応するのかについての理解で新たな節目を迎えた。あらゆる形式で芸術に触れられるようにするためのサポートを続ける。この研究により、芸術をバーチャルな世界で体験しても、その“オーラ”は失われないことが裏付けられた」と語っています。

 アートとは何かを考えさせられる非常に興味深い調査結果ですね。芸術作品の体験は脳神経の働きであるというのは誰もが理解できることでしょう。人間の知覚には「錯覚」もあり、脳みそで感じたことが真実だという考え方はおおむね納得できるでしょう。近年のテクノロジーの著しい進化は、しばしば「人間とは何か?」を掘り下げて考える機会を僕らに与えてくれます。「感動する」ってどいうことなのか、科学的な分析ができるようなってきて、その「感動」を誘発しやすい環境を提供するということも可能なのでしょう。AR技術を適切に使うと、「芸術鑑賞における感動」をより深くさせることができるのかのしれない、とこの研究成果は語っています。

 このニュースを読んで思い出しました。マツコロイドで一般的にも知られるようになった大阪大学の石黒浩教授を、SXSWの公式スピーカーとしてオースティンにお連れした時のことです。プロジェクトに関わって石黒研究室の皆さんとコミュニケーションをする機会がありました。ロボット研究の世界的権威である石黒さんとお話は、完全に哲学者の言葉でした、「人間とは何か?」(どこからはヒューマノイドで、どこまでは人間なのか?」で「コミュニケーションとは何か?」(わかりあっているつもりだけど、それはお互いの錯覚なのでは?)といったことを科学的に実証しています。脳味噌の皮が2〜3枚剥がれるような知的体験でした。
 すでにリアルとバーチャルというのは対立概念では無くなっています。どこまでがリアルでどこからがバーチャルなのか、線引きは簡単ではなく、グラデーションに繋がっているなと僕はよく思います。COVID-19の影響で、無観客ライブ(この呼び方はやめた方がいいですね。オンラインの向こうに「観客」はいるのですから)のオンライン配信が増えていますが、「リアル」なコンサートと「バーチャル」なコンサートはどこで線が引けるのでしょうか?
 東京ドームのステージから遠くの席で、プロジェクタースクリーンを観ながら、若干のレイテンシー(反響音の遅れ)を感じながら演奏を聴くのと、映画館の4K映像と5.1ch音響で楽しむのはどちらがリアルなのでしょう?映画館なら観客も隣りにいて、盛り上がります。自宅だと非日常感が無い?ライブの前にグッズを買うのが楽しみ?オンラインで代替体験は不可能ではありません。最終的には、自分の愛するアーティストのステージを深く感じることができるのか?脳神経が感動(move)するのかがコンサート体験なのだろう?そんなことを考えさせられるニュースでした。

 何があっても、音楽や美術作品から感動するという本質は変わりません。体験を増幅させることがテクノロジー活用でできるなら、それはサービスとして成立します。密を避けるために集まらないだけではない、新しいユーザー体験の創出にみんなで取り組んでいきましょう。

 podcastでわかりやすく話しています。是非、聴いてみてください!


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