見出し画像

アレサ・フランクリンの伝記映画『リスペクト』から感じるアメリカ音楽のルーツ

 映画『リスペクト』観てきました。素晴らしい音楽映画でした。音楽の歴史について考えさせられる映画でもあったので、個人的な体験も含めて、感想をまとめてみます。

 アレサ・フランクリンは、伝説上のシンガーという感じですが、長生きしていて2018年に76歳で亡くなりました。近年も、大きな記念碑的なイベントでは衰えぬ歌の力を見せてくれていましたね。初の黒人大統領が誕生した2009年のオバマ大統領就任式とか印象的でした。

 音楽はドキュメンタリーでも、『リスペクト』のような劇映画でも、
アメリカエンタメの奥深さをかんじる事が多いです。ともかくデティールが素晴らしいですよね。

牧師の説教はラップ、教会の礼拝はライブ


 アレサのお父さんが牧師で、教会で育って、ゴスペルがルーツにあるというは広く知られています。生家の教会での礼拝のシーンが何度も描かれています。非常にリアルでした。そしても今もあの感じが続いていると思います。
 僕は、2000年前後に塩谷達也というアーティストのマネージメントをしていて、ゴスペルのコンピレーションアルバムをレーベルを作って出したり、塩谷に「ゴスペルの本」という紹介本をYAMAHAから出版させてもらったりしていました。そのために、シカゴやニューヨーク、ニュージャージーの教会に行ったんですが、本当に映画の世界でした。礼拝に参加する時は、神様の前で一番良い服を着ることとらしく、ウエストが僕の二倍くらいありそうな黒人のおばちゃんが真っ赤なドレス着てたりします。一度の礼拝で1人か二人は、説教中にトランス状態になっています。牧師の説教はまさにラップだし、ライブのMCみたいにコールアンドレスポンスさせて煽っていきます。

コミュニティの中心である教会


 レコーディングはニュージャージーの黒人ミュージシャンにお願いしたのですが、普段はNYで第一線のR&Bなどをしごとにしている一流のミュージシャンが日曜日はボランティアで教会のバンドをやっていました。そりゃ演奏がイケているはずです。そして、興味深いのは教会がコミュニティの核になってることでした。みんな住む街を変える時に、引越して最初にやるのは、教会を選ぶことだそうです。教会のカラーや集まる人たちは牧師牧師の個性によって決まってきます。黒人牧師は社会的な指導者なんです。この映画のアレサのお父さんをみているとよくわかります。
 アレサ役のジェニファー・ハドソンもシカゴの聖歌隊出身とプロフィールに書いてありますが、アメリカの黒人教会の様子を見ながら、こんな環境で育ったら歌上手くなるよな〜って実感しました
 コミュニティをベースに音楽を作ることはコーライティングムーブメントと深いところで繋がっている気がしています。この肌感は「山口ゼミ」を始めて、コーライティングを掲げる時の僕の中の糧になっています。

一発録音時代のレコーディング

 ヒット曲を産んだアラバマ州マッスルショールズ・スタジオで、伝説のプロデューサーやミュージシャンとのやり取りが再現されています。レコーディングシーンも描かれているのですが、これもまたリアルです。同時に演奏して歌うというやり方なんですね。バンドがヘッドアレンジ、その場で作っていくやり方が、懐かしいし音楽的だな思いました。
 PCでDAWで自宅でできるようになったのは素晴らしいことだけど、スタジオで「せいのっ!」で録るスリル感も良いものだし、すごく音楽的だなと思いますので、その辺も注目してみてください。

今のBLMに繋がる黒人文化伝承


 黒人ミュージシャンが主役の音楽映画は、『サマーオブソウル』も、『メイキングオブMOTOWN』も何を見ても思うのですが、アフリカン・アメリカンの差別と迫害の歴史を誰もが背負って生きています。この映画ではネガティブにハマったり、素行が悪くなることの理由に「悪い虫が棲んでいる」という言い方をしていましたが、僕は「アフリカンアメリカンの業」を感じました。
 アレサが黒人の権利向上の活動に積極的だったことでも有名ですが、マーチン・ルーサー・キング牧師とお父さんが友達だったのは知りませんでした。連綿と連なる歴史を感じる話ですね。

 僕らが普段「音楽」という言葉を使って指すもの8割位のものは、アフリカン・アメリカン由来の文化から始まったものです。アメリカ大陸で、ヨーロッパの白人文化と融合してつくられたものがルーツです。ここで描かれているゴスペルはその筆頭だし。ブルース、ジャズ、ロック、R&B全部そうです。
 何度も書いてきていることですが、

 アフリカから奴隷と連れてこられた黒人たちが、西欧から移り住んだ白人の音楽と混じり合って、ゴスペル、ジャズ、ブルース、ロックといった、ポピュラー音楽のアートフォームが生まれた。その音楽がアメリカ資本主義とともに世界に伝播した時代にアジアの極東に生まれ育った僕は、その魅力に取り憑かれて、人生を踏み間違えて音楽を仕事した。

 というのが僕の人生です。なので音楽が好きな人にとっては、アメリカの黒人の問題は他人事ではない訳です。僕にとっても自分の問題として受け止めています。Black Lives Matter 関連のニュースに対して「でも、あの黒人は犯罪者だよねー」みたい捉え方する言う人は、絶対仲良くなれないですww

 アメリカ音楽シーンについて考える時は、黒人文化と歴史もわかってないと考察は深まらないので、音楽好きな人には是非観てもらいたいです。
そんな難しいこと言わずとも、素晴らしい音楽映画です。

podcast「EnterTech Street」はRADIO TALK、Spotifyなどで配信しています。ブックマークをお願いします。




いいなと思ったら応援しよう!

山口哲一:エンターテック✕起業
モチベーションあがります(^_-)