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メタバースと音楽。xRテクノロジーが変える音楽表現と音楽が牽引するバーチャールワールド

 考え事をする時に、最初にグーグル検索することってよくありますよね?
最近、「XR、音楽」でぐぐったら自分の記事に遭遇しましたww

 一昨年末から昨年始めにかけて、「MusicTechがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」というタイトルでMusicman-netに寄稿させていただいたものの一つです。読み直してみたら、その予見の方向で概ね進んでいることが確認できたので、引用しながら、ここでアップデートします。

 前掲のコラムはコロナ禍の前に書いたのでリアルイベントに制限がかかった今こそ大切だなと思います。メタバースという言葉も広まってきて、テクノロジーと音楽の「新たな蜜月」が始まる予感が強まる2021年ですね。

テクノロジーの影響で進化してきて音楽の歴史

 音楽の歴史を振り返ると、クリエイティブとビジネスのどちらも、メディアやテクノロジーの影響を受けて変化していることがわかります。トランジスタという発明があって、ギターアンプとエレキギターが生まれなければ、ロックは登場していたでしょうか? ラジオ局ができたときに、音楽を放送することを当時のレコード会社は大反対したそうですが、実際はラジオの普及とともに、アメリカのレコード産業は大きくなっていきました。既存勢力のテクノロジーへの判断は誤る事が多いという証拠ですね。

 レコード会社のビジネスモデルは、録音物を普及させるメディアとしてのアナログレコードやCDによってできました。デジタル配信、ストリーミングサービスが音楽体験の中心になることで、これらのパッケージビジネスは音楽ビジネスの主役ではなくなっていますが、テクノロジーの進化とともにユーザーの音楽体験や楽曲の流通システムが変わっていくのは歴史的必然です。音楽にとって視点では、VRやARもメディアの変遷という文脈で捉えるのが適切でしょう。

音楽にとってのAR/VR/MRは?

 最近は、VR/AR/MRをまとめてxRという言い方がされるケースが増えてきました。メタバースという概念は「Second Life」というサービスがでてきた時に大きく注目を浴びました。

 VR(バーチャルリアリティ)の日本語訳は「仮想現実」。特別な機器(デバイス)を通して映像を観聴きして、仮想世界に没入できることを指します。デバイスは専用端末を使ったリッチな体験と手軽なスマホを活用した簡易型の2種類に分けることができます。

 前者のハードは、ゲーム業界が牽引しています。具体的にはSONYの「プレイステーションVR」、台湾のスタートアップによる「HTC VIVE」Facebookが買収した「Oculus」などがあります。後者で言えば、スマートフォンを活用して専用メガネにする「ハコスコ」など、簡易型の手法も多く見かけるようになってきました。

 「拡張現実」と訳されているAR(オーギュメンテッドリアリティ)は、注目されながらなかなか広まらなかったのですが、「ポケモンGO」の大流行で一気に一般化しました。「ARって何?」という質問にはポケモンGOを見せて、現実にデジタルキャラクターなどを組合せることだよといえば、誰でもピンときてくれますね。

 数年前からMR(ミックスド・リアリティ)という言葉も使われるようになりました。日本語では「複合現実」。厳密な定義は難しいように感じていますが、現実世界を踏まえながら、ARの範疇を超え、VRの持つリアルさを組合せた世界ということのようです。microsoft社のHoloLensが牽引しています。

 これらは、いずれも技術革新が産み出した新たな表現です。技術が進歩して、人間の視覚能力を上回って欺けるようになった言うのが正確かもしれません。例えば、自分の頭の動きから0.02秒以内に追いついた映像は、普段感じている見方と同じと脳は認識するそうです。もう錯覚とは呼ばないということですね。

 最近は、VR、AR,MRの3つの総称としてxRという言い方もされるようになってきました。VRについては、エロ(アダルトビデオなど)とゲームが牽引して、ハードの普及が進んでいるように思います。FaceBookによるoculusの高額買収からもう5年が経ちました。ITプラットフォーマーからの注目度も非常に高いです。

 メタバースの日本語訳は「仮想世界」。Facebookが、自らをこれからはメタバース企業になると宣言し、5000億円以上という桁外れの投資を行うとのことで、一気に加速しそうな気配です。リアルなユーザーの人間関係が構築されているFacebookがその関係性を活かして、仮想世界を構築するというのは、迫力のある話ですね。具体例を示しながらの徳力さんの記事がわかりやすいので紹介します。

リアルとバーチャルはつながっている

 もはや、随分前から、リアルとバーチャルは対立概念ではありません。グラデーションになって繋がっているというイメージで捉えるのが正しい感覚でしょう。

 音楽分野でわかりやすいのは、コンサート体験のアップデートです。通信規格5Gとの相乗効果でコンサートの楽しみ方自体がアップデートされていきます。
 ドームやアリーナで後ろの席にいて、ずっとスクリーンを観ていたという経験は皆さんお持ちかと思います。スマホやタブレットでステージ上の様子が観られるならそうしませんか? では、数万人収容のホールにいる意味はなんでしょうか?
 一番は、客席にいる観客の熱気が感じられることでしょう。では、別会場で数千人がいて、みんなで大画面で高音質で同時にステージを観ていたら、それはリアルなライブでしょうか?バーチャルでしょうか?

 まだお試し感がありますが、実際にこういうサービスは始まっています。よく考えてみると、既にリアルとバーチャルは既に対立概念ではなくなっていて、どこまでがバーチャルでどこからがリアルか線引が難しく、グラデーションにつながってきています。東京ドームでスクリーンの映像と、高臨場感高解像度の映像を他の場所で観ることの違いは何かということですね。

 Covid-19の感染症対策のために、リアルのコンサートの実施には制約がある状態が続いています。満員電車のようなすし詰め感をライブハウスで楽しむことや、モッシュなどの身体接触を伴う動きはまだしばらくできそうもありません。
 一方で、スマホとヘッドフォンでアーティストの表現に触れることができる「オンラインコンサート」はデジタル技術を駆使した演出も伴って。これまでにない新たなユーザー体験を可能にしています。
 「コロナでリアルにやれない方仕方なくオンラインで」という感じで始まった側面も否めませんが、徐々に新しい市場を切り開きつつあるようです。僕が代表のStudioENTREを母体に生まれたサービス「FAVER」は、アーティストとファンの間で両方に向き合いながら、新たな体験と市場を作る「デジタルイベンター」のポジションを取り始めていますので、ご注目下さい。音楽への愛情とアーティストへの理解、音楽ファンへのリスペクトをもった事業者が取り組むことが成功の鍵だと思います。

テクノロジーはクリエイティブを刺激する


 もう一つ、わかりやすく起き始めているのが、Music Videoのアップデートです。新しい表現にいち早く挑戦するアーティストBjorkは、2016年にVRのMusic Videoをリリースしています。

彼女の言葉を借りれば「私は、テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているのね。そのツールを開発できる立場にいるのなら、それをしない理由はないわ。」とのこと。

 全くその通りだと共感したのを覚えています。ユーザーを巻き込んでインタラクティブ(双方向)感のある映像表現がxRを使うと可能になります。音楽家が動画も活用して表現をしていくということは、MTVとともに確立されたMusic Videoの再定義につながっていくでしょう。

テクノロジーの進化は生態系のUPDATEを呼ぶ

 ITサービスにおいては、音楽はコミュニケーションを促進する手段として捉えられています。ユーザー同士のコミュニケーションを誘発することは、プラットフォーム事業者にとっては非常に有益です。音楽ビジネスにとっては、アーティストとファンのエンゲージメントが強まることが収益増加にも、マネタイズ期間を長くするにも望ましいことです。

 ユーザーが音楽を楽しむ環境が、xRプラットフォーム、メタバース世界に移行することは、音楽ビジネスにとっても大きなチャンスです。FacebookはSpotifyと属人的に関係が深いことが知られています。メタバースになったFacebookのユーザーコミュニケーションにおいて音楽はどのように聴かれるようになるのでしょうか?Spotifyはメタバース仕様に進化できるのか?そもそもメタバースの中ではどのように音楽が楽しまれるのか?大ヒット中のアニメ映画『竜とそばかすの姫』では、メタバース空間で主人公のアバターが世界的な大スタージンガーになる様子が描かれていました。アニメが未来を予見してくれています。

 テクノロジーの変化によって、ビジネスの生態系が大きく変化する際には、「登場人物とその役割」が変わり、大きなビジネスチャンスが訪れます。変化に機敏に対応するのは起業家の構想力であり、バイタリティです。
StudioENTREの「MusicStartUp Incubation」では、そんな音楽ビジネス生態系の構造変化で新たな主役を狙う起業家を求めます。知見のある人達のセミナーを呼び水に、事業計画を立てていくインキューブベーションプログラムです。ENTREに採択されたプランには予算が付けられて、仮説検証に進みます。構造変化のチャンスに取り組む若き起業家の参加を切望します。

 2030年をメドに、日本発の音楽がグローバル市場で成功できる基盤を作っていく、生態系のアップデートに繋がる事業を生み出すというテーマを掲げて「ENTRE MUSIC VISION」を発表しました。
 もうあまり時間はありません。頑張ります!

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山口哲一:エンターテック✕起業
モチベーションあがります(^_-)