待合室のミュージカル
病院の待合室
整形外科だから相対的にご年輩が多い
大きい病院にしては通路も狭く
職員さんやら何やらひっきりなしに出入り
そんな中、お婆とご子息らしき2人組
特に大きな声ではないだが声が低くて
狭い空間をピンポン玉の様にこだまする
20年前の自分だったらイライラし
『 ちょっとボリュームしぼらんかい、おのれの家か?』
など突っかかってたかもしれない
もしくは『ああ可哀想な方々、自分を客視できない、おお神よ 』等と貧乏揺すりをしていただろう
耳を済ませはなんてことは無い
ただ世間話を延々と繰り返しているのだ
家の情報丸見えよ、という程に
こんだけ喋っていられる親子は安泰だと
素直に思えて苦笑さえした
ただあまりにも長すぎる!
途切れることがないのだ おばあは大丈夫かと
心配になりさえした
それも取り越し苦労
2人とも看護師さんに丁寧に挨拶し去っていった
ああ、こんなに静かだったのね……
とは束の間
なにやら左から昭和ムード鼻歌歌謡が聞こえている
おじ様がひとり鼻歌カラオケをしだした
病院という閉鎖的空間かつこのご時世
鼻歌がついて出るなど羨ましい限りである
何の歌かはわからない
というかそれが鼻歌というものだ
診察を終えて戻るととまた歌い出す
何の歌かはわからない……
かように私の待ち時間は都合3人のお陰で
心理的時間はとても短いものだった
中にはこの3人を疎ましく思っていた人も
少なからずいたろう
かく言う自分も状況によっては
ため息や咳払いの2つや3つ……
ともかくも許すことができた
ガンジーさん程高尚ではないが……
どんな人間もいるものだ
それぞれ安穏としていれさえすればそれでいい
帰路、本屋へ立ち寄った
何故か手にはアドラー心理学の本が
一章の見出しには
人間を知ることで、人間関係の問題はきえてゆく。
と記されている
おい、ちょっとまて
許すと言って、また悩み出したのか?
さっきの追体験をしたいのか?
私もそう思われてるはずだ
どんな人間もいるものだ、と
おしまい