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胡椒の呼称 沖縄

謎の香辛料


ヒバーチ、ピィヤーシ、ぴーやし、フィファチ、ピパーツ、ピパーチ、ピパーズ…。沖縄~八重山地方を旅すると見慣れない香辛料を目にします。これらはすべて沖縄での島胡椒を指す言葉です。ではなぜこんなにもたくさんの呼び名があるのでしょう。

島胡椒の数々。中身に違いはあるのかな

出会いは「ピィヤーシ」


ピィヤーシ?なんだろう。初めて見たのは石垣島の離島ターミナル近くの郷土料理店でのこと。メニューに「ピィヤーシ焼きそば」とあり、何だろうと思って頼んだところなにか不思議な香りが。その香りこそが沖縄県地方に自生する「島胡椒(ヒハツ、和名ヒハツモドキ)」、商品名ピィヤーシだったのです。見るとテーブルの上にもピィヤーシと書かれた小瓶がありました。胡椒といってもシナモンに近い甘い香りです。「珍しいものがあるなあ」と思いました。

ピィヤーシ焼きそば=2012年、沖縄県石垣市の山海亭で


 そして帰りの日。旧石垣空港1階の食堂で休んでいるとテーブルの上にまたまた島胡椒が置いてあることに気づきました。
 
「ぴーやし」
 
あれ、ピィヤーシじゃない。

ぴーやし(「し」の字が隠れてしまいました、ゴメンナサイ)=2012年、旧石垣空港で

何がどう違うのか


それからというもの旅行のたびにそれぞれ名前の違う瓶入りの島胡椒をこまめに買って来ました。でも何だかみんな同じような気が…。粗挽き、細挽きに似た違いや色に微妙な差はあるものの、味や香りにほとんど違いはないなあ。それなのにラベルに書かれた商品名が何種類もあるのはなぜだろう。帰京して沖縄物産を扱うショップに出掛け話を聞いてみました。
 
「ここに並んでいる香辛料ですが、ラベルは違っていても中身はほぼ同じような気がしますが」
「はい、すべて『島胡椒』です」
「ああ、そうですか。でもなぜ呼び名がいくつも?例えばヱスビーでもハウスなどでも胡椒のラベルはコショーやこしょうですよね」
「あ、これはそれぞれ島胡椒(ヒハツ、和名ヒハツモドキ)を指す方言なんです」
「えっ、方言ですか。方言といいますと、例えば島の北と南で言い方が違うとか、そういうことですか」
「はい、そのとおりです」

同じ島内にも方言が


というわけで、呼び名の違いは方言で、方言がそのままラベルになっていることがわかりました。島にも方言があるんだ!まあ落ち着いて考えてみれば当然のこととはいえ、それを聞いた時は少し驚きました。
 
例えば那覇~名護(いずれも沖縄県)の距離は69.5キロ。これを東京から同距離に置き換えると東は横芝光町(千葉県)、西は大月市(山梨県)、南は南房総市(千葉県)、北は館林市(群馬県)、大体そんな感じになります。そしてその何れの地方も東京とは異なる言い回し(方言)があります。大阪なら東は伊賀市(三重県)、西は加古川市市(兵庫県)、南は有田川町(和歌山県)、北は京丹波町(京都府)。ましてや沖縄本島~石垣島などのある八重山地方だと440キロ近く離れていますので島胡椒(ヒハツ)の呼び名が違っていても何ら不思議ではないと思い至りました。
 
それにしても、例えばの話ですが、東京と埼玉と千葉で採れるトウガラシの呼び名がいくつもあるわけではないのに沖縄の島胡椒には名前が非常にたくさんある。ラベルですので商標とかの関係もあるのかも知れませんが、やはり不思議といえば不思議です。
 
ピパーチとヒバーチは石垣島、ピィヤーシとぴーやしは竹富島、フィファチとピパーツは沖縄本島(いずれも製造所の所在地)。他にピパーズ、ヒハチ、ピパチもあるようですが、こちらは賞味したことがありません。
 

わずか5.43平方キロの島にも2つ


さらに、それにしてもです、石垣島の面積は222.94平方キロ(有人島嶼部)で千葉県南房総市の230.12平方キロに比べやや小さい位なのに島胡椒の「方言」が2つある。さらにさらに竹富島に至っては面積がわずか5.43平方キロと更に小さいにもかかわらず、「ピィヤーシ」「ぴーやし」と2つある。
 
方言とはいえ、狭い1島内でもなぜこんなにも変化するのか。全部でいくつ呼び名があるのか、出回っている商品はいったい何種類なのか。いまだに胡椒の呼称に悩む毎日です。

食べたもの


アダンの天ぷら
実はお店には2回行っており、こちらは2002年におじゃました時のものです。(ピィヤーシ焼きそばを食べたのは2012年の再来店時)
アダンは亜熱帯の沖縄地方でよく見かけるタコノキ科の常緑小高木。海岸近くの防風・防潮や街路樹として利用されていますが食用にも。

アダンの天ぷら。芽の部分を使います=2002年、沖縄県石垣市の山海亭で

これがアダンの木

海岸の防風・防潮林や街路樹などに見かけます。

アダンの木=2010年、沖縄県読谷村の残波岬ロイヤルホテル(現グランドメルキュール沖縄残波岬リゾート)で
アダンの実。熟すと黄色くなります=2016年、沖縄県石垣市のフサキビーチで


ええっ、こんなもの食べられるのかい?
 
安心して下さい。木を食べるのではなく、食べるのは新芽の部分です。採れる量は当然少ないので希少な食材といえるでしょう。(木も皮のすぐ下の部分も食べられるそうですが、そちらはメニューにはありませんでした)
 
味はあるのかないのか淡白なタケノコのような食感でした。(鋭い味覚をお持ちのグルメの方ゴメンナサイ)

オオタニワタリの天ぷら

オオタニワタリの天ぷら=2002年、山海亭で

絶滅危惧種じゃないの?


オオタニワタリは絶滅危惧種です。でも安心して下さい。八重山地方で食されるオオタニワタリはヤエヤマオオタニワタリで、こちらは絶滅危惧種ではありません。山野の至る所に生えています。

オオタニワタリとして食されるヤエヤマオオタニワタリ=2012年、石垣島で

わずかな苦みと甘味、まさに山菜の天ぷらって感じでした。

焼いて食べたのはこちら。

焼肉と一緒に=2016年、ホテル日航八重山(現アートホテル石垣島)で

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