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武蔵野美術大学 CI学科 卒業制作展2024 -連なる、広がる、巡る創造の軌跡-

デザインやアートが、社会とどのように関わることができるのか。その問いに挑む武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科(CI学科)の卒業制作展を訪れた。今年のテーマは「連なる、広がる、巡る」。学生たちが作り上げた多様な作品を通して、創造が社会とどうつながっていくのかを体感してきたので、展示の様子をお届けする。


武蔵野美術大学 CI学科 卒展とは?

CI学科の卒業制作展は、学生たちが4年間かけて培った思考と実践の集大成を発表する場だ。
デザイン、アート、ビジネス、テクノロジーなど、領域を横断するような作品が並ぶのが特徴。単なるビジュアル表現にとどまらず、社会課題や未来の可能性に切り込む提案が多く、見る人に新たな視点をもたらす展示となっている。

みんなでスッキリするための自治的デモンストレーション

まず目に飛び込んできたのは、白い壁に囲われた空間とその中にあるトイレ。
「みんなでスッキリするための自治的デモンストレーション」と題されたこの展示では、公共空間におけるプライバシーや自己決定権のあり方を問い直していた。

壁に掲示された「障壁」「自治」「システム」というキーワードが示すように、トイレという身近な空間の設計には、個人の尊厳や社会のルールが深く関わっている。普段何気なく利用している公共トイレも、誰のために、どのようにデザインされるべきかを考えることで、より公平で快適な形に変えられるのではないか。「自治」という言葉が強調されている点も興味深く、単に利便性を享受するのではなく、利用者自身が主体的に公共空間のあり方を考えることの重要性を示唆しているようだった。

トイレという個人的な空間が、実は社会の価値観や意識を映し出すものであることを改めて考えさせられる展示だった。

「かわいそう」の感情をデザインする -ネガティブからポジティブへ-

この作品は、「かわいそう」という感情に含まれる複雑な側面を探求し、それをポジティブな意味へと変換する可能性を模索していた。日常生活やニュースの中で耳にする「かわいそう」という言葉は、時にネガティブな意味を持つが、その背後には「共感」や「思いやり」といったポジティブな感情も含まれている。
この作品では、「かわいそう」を単なる哀れみではなく、他者を理解し、社会との関わりを見直す契機として捉え直すことを目的としていた。

展示では、「かわいそう」という感情がどのように生まれ、どのように受け取られるかを分析し、そのプロセスを可視化していた。特に、物理的な形として表現された「溶けて形が崩れたキャンドル」は、「かわいそう」と感じさせる要素を持ちながらも、そこに美しさや新たな価値を見出せることを示していた。さらに、感情の変化を促すデザインの可能性についても探究され、単なる研究ではなく、具体的なアプローチとして提案されていた点が興味深かった。

この作品を通して、私たちが普段何気なく使う「かわいそう」という言葉が持つ力や、それをどう解釈し、受け止めるかによって、物事の見え方が変わることに気付かされた。ネガティブな感情をポジティブに変換するデザインの可能性を感じさせる、興味深い展示だった。

個人の経験が組織の創造性を変える -インフォーマル情報の活用-

この作品は、「個人が日常で得たインフォーマルな情報を、いかに組織の創造的な問題解決に活かせるか」を探る研究だった。

組織内での創造性向上には、正式な業務プロセスだけでなく、個人の雑談や趣味、日々の経験が重要な役割を果たす。研究では、広告代理店やコンサルティング企業を対象に調査を行い、社員同士の何気ない会話や個人的な活動が、どのように新しいアイデア創出につながるのかを分析していた。

特に注目されたのは、個人の持つ情報が共有されることで生まれる視点の多様性と、それを組織に自然に浸透させるための「Ritual Design(儀礼的デザイン)」の重要性だ。単なる情報共有ではなく、発想が誘発される環境を整えることで、より創造的な問題解決が可能になると示唆されていた。

個人の知識や経験をどう組織の力に変えていくか。そのプロセスを可視化し、具体的なアプローチを提案する展示だった。

最後に

武蔵野美術大学 CI学科の卒業制作展では、「デザイン」という概念が単なる視覚表現やプロダクトの造形にとどまらず、社会や個人、感情、情報との関係を深く探求するための手段として機能していることを強く感じた。

私たちは日常の中で、意識することなくデザインされた環境に囲まれている。建築やグラフィック、インターフェースといった形あるものだけでなく、情報の伝達方法や社会の仕組み、さらには感情の動きさえも、デザインによって形作られていると考えると、その影響力の大きさが浮かび上がってくる。この展覧会では、そうした日常に埋もれがちな「デザインの意図」を掘り起こし、私たちがどのように空間を使い、情報を受け取り、感情を抱いているのかを改めて意識させるような試みがなされていた。

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