動物の進化と脳機能
系統発生をみてみると、すべての移動する動物には脳幹−脊髄が存在しています。
○脳幹−脊髄:ヤツメウナギみたいな生物ですね。
○脳幹−脊髄−基底核:ワニみたいな両生類四肢を使ってます。体幹の動きはヤツメウナギにつながるものがありますね。
○脳幹−脊髄−基底核−辺縁系:猫とかです。体幹の動きは多彩になり重心も高い。
○脳幹−脊髄−基底核−辺縁系−皮質:猿とかになります。かなり重心は高くなります。重心は高いのですが、体幹の動きは側屈回旋が乏しい印象もありますね。
○脳幹−脊髄−基底核−辺縁系−大きな皮質:人。かなり重心は高い。体幹の活動も多彩になります。
で、脳幹は移動、皮質は抗重力姿勢(立位)という大雑把な理解はできるということです。
人は発達の段階で系統発生を繰り返します。胎児のときは魚ですね。このときの動きは単純な屈曲と伸展(エビのような動きをイメージしてます)。
3ヶ月では脳幹と基底核の連絡の発達により爬虫類のような動き、左右の側屈と僅かな回旋による交互性の四肢の動き。
10ヶ月では、脳幹と基底核の働きをベースに基底核と辺縁系の連携が取られてきて四つ這いへ。四足獣である猫などです。抗重力性を獲得し、ワニなどと比べて視野は高く、空間の情報処理が環境適応のために利用され始めます。高さや奥行きなどの情報はリーチを可能にします。猫は手で遊びますよね。犬は口なんですけれどね。これは、前肢を持ち上げる際に後肢と骨盤への重心移動と脊柱の伸展活動の強さを示しています。そうすると、犬より猫のほうが皮質の発達はしているのかもしれないですね。バランスが多彩ですから。犬は平面を早く走ること捕食するように適応し、猫は木に飛び移り、身を潜めそっと獲物に近づいて捕食する。うーん。こういう表現をすると、猫が賢くて犬はお馬鹿さん風ですね。
ま、猫も高い木に登っておりれなくて困るやつもいるからどっこいどっこいか。
話がそれました。そして皮質が増大すれば人へ。人は視野が高いだけではなく上肢が自由になることで動きにバリエーションが増えました。その背景にあるのは、バリエーションに対応する二足直立での抗重力性を獲得したことで、そのために大きな前頭葉を含む皮質が必要であったというか、皮質が出来上がったのでしょう。高次脳機能の発生学的な発達は、姿勢の変化による視点の高さの変化とそれによる環境認知の変化、さらに、それに伴う動きの変化によって発達を促されたとも考えることができます。
だから、高次脳機能も移動、情動や本能などの古い脳の活動を基盤としていなければならないのです。
以前、久保田競先生のご公演をお聴きしたとき、「新皮質の発達は、手の活動が促したという定説があったのですが、いろいろ調べてみると走行が可能な骨盤に発達した時に頭蓋骨の大きさ(脳の大きさ)の発達が著しくて、手の発達(その時代に創られた道具から、道具の操作に必要な指の対立などの動きを割り出し、手の発達を時系列で推測したもの)の時期と頭蓋骨の大きさの発達は必ずしも一致しないのです。だから、立位による移動が脳の発達を促したと考えます。」といった内容を話されておられました。現に、走行時に前頭極の興奮が起こることはもう一般に知られている事実でしょう。
移動って、大事ですよね。
あ、図は高草木先生の資料からですが、多分私たちが理解しやすいように、単純化して書いてあるのだと思います。
進化の過程や人の運動の発達というのは実際は膨大なトライ アンド エラーによって支えられています。特に人の運動の発達においては、エラーも重要で、どの様なエラーが起こりうるのかとか、エラーにどの様に対応すると適応しやすいのかといった複雑な経験が必要なのだと思います。
そういった意味では、直線的に進化や発達を起こしているのではなくて、螺旋的な経過を持っているものだと理解していた方が自然だと思います。
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