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嘘をついてはいけない理由

  軽い気持ちで嘘をついた。軽い嘘はよく付いてしまう。もうこれは癖になっていて、ほぼ無意識でついている。その場しのぎであったり、ちょっとした意地悪であったり、大概はたいしたことのないどうでもいい嘘。

 そんな嘘を、またついた。
 それにシャチョーを巻き込んでしまった。
 違うんです、そうじゃないんです、と
 どれだけ取り繕っても
 口から出た言葉はもう戻らない。
 無かったことにはできない。
 今まで見たことのない目で、言葉で、シャチョーは私に言った。

 「どちらも、信じるぞ」

 これは許しの言葉でも、励ましの言葉ではない。嘘も、その嘘が嘘であることも、どちらも本当とする。これからの私の人生には、その二つの過去が必ずついて回る。それはもう取り消すことは出来ない。その言葉は、どこまでも冷たく、鋭かった。私は、事の重大さを、ようやく理解した。

 たった一つの小さな嘘が、信頼関係をあっという間に壊してしまった。あんなに良くしてもらっていたのに。あんだけ信頼してもらっていたのに。たった一つの、他愛ない嘘のつもりだった。後悔してももう遅い。

「大きい嘘は、覚悟のある嘘だ。何気ない嘘は、考えなしの嘘だ。そういう嘘が、自分の生きる場所を無くしていく。全部、失うぞ」

 オンナはコミュニティに属して生きる生き物だ、とシャチョーは言う。より多くのコミュニティに属することで、より多くの情報を収集し、生活に生かしていく生き物なのだと。情報は、属しているだけで集まる。コミュニティからコミュニティへ、それが本当の情報であっても、嘘の情報であっても広がっていく。たったひとつの嘘が、嘘をついた事実が、広がれば、いずれどこにもいられなくなるということだ。

「作家なんだろう。絶対に、言葉を軽く扱うな。」

 今までで、一番、怖かった。

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