大人の林間学校と道徳教師のみえさんの話。

「思いのある仕事をしなさい。」
これは、新入社員時代に尊敬する上司より何度も言われていた言葉で、今でも私の仕事に対する指針になっている。“思い“がある仕事をすると周りを動かせる、逆にそうでないといい仕事はできないという教えだ。そしてそれは仕事以外にも通ずると思う。人の思いって、共鳴するところに伝播するし、伝播すればするほど更なるパワーを持ち始める。
先日、私の所属する登山サークル［ほろがち］で、大人の林間学校という1泊2日のイベントを行った。これはまさに、“思い“の詰まった素敵なイベントになった。

ほろがちは2017年に発足し、今年で6年経った。メンバー数も400人規模になり、初期メンバーと最近入会したメンバーとは、大所帯であるからこその距離がどうしてもできてしまう。それはなんだか寂しいよね、ということで、ほろがちのみんなが交流できるイベントを作りたいと初期メンバーの1人であるみえさんが、大人の林間学校を企画してくれた。内容はまさに林間学校で、廃校になっている［さる小］という小学校を2日間貸し切って、全員でレクリエーションをするというものだ。
私はこの企画をお手伝いすることになり、初めてみえさんにお会いできた。

さる小の校舎と企画者のみえさん（右）

打ち合わせに参加した日、みえさんのこれまでの経験だったり、林間学校に関することだったり、色々話した。結果、私は初対面に関わらず「大好きです。」と告白していた。それくらい明るさと優しさに溢れる素敵な人で、すぐに心惹かれた。
「みんなで仲良くできるといいよね。」というなんでもないシンプルな一言でも、みえさんが言うと、周りにいる人のハートを刺しちゃうような力を持っていた。それは、みえさんの“思い“の強さゆえで、心からそう思っているからこそ、みんなに響くのだと思う。
そしてその“思い“は、代表がサークル創設に至った思いそのものだ。気の合う仲間と山で繋がり、有意義な時間を過ごす、というサークルの存在意義がしっかりと伝わって共感しているからに他ならない。

林間学校の中でも、みえさんの肝入り企画はキャンプファイヤーを囲みながら行うフォークダンスだった。それ以外の企画は、山行計画を立てたり、百名山について学ぶということで［山学の時間］、ピザ窯を使って本格ピザを作る［家庭科の時間］、ドッチボールで体を動かす［体育の時間］があった。そのフォークダンスの授業項目はなんだろう？という話になったら、みえさんは迷いなく「道徳。」と言った。火を囲みながら全員で手を繋ぐ、みえさんが担当する授業、それはもう道徳以外の何物でもない。しっくりきすぎて、みんなで笑った。

そして、当日を迎えた。
林間学校の舞台である［さる小］は、歴史を感じつつも丁寧に整備されていることが伝わる素敵な木造校舎で、見た瞬間にわくわくした。下駄箱が並ぶ昇降口、グラウンドに置かれた朝礼台、黒板とチョークとウィーンと呼んでいた黒板消しを綺麗にするやつ…目に入る物全てが懐かしく、ときめいた。

校内の廊下

授業はどれも楽しかった。みんなの顔を見てもそれは伝わった。全力で楽しむ姿は、ずっと見ていられるくらいにいいものだ。
そしてなにより、参加メンバーの協力体制に感動した。リハーサルまではできなかったので、運営側は当日その場で発生する対応にドタバタしたのだが、みんながフォローしてくれるのでうまくいった。なにも頼んでいないのに、率先して片付けや準備を手伝ってくれた。先を見据えて必要なことを拾って声をかけてくれる人たちの集まりだった。簡単に聞こえるが実際に行動できる人って限られている。単純にすごいと思う。

山学の時間

家庭科の時間

体育の時間

最後は道徳の時間。
キャンプファイヤーのファイヤートーチは、みえさんにつけてもらおうと、みんなでせがんだ。それなのにみえさんは、近くにいた参加メンバーに託した。それも誰にも気を使わせず、楽しい感じで。ああ、そういう人だよな、と思った。さりげないサポートで、みんなが楽しめる環境を作りだす天才。知らず知らずのところで、全ての授業はみえさんに助けられていたのに、私達だけでやろうとすると「みんなでやろう。」と言って、仕事は必ず一緒にやる。それも楽しい感じで言うから敵わない。

翌日は、登山も楽しみたい参加者と一緒に榛名山に登った。この日が初めての登山だという人もいたが、みんないい顔で帰ってきた。
そして、登山後の締めの挨拶はこうだった。
「みんながこの企画で楽しんだかどうかはどうでもよくって、これをきっかけに山を楽しむ繋がりができたらいいんです。だから、ここで出会った人とまたどこかの山に行ってください！」
どこまでも、ほろがちの思いが詰まった最高のイベントだった。