『いつ海』後の話#1 (艦これ二次創作小説)

「時雨、元気でしたか?」
「雪風…」
僕一人だけの食堂にしばらくぶりの声が響く
「今のわたしは丹陽タンヤンという名前だそうです」
僕の隣に座った雪風にみかんを差し出す
「…そうか、改装したんだね」
雪風はみかんを4つに割りひとつを口に入れる
「はい、でも雪風でいいですよ、そのほうが慣れてるでしょ」
「そうだね…」
雪風は特命で台湾に行っていた、その意味は僕も何となく察していた
「時雨、もしかしてわたしがいなくて寂しかった?」
「あ…いや、そうだね、寂しいよ、日本を離れるんだろう」
「ちょっとだけですよ、またこっちには戻ってくることになる気がします」
「…そうだといいね」
「絶対、そうです! 雪風にはわかります!」
根拠のない自信だけど雪風のそれは不思議とそうなるように感ぜられる
「時雨はこれからどうするんですか?」
「……わからない、かな、どうすればいいか…、僕はただ戦うだけでいっぱいだったから」
もう僕が海に出て戦うことはない
今は鎮守府で備品や記録の整理をしているけれどその先はまだ…
「えいっ」
「ふぇっ、ゆ、ゆきかふぇっ⁉」
突然両の頬をつねられて横に伸ばされた
「やーっぱりそうだと思った」
「えっ?」
「時雨、これ雪風からのプレゼントです」
「これ…は?」
一枚の紙を渡される、外泊届だった
「しれぇから許可はもらってます、好きに書いて良いと言っていましたよ」
それとこれも、と言い雪風は旅費と書かれた封筒を置く
「雪風…」
「雪風は明日つので一緒には行けませんが時雨ならきっと大丈夫、うまくいきます!」
「…よく分からないけど…ありがとう、雪風」
天真爛漫てんしんらんまんな笑顔を向けられて僕の顔もほころんでいたのだろう
雪風はニカッと笑って立ち上がった
「えっ、もう行くのかい?」
もう少し話がしたかった、遠く離れてしまう前に、もう少しだけ…でも、
「大丈夫、また会えるもん!」
そんな僕の思いをわかっているかのように雪風は微笑ほほえ
ああ、僕は雪風には一生かなわないのだろう
「あ、あと幸運の女神のキス、欲しい?」
いたずらっぽく僕に訊く
「…いや、いいよ、今度は自分で…僕自身の力で行くよ」
僕の返事を聞いた雪風はもう一度微笑むと踊るように扉のほうへ歩いていく
僕は寂しい…寂しいけど、またどこかで会えると雪風が信じているなら、僕も信じよう
そう思った
「ぐれ、またね」
「…うん、ゆき」
雪風の置いていったみかんの皮を取ってふと窓の外を見ると、はらはらと降る雪が外の景色を美しく彩っていた



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