アニメ艦これ『いつかあの海で』幕間5〜6話(二次創作小説)
酸欠
潜水艦は海面下から静かに接近し僕たちの隙をうかがう。太陽光を遮る雲の下で潜水艦の潜望鏡を見つけるのは熟練者でも難しく、夜になればなおさらだ。ソナーも航行速度が速いと使い物にならないため見張りの目にすべてがかかっている。そうして事前に察知できればよいが少しでも遅れれば魚雷の餌食となり深い海の底に引きずり込まれるだろう。
僕のような駆逐艦や軽巡洋艦、そして潜水艦が主に用いる魚雷というのは非常に強力だ。水面下を高速で進み艦の喫水下を爆破することで戦艦さえも沈めることが出来る。僕は幾度となく敵に魚雷を放ち、そして目の前で仲間が被雷するのを見てきた。
海中に潜み魚雷を不意打ちしてくる潜水艦に僕らは爆雷で対抗していた。これはドラム缶のような形状をしており、水中で複数個を同時に爆発させて起こる圧力によって潜水艦を潰すことが出来る。潜水艦との戦いでは魚雷を打たれる前に敵潜を捕捉できるかが生死を分けることになる。
艦隊は厚い雲に覆われた薄暗い海の上を航路を選びながら慎重に進む。雨の降りしきる南方の海域でいつ現れるかわからない潜水艦を警戒して僕は必死に目を凝らす。このまま会敵せずに目的地に到着出来れば良いけれどそれも望めそうにないくらい戦況はひっ迫していた。
潜水艦だ!
左舷に潜望鏡を視認し、すぐに戦闘態勢をとる。この距離ならこちらが有利だ、敵潜の背後に回り込もうと舵を切った。
魚雷が!!
誰かが叫んだ時にはもう遅かった。僕の足元に黒い影が突き刺さる。別にもう一隻潜水艦が隠れていたのだろう。駆逐艦の薄い装甲は砕け散り、冷たい海水が僕の体を侵食する。暗い海に飲まれて息ができず頭が重くなる。みんなは沈みながら何を想ったのだろう。薄れていく意識の中で僕は自分のことよりもみんなのことを考えていた。最後の光が水の厚さに埋もれてあたりは静寂の闇に包まれる。僕もここまでみたいだ。
――提督、みんな、さよなら……
疼痛
「ぐれ!ぐれ!!」
耳元で響く声に気付いておもむろに目蓋を開く。
「ゆき……」
寝ぼけ眼をこすって体を起こすと雪風に両の頬を伸ばされた。
「朝ごはん食べ損ねるよ、お寝坊さん!」
そう言って風のように部屋を出ていく雪風と入れ違いで磯風と浜風が入ってきた。
「失礼するぞ。……なんだ時雨、今起きたのか。雪風が出ていったみたいだが」
まだボーッとしている僕に磯風が言う。
「ああ、ごめん」
「おはよう、時雨。今日もいい天気よ」
浜風が窓を開けると冷たい風が吹き込んできて僕は身震いした。そこで自分の体が汗まみれになっていることに気づいた。
「どうした? ……ひどい汗だな、大丈夫か?」
「……あ、うん大丈夫だよ」
心拍に合わせて頭が痛む、陽の光を眩しく感じて目をぐっと閉じる。そしてゆっくりと開いていくと少しずつ意識がはっきりしてきた。
「熱は無さそうだな。とりあえず水を持ってくる。浜風はタオルを頼む」
少し記憶が曖昧だけど、嫌な夢を見ていた。海の上で艦娘にまつわりついてくる恐怖を夢の中で突きつけられていた。
「時雨、私が拭きましょうか?」
「大丈夫、自分でやるよ。ありがとう、浜風」
布団から出て浜風からタオルを受けとる。
「時雨、水を持ってきたぞ」
「磯風、ありがとう」
コップの水を一口飲んで息を吐く。怠さとかは特にない、頭の痛みも和らいできた。
「時雨、調子が悪いなら休んだ方がいい。大事なときに出撃られないなんてことになったら一大事だ」
「そうね、矢矧さんには私たちから話しておくから」
「ううん、ちょっと怖い夢を見てただけだから。体調は万全だよ」
休んでいるわけにはいかない。いつ出撃があってもいいようにしておかなくては、提督やみんなに迷惑は掛けられない。それに今日は対潜兵装の整備をする予定だった。先日の演習で得た教訓から潜水艦への対処が重要になると思ったから早いうちにしておきたい。
「ならいいが、早く行かないと飯が無くなるぞ」
「あっ、そうだね。二人ともありがとう」
お腹も空いているけれど、まずは身だしなみを整えるのが先だ。僕は廊下に出て洗面所目指して走り出す。後ろから二人が何か言っている声がしたけど僕の意識はすでに前しか見ていなかった。
――この悪い夢を現実にはさせない、一緒に戦ってきたみんなのためにも……!
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