映画の収支予測は入場料の平均単価を何円で計算しているか?
今週の火曜日に映画『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』を観てきました。
これ、僕らの世代だと「見んとあかんやつ」なんですよ。いや、僕らの世代じゃなくても、加藤和彦という人は 1960年代後半から 21世紀にかけての日本のミュージック・シーンを語る上で絶対外すことのできない巨人ですからね。
でも、これから書こうとしているのは映画の内容ではなく、客層の話です。
加藤和彦のドキュメンタリですから、当然観に来ているのは彼の音楽をリアルタイムで体験した人たち──つまり、大体は僕らの世代かそれより上ということになります。元も子もない言い方をしてしまうと「老人」なんですよね。
などと考えていて、ふと思い出しまた。
僕がまだ現役の社員だった頃、出資映画の収入予測を立てる際には、(あの頃は一般料金は大体 1800円でしたが)1人1300円で試算していました。
もちろん当日券を買って 1800円で入場するお客さんも多いのですが、中には安い料金の前売りを買っている人もいるし、観に来るのは大人ばかりとは限らず、大学生もいれば、中学生以下もいるし、シニア料金の人もいます。この人たちはもっと安い料金で映画を観られるのです。
それ以外にも何枚か無料で招待券を配布しているケースもあるし、毎週何曜日はナントカ・デーとか毎月何日はカントカの日なんて割引きもありますし、いろんなクーポンやら特典やらを使って安く入る人も決して少なくないので、1人1800円で計算すると読み間違うんですよね。
それで、経験則に基づいて、僕らは当時、全部均して1人1300円という算定で計算していたわけです。もちろん、アニメなど最初から客層が子供ばかりになると分かっているような場合にはもう少し設定を変えたりもしますが、一般映画の収支予測の場合は
という計算になっていたのです。
その興行収入の凡そ半分を上映していた劇場側が取って、残りの半分(これを配給収入と言います)から映画制作に直接かかったお金と、さらにいろいろな経費や手数料などを引いた残りを、出資者(社)が出資比率に応じて分け分けするわけですが、その詳細を書いていると長くなるので、ここには書きません。
ただ、ひとつだけ付け加えておくと、全ての経費が読めているなら、そこから逆算して、最低何人の観客が入らないといけないのかを割り出すことができます。これが所謂リクープ・ラインです。当初の目標としてはとりあえず収支トントンになって"リクープする"ことを目指します。
ただ、しつこいようですが、リクープ・ラインを正確に割り出すためには入場者の平均単価を正確に見積もる必要があるわけです。
で、僕が『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』を観ていて心配になったのは、この映画、ちゃんと収入予測できてるかな?ということでした。
なにしろ、入っている客のほとんどが 1300円でチケットを買っているはずです。TOHOシネマズでの上映だったので、中には(6回観たら7回目が無料になる)シネマイレージの会員になっていてタダで入っている人もいるかもしれません。そう、僕の場合で言うと、年に数回はこの特権を享受していますから。
この映画は 1300円より高い入場料を払っている人はごくわずかだということを考えると、
というのが僕の心配でした。
ただ、よくよく考えると別の要素もあるのに気づきました。
これはシニアになってみないと分からないことなんですが、世の中にはいろんなクーポンや特別割引などがあるんですが、そういうのはほとんどシニア料金には適用されないんですよね。例えばアンケートに答えて 300円引きのクーポンが当たっても、シニア料金には適用されないんです。
つまり、一般料金マイナス300円で入場しろってことなんですが、それってシニア料金より高いじゃないですか。
と言われているような気になります。
ま、その良し悪しは別として、つまり、この映画を観に来ている人たちのほとんどは 1300円で入っているとしても、1300円からさらに割り引かれた料金で入っている人はまずいないということなんです。
シニア料金より安い高校生料金などで入っている人もいるかもしれませんが、少なくとも僕が観た回には若い人はひとりもいませんでしたし、逆にもちろん全員が老人だったわけではなくて、「まだシニアではない」人たちもいて、彼らは高い一般料金で入っているわけだから、相殺して余りが出るはずです。
とも思ったのですが、いや、待てよ、1人平均1300円で計算していたのは一般料金が 1800円だった時代で、今はそれが(映画館によって若干差はありますが)2000円です。試算する場合、今は平均何円と想定しているんでしょう?
一般料金が 200円上がったから、試算用の料金も単純に 200円上げて 1500円で読んでいたら、これはやっぱり大きく読み間違うはず。
いや、この映画の場合はシニアが多いことを見越して(7回目で無料の人なども計算に入れた上で)ちゃんと例えば1人1200円とか 1100円とかで読んでいるでしょうか?
収支予測を立てた人がどんな計算をしたのか、にわかに心配でたまらなくなってきました(笑)
ま、日本のポップ・ミュージックの、あるいはもっと広くポップ・カルチャーの歴史を知る上ではとても良い映画なので、1500円とか 2000円とか支払わないと観られない人も、是非観てあげてください。
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ちなみに、この映画は僕が働いていた会社の出資作品ではないので、念のため。
もうひとつちなみに、僕は note には何かの懸賞に応募する時以外は映画評は上げませんが、自分のブログには書いています。この映画の記事はここに置いています: