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「板に焼く」文化の終焉──ソニーグループの光ディスク生産終了に思う

ソニーグループがブルーレイディスクなどの光ディスクの生産を段階的に縮小させ、終了させるとの報道にいささかショックを受けています。

そうか、ブルーレイディスクが売れない時代になったのか、"板に焼く"文化の終焉なんだな、と思いました。

なにしろ僕らは中学生時代にカセットテープにテレビの生音をマイクで(つまり、コードに接続せず、っちゅうか接続端子もなかったし)録音するところから音楽体験をスタートした世代ですからね。

当然周囲の音も拾ってしまうので、「ちょっと、お母ちゃん、暫く黙っといてや」なんて言いながらね。

今の便利な環境にどっぷり浸かっている若い人たちには想像もできないことかもしれませんが、あの時代、自分の好きな曲や動画を自分の好きな時に聴いたり観たりできなかったのです。

あの頃の僕らは、例えば自分の好きな歌を聴くためには、その歌がラジオ番組で流れるのをひたすら待っているしかなかったのです。その曲がいつかかるか判らない、どころか、その日はその曲はかからないかもしれないのに。

それが待ちきれないのであれば、レコードという“実体”を購入するしかありませんでした。

だから僕らは、今まさにラジオやテレビで流れている音楽や映像を、実体のある自分の所有物として、なんとか手許てもとに固定しておきたいという欲求がものすごく強かったのです。

その後、ラジカセが出てきて、漸く周囲の音を気にせずに好きなラジオ番組をカセットテープに録音できるようになりましたが、何と言ってもまだアナログですから、受信状態が悪い場合もあるし、たとえ受信状態が良くてもレコードと同じ音質かと言われるとそうではないし、テープは経年劣化が進むし、まだまだ満足の行く段階ではなかったわけです。

初めてのディスクであり、初めてのデジタル媒体である音楽CD が出てきた時に、僕らは腰を抜かすほど驚きました。スタートボタンを押すと、レコード針がレコードに擦れる雑音もなく、いきなりクリアな音楽が始まるわけですから。

そして、VHSテープに代わって DVD が出てきて、これで画音ともに僕らの所有欲を満たす媒体が揃いました。

なにしろリッピングしてもダビングしても、音も画も劣化しないんですから、こんな幸せなことはありません(仲間内で何度もダビングされて劣化して、結局一番見たいところがぼやけてよく見えなかった昔のエロビデオを懐かしく思い出します)。

そこから僕らの蓄蔵欲が加速します。好きな音楽を CD に焼き、好きなテレビ番組を DVD に録画して、片っ端から保存し始めるのです。空のディスクもあらかじめたくさん買って用意しておきます。

ブルーレイが登場して、高画質や長時間の重いファイルも物質として保存可能になり、これで"板に焼く"文化は完成したと言って良いでしょう。

でも、そんな風にして手許に置こうとする人たちはもう少数派なんでしょうね。今ではみんなサブスクリプションを利用してますからね。もうディスクに焼かなくても、いつでも観たり聴いたりできますもんね。

それでも僕らはまだ、配信サイトから音楽を PC にダウンロードして、曲によってはそれでもまだ気が済まず、わざわざディスクに焼いてからプレイヤーで聴いたりしています。

やっぱり形あるもので所有していないと不安なんです。クラウド上にあれば良いってもんじゃないんです。

だって、ネット上のサイトなんてものは唐突にサービスを終了したり、仕様を大幅変更したりするので、ある日突然利用できなくなる可能性がありますから。

それってまるで、「銀行預金なんかしてると、いつ銀行が潰れるか心配で仕方がないから、結局家でタンス預金する」ってのと同じじゃないですか

と若い人たちは笑うのかもしれません。

でも、僕らは、潰れるはずがないと思っていた超一流の証券会社や銀行が破綻するのをこの目で見てきた世代ですからね。

とは言え、いずれにしても僕(ら)の意向や動向には関わりなく、ソニーグループはディスク生産から撤退し、その賢明な経営判断によって引き続き企業として成長して行くのでしょう。

かくして、"板に焼く"文化は終わり、ディスクはなくなり、実体のあるものしか信じない人たちの時代も終わりを告げるのでしょう。

ディスクが生産されなくなるとそのうちにプレーヤーもなくなるんですかね? かつてのパイオニアのレーザーディスクみたいに、ハードもソフトも消えちゃうんでしょうか?

僕が死んだ後、僕が溜め込んだ山のようなディスクは一体どうなるのでしょう? 今回の報道に接して、ふとそんなことが頭をよぎりました。


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山本英治 AKA ほなね爺
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