ほんとの写真じゃない、ほんとのドラマじゃない
ほんとの写真じゃない
昔、僕の撮った写真を見たある人に、「でも、こういうのは、ほんとは写真とは言わないんだよね」と言われたことがあります。
彼としては思ったことをポロッと言っちゃった感じで、悪気は全くなかったんだと思います。「こんなもんは」とは言いませんでしたから(笑)
一方、それを聞いた僕がムッとしたかと言うとそれも全くなくて、「ああ、なるほど、写真好きの人にとってはそうなんだろうな」と思いました。
どこが「ほんとは写真じゃない」のかと言うと、それは一旦撮影した後でいくつかイフェクトをかけたりトリミングしたりしていたからです。
スマホのカメラなんかじゃなく、一眼レフの高級カメラなどを趣味としている人は、確かに「これは写真じゃない」って言いたくなるんでしょうね。
で、相手の言い方が丁寧だったので、僕もできるだけ丁寧に、「そうかもしれませんね。でも、僕は写真じゃなくても全然構わないんです」と返しました。
小さな頃から僕は写真にはほとんど興味がありませんでした。撮ろうとも思わなかったし、被写体になるのも好きじゃありませんでした。生涯自分専用のカメラというものを所有したことがありません。
小さい頃は家族の写真を撮るのは専ら父親で、長じて家を出てからも自分で写真を撮ることはほとんどなく、結婚した時に妻が持ってきたカメラが僕のカメラ初体験だったと言っても過言ではありません。
でも、それも単なる記録用で、きれいに撮りたいとか面白く撮れるかもとは全く思っていなくて、撮影するという行為自体に全く興味がありませんでした。
携帯電話に初めてカメラ機能が付いたときにも、
などと言っていました。
それが変わってきたのは iPhone を手にしてからかな。撮った後でいろいろ加工できるのが面白くて、今ではほそぼそと Instagram にも投稿するぐらいには撮っています。
きっと僕は写真を撮ることよりも撮った写真を加工することのほうが好きなんですね。
だから、加工したものは写真じゃないと言われるのであれば、別に写真でなくても一向に構わないのです。自分の下手糞な腕で撮った写真に、いろんな効果を加えて、もうちょっときれいだったり面白味があったりするものに加工することこそが楽しいわけですから。
ほんとのドラマじゃない
似たような話をもうひとつ:
めちゃくちゃ古い話で恐縮ですが、1991年にフジテレビが放送した『もう誰も愛さない』という連続ドラマがありました。吉田栄作が主演俳優として大ブレイクしたドラマで、大評判になり、高視聴率も収めました。
ジャンル的にはクライム・サスペンスということになるのでしょうが、それまでどこの局もやったことがない前代未聞の手法でドラマは作られていました。
脚本がめちゃくちゃ濃くて、どろどろの人間関係と、とんでもない運命のいたずらに翻弄され、ものすごいスピードで息つく暇もなく新しい事件やら謎やら試練やら、とにかく予測不能な展開が次々出てきて、「ジェットコースター・ドラマ」と言われました。
毎回毎回、最後は確か毎回吉田栄作が、あんまりと言えばあんまりな状況に絶叫するんじゃなかったでしたっけ?(笑)
しかし、このドラマのことを、この業界(僕も一応その端くれで働いていましたので)では大御所とされる大プロデューサー(仮に A さんとしておきましょうか)が、とある会議で「あんなものはドラマじゃないわね」と一刀両断にするのを聞いてしまったのです。
僕はそれを聞いて、「あ、この人はもうダメだな」と思いました。
「私はああいうドラマを作ろうとは思わない」と言うのなら、それはそれで何の問題もない、と言うか、作り手としての自分のポリシーを守り抜くむしろ立派な発言なのかもしれません。
でも、「あれはドラマじゃない」と村八分にしてアウト・オブ・バウンズに弾き出し、自分と同じ土俵では語らせまいとするのは大変卑しい魂胆だなと思いました。
確かに A さんは実績豊富な正に重鎮で、ドラマの何たるかをよくご存じなのかも知れませんが、しかし、「ドラマ」よりももっと広い括りである「エンタテインメント」がどういうものなのかについては全く理解していないんだなと、非常に残念な気持ちになりました。
それとは対照的に、その A さんと同じ会社で同じくドラマのプロデューサーをしていた B さんが、「A さんが横綱相撲を取ってくれているので、僕は安心してけたぐりとかとったりとかを目指します」と言っていたのを思い出します(ちなみに B さんもかなりのヒットメーカーでした)。
そう、僕は A さんではなく 完全に B さんと同じ指向性の持ち主なんですよね。
だから自分の撮った写真が写真でないと言われようが、世間で大受けしているドラマがドラマじゃないと言われようが、別に「あ、そう?」という感じで、一向に気にしません。
僕はいつも、ただ面白そうなものを探してごそごそしているだけです(笑)
でも、ひとつだけ明確に言えることは「写真とは何か」「ドラマとは何か」といった概念みたいなものは、何十年、何百年経つうちに、次第に変わって行くということです。
ある日突然持ち運べる電話が登場して、ある日突然その電話にカメラがくっついて、それから今度はそのカメラで撮った写真を簡単に編集できるようになって、そして、今までカメラに全く興味のなかったおっさんがいつしか Instagram に投稿するようになって…。
時代は変わって行きます。
僕はそれぞれの時代で、できればいつもその周縁部分に位置していられたらなあ、と思っています。