【story】2-3
「あなたは、何なんですか」
泣きすぎて空っぽになった心に浮かんだのは、ただそれだけだった。
自分の質問の意味もよくわからないが、ただそのまま口にしていた。
泣いていた間ずっと、こちらを見ないまま待っていてくれた彼は、ため息と共に煙を吐き出して、顔を上げた。
何も言わずに差し出してくれた、どこかの広告の入ったポケットティッシュについて先にお礼を言うべきだったろうか。
思案するように、何度か火のない煙草を口元に運んでは、下ろす。
そんな彼をぼやっとした頭で眺める。
天を見上げた彼は、ようやく口を開いた。
「やっと俺に興味を持てたのはいいことだとは思うが、その質問に俺はなんて答えればいい?」
困らせていた。
「えっと…」
止まっていた脳が活動を再開し始める。
興味を持てたとは、どういうことなんだろう。
それより、何なんだと聞かれても答えようがないのは確かだ。
僕は何が聞きたかったんだろう。
「とりあえず、興味を持てたのがいいことだ、とは、どういうことですか?」
何か言わなければならない。
そう思って、まだ整理のつかない彼のことに関する質問は置いておいて、まずは目の前の疑問を伝えた。
彼は天を見上げたまま、なんでもないことかのように淡々と答える。
「人は、余裕がないと自分のことしか考えられなくなる。
俺のことを見て、他人だという認識をして、それについて自分という存在にだけ向けられていた意識がようやく切り離されてこっちを見た。
つまり多少落ち着いただろう、ということだ」
言い回しは難しかったが、落ち着いてきてよかったな、ということらしい。
最後の一言がなければ、再起動したばかりの頭では理解できなかったかもしれない。
否、たとえはっきりした頭だったとしても、難しかったかもしれない。
変な人だ、という最初の印象は、やはり正解だった。
ただ、怖い印象だけはなくなっている。
質問が終わったと感じたのか、それとも質問を待っているのか。
彼は、ゆくっくりと目線を通行人に戻した。
「ここでずっと、何をしてるんですか?」
ふわっと浮かんだ疑問を、そのまま口にする。
そういえば彼は、1週間前もここにいた。
もしかしたら毎日ここにいるのではないだろうか?
若そうにも見えるが、落ち着いた雰囲気も相まって年齢は不詳。
大学生と言われたらそう見えなくもないし、若作りの40代と言われても納得してしまう。
不思議な人だ。
「人の観察」
返答は、もっと不思議なものだった。
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