【story】1-3
久しぶりに、昼まで寝てしまった気がする。
どんよりとした心は変わらない気がするが、夜よりはマシになったかもしれない。
カーテンを開けると明るい陽射しに照らされ、ほんの少しだけ、心が晴れた。
働かない頭で遅い朝食を摂る。
とにかくしばらく休めるなら休むよう、医者に言われた。
疲労の蓄積は心に悪いらしい、というのは、確かに今体感している。
実家には連絡できないでいた。
きっと父も母も心配するだろう。
できれば、連絡しないまま回復して、社会復帰できれば…
急に、胃に入れたはずの朝食に拒絶反応が起こりかける。
考えちゃだめだ、今考えちゃいけない、そう、今はだめだ、落ち着け。
とりあえず今日は休日、そう、休日だからゆっくりすればいい。
大丈夫、大丈夫…
有休消化という建前をねじ込み、なんとか体を落ち着かせる。
なんかほんと、ダメだ。
「死人みたいな顔してやがるな」
言葉と共に蘇る、あの目。
鋭く、それでいて淡々としたあの目に、ぞわりと、抑えたはずの何かが蠢く。
確かに、今の自分は死んだような顔をしているかもしれない。
眠りにつく時、もう目が覚めなければいいのにと何度思ったことか。
生きている実感などとうに忘れてしまった。
だから仕事を辞めた。
それが正しい選択だったと思う。
だからなのだろう、おめでとう、などと言ったのは。
でも、全然そんな気分じゃないんだ。
間違ってない。
でも、それでも、しんどいのは変わらないんだ。
苦しいんだ。
「どうしたら…」
自分の声に驚き、焦点が合う。
淹れたはずのコーヒーは冷めかけていた。
よく考えたら、荒れた胃に入れるものではない。
家にいても気が滅入るだけのようだ。
食器を片付ける元気もなく、シンクで水に浸けた。
何かをしていたほうが気が紛れるだろうに、何もしたくない。
でも、この絶え間なく続く思考は中断したい。
動くには、と考え、ルーティーンで外にさえ出てしまえば動けるのではないか、という考えに至った。
いつも、会社に行きたくなくても、何も考えずに淡々と朝の決められた行動を取れば、いつの間にか職場にいるのだから。
うっかり、会社に入らないようにだけ気をつけよう。
自動で動き出した体にすべてを任せながら、僕は外へ踏み出した。
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