【story】2-4
「え、っとー…」
行き交う人をひたすら眺め、観察するというのは、楽しい、のだろうか?
自分にはわからないが、そういう趣味なのかもしれない。
彼はひたすら趣味の時間を楽しんでいるだけなのかもしれない。
もしかすると、いや、もしかしなくても、そこに話しかけた自分もまた、観察対象として楽しまれていたのかもしれない。
悪い人ではない。
が、これは絶対変な人だ。
自分はこれ以上、この人に関わっていいのだろうか?
興味と不安がせめぎ合う。
「…ご趣味、ですか?」
戸惑いまみれの言葉に、彼は一瞬心外そうな顔で固まり、うーん、と何か悩み始めた。
単なる趣味ではなかったらしい。
なんだか申し訳ない気分になった。
「あ、あの、すみませんでした…」
数分後、耐えられなくなった僕は謝っていた。
人にはいろんな事情があって、あまり深入りすべきではない、と思う。
興味を持つということに「いいことだ」と本人から言われて、質問自体を許可されていると勘違いしてしまったのかもしれない。
猛反省し始めた僕に対し返ってきたのは、心の底を吹き抜けてきたような深い溜め息だった。
「そう思ったんだろ?」
思案しながら選ばれていく言葉。
「え、あの、はい…」
「なんで謝った?」
ひとつひとつが、丁寧に、心に浸透してくるように感じる。
震える。
僕は、何か間違えただろうか。
拒絶しかける心に抗いながら、僕は彼を見た。
彼は、ただじっと透明な瞳でこちらを見ている。
そう、これは、問いだ。
責めじゃない。
「気分を、害したかと、思って」
「俺は気分を害されていない、ただちょっと考え事をしていただけだ。
だから謝る必要はない」
淡々と告げられる事実。
そう、彼は責めていない。
なのになぜ、心が落ち着かないのか。
ざわざわする。
なぜ、それでも謝りたくなるんだろう。
なぜ、責められている気分になるんだろう…
「いいから落ち着…」
「あ、いたいたー!」
すべてを上書きして飛び込んできたのは、元気な女の子の声だった。
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