「ビッグジャンボジェット」を知るビートメイカー,エンジニア・Cosaqu 梅田サイファーの制作風景とは
梅田サイファーが4月21日、4枚目となるフルアルバム「ビッグジャンボジェット」をリリースした。
"マジでハイ","トラボルタカスタム"で集団としてのヒットを生んだ"決意"以降の梅田サイファー。R-指定の活躍は言わずもがな、KZの渋谷WWWでのワンマンライブの成功やテークエムが名プロデューサー・BACHLOGICと制作した「XXM」EPの衝撃など、その勢いを各自のソロワークへと還元し結果を出している。
そこから装いを更に一新して生み出した今作「ビッグジャンボジェット」。ラップのみならず大半のビートも自身らで制作されたアルバムだが、外部のプロデューサーとしてm-floから☆Taku Takahashiやtofubeatsを迎えるなど磐石の体制で正面からメインストリームに挑んだ事が伺える。収録されたのはリーチが広い様々な音楽性の15曲。
怒涛のマイクリレーとフックのインパクトが反響を呼んでいるタイトルトラック"ビッグジャンボジェット"から始まり、パンデミックの中にある希望を歌い上げる"いつかまた"やトラップビートにスキルフルなラップが連続する"無敵ライクセブンティーン"など同時代性が備わった曲も並ぶ。他にも新鮮でポップなチューンが収録されている反面、梅田サイファーのアルバムではお馴染みであるドリームフィニッシュや再び集まったJapidiotの新曲で過去のキャリアが産んだオリジナルが色濃く浮かび上がり、アルバムはKZとふぁんくの掛け合いが正にサイファーを思い起こさせる"始まりも終わりも"で幕を閉じる。
出自も年齢も音楽性もバラバラで一見不揃いだが、ラップミュージック,サイファー,更に近年でのライブ活動を中心により一層深く繋がった彼らの存在こそが梅田サイファーのアイデンティティである事を改めて認識させられた。
本インタビューでは、今作の中心メンバーの1人であるOSCAとビート提供,更にRECやMIXなどエンジニアとして制作の中心に据えられたCosaquにアルバムや制作背景について解説してもらい、入り組んだ情報量で構築されたビッグジャンボジェットとそこに隠されたメンバーの想いに迫った。
(文・編集 kyotaro yamakawa)
・まずは「ビッグジャンボジェット」のリリースおめでとうございます。
早速ですが、Cosaquさんと梅田サイファーの関係はいつから始まりましたか?
「ありがとうございます。制作で関わり出したのはKZの2nd『CASK』からですね。KZとの制作中に梅田のアルバムの話をもらって、そこから『Never Get Old』の制作が始まりました。」
・3rd「Never Get Old」と「トラボルタカスタム」EP、そして今作の「ビッグジャンボジェット」はCosaquさんがエンジニアを務めているんですよね。現在のCosaquさんの仕事は、REC中のラップの指導などディレクション面もされるのでしょうか?
「はい。必要に応じてやります。『Never Get Old』の頃は梅田と制作するのが初めてやったんでメンバーの特性を伺いながら録ってました。僕もラップやってたのもあって、テイクの良し悪しが判断できるので、声の出し方、テンション、滑舌とか、意外と客観視するのが難しい所を指摘してレコーディング中に直してもらったりする作業もありました。『Never Get Old』,『トラボルタカスタム』,『ビッグジャンボジェット』と制作を共にしていく中で、僕もみんなの事が分かってきたし、みんなもどういうアプローチをすれば良いラップが録れるか慣れてきたので、今はその数が減ってきて、一緒に制作し出した当初に比べると意思疎通も大分スムースになりました。
エンジニアリングに関しては勿論なんですが、他のビートメイカーが作ったビートのドラムを差し替えたりベースを弾き直したりといったアレンジに近い作業をすることもあります。全体のバランスを見ながら、みんなと相談しながら作っていく感じですね。」
・エンジニアとして今作はどういうアプローチにこだわりましたか?
「ラップとビートのバランス感にこだわりました。ここでいうバランスは単純に音量の話でなく、聴いた時の印象の話。あくまでラップが主役というのを念頭におきつつ、ミックスしました。ヒップホップはラップミュージックでもあると同時にビートミュージックでもあるので、そっち方面でも楽しんでいただけたらと思います。みんなのビートも出来が良いし全てに当てはまるわけではないけど、良いビートが良いラップの起点になりうるという事がリスナーに伝われば嬉しいです。」
・梅田サイファーの制作,ポストプロダクションの部分にはCosaquさんが大きく関わっている事が分かりました。
聴く所によると、今作の"ビッグジャンボジェット"では、m-floの☆Taku Takahashiさんとはビートの修正で何度かやり取りがあったとか。
「ミックス作業の時に、OSCAを介して直接やりとりさせていただいただきました。最後のガガ(ILL SWAG GAGA)の大サビの部分のエディットを任せていただいたり、☆Taku Takahashiさんには大きく受け止めていただきました。」
・今作の制作時期はいつから始まりましたか?
「レコーディングが始まったのは2020年1月4日ですね。記憶が曖昧なんですけど、アルバムの計画自体は『Never Get Old』と『トラボルタカスタム』のリリースツアーの最中にあった"梅田ナイトフィーバー'19"のMV撮影の頃から立て始めたと思います。
その時に"SPACE INVADER"と"Dream finish 恥ずかしいは気持ちいいの卵だよ"のビートがあって。最初はメンバー全員で歌うって話しだったんですけど、ビートをさらに集めて聴き直すタイミングでJapidiot、ドリームフィニッシュの曲になりました。
余談ですが、この前ドリフィニのヤス8番と話したら、『"SPACE INVADER"のビートもほんまはドリフィニでやりたかった』って言ってました(笑)。」
・当初はあの2組の為に用意されたビートじゃなかったんですね。
ほぼ丸1年の制作という事ですが、延期も度々あったのでしょうか?
「延期のタイミングは一回取り下げた時のみなんですけど、僕らがざっくり決めた完成予定よりは何ヶ月か後ろになったと思います。最初はみんなでビートを選んでメンツとテーマを決めて、出来た人からとりあえず録っていくって作業を繰り返してて。曲が出来上がってくるにつれてみんなで聴き返す作業があるんですけど、その時に一聴して『これ何の曲か分からんな』って思うような曲も出てきてしまったんですよね。今回の『ビッグジャンボジェット』を作るにあたってのテーマは自分達がJ-POPのフィールドでも通用する作品を作ることだったので、一聴して理解が難しい部分を徹底的に省く作業がそこで起きました。6,7曲ボツになっていったんちゃうかな。
そこからも制作を続けて、ある程度アルバムの形が見えてきた時にシングル級の曲があと2つぐらい欲しいなって話になって。去年、MUSIC CIRCUSっていうフェスに梅田サイファーで出演した帰りにみんなでビート聴いて選ぶ時間がありました。KZがパソコンでビートを流しながらみんなで投票していく感じで。得票数が全てってわけじゃ無いんですけど、ある程度ビートを絞ってからの話し合いで選ばれたのが"無敵ライクセブンティーン"と"NO'1 PLAYER"のビートやったんですよ。そういう感じで足りないものを付け足して行くという制作だったんで必然的に時間がかかりました。」
・確かにその2曲はシングル級ですね。
「何回かボツ曲を経てるんでそこはちゃんと思惑通りにいきました。いよいよアルバムのリリース日も決まって、流通の話になって。最初に掲げたテーマもあったのでなるべく遠くに届けたいという気持ちがあって、流通をSONYさんにお願い出来ないか?って意見が出たんですよね。発売日が決まってた土壇場での話だったんで急な対応は難しく、リスナーの方達には申し訳なく一度引き下げる形になったんですけど。その分の延期期間にMVを何本か先行で出して楽しんでもらおう、でもそれだけでは物足りないんではないか?という話が出た時に、僕が冗談で3曲新しく追加しようやって言ったら、ふぁんくが『コーサクさん、それですわあ!』って。ただその制作期間がほんまに3週間ぐらいしか無かったから、追い込まれる羽目になったんですけど(笑)。そこが最大の山場でした。」
・既に出来上がってたアルバムに対して追加で新曲3つですもんね。冗談で言うにしては高いハードルですね(笑)。ただあの3曲、特に"Future is…"と"Now On Air"のおかげでアルバム全体の風通しが良くなったんじゃないかなとは思いました。
「確かに。"Now On Air"はビート,テーマからして切なチューンになりそうな感じがあったけど、テンポ感も相まっていい意味でカラっとした曲になったし、"Future is..."は掛け合いの部分をタウさんが上手くまとめてくれました。ライブで楽しめる曲になりましたね。"レインメイカー"はコッペパンなんで、磐石。あと12曲には無かった要素として、KOPERU,pekoがそれぞれのフックを歌ったことで足りなかったピースを後付け感なくはめることができたと思います。3週間でこのクオリティの3曲をみんなで作れたのは自信にもなったし、ホッとしました。」
・今作「ビッグジャンボジェット」は、ビート感や音像含めた今のラップミュージックと梅田の人達が好きそうなJ-POPにラップが溶け込み出した90年代後半〜ゼロ年代初期中期の日本HIPHOPの曲のテイストと空気感が見事に合流したアルバムになったんじゃないかなと僕は感じていて。その2つを両立させたのがCosaquさんのビートの作用もかなり関わっていると思っています。ハイブリッド感というか。
「ハイブリッド感、気持ちいい違和感をプラスする作業は自分がビートを作る時に最も意識する部分です。例えば、"HEADSHOT pt.2"も最初はサンプルをループしただけのboombapビートだったんですけど、全員のラップが乗ってから後付けで今っぽいブラスやサイレンの音足したり。それがアルバム全体に作用してるよう聴こえるのはラップが乗ってからアレンジしたっていうのが大きいかもしれないです。リリックからイメージできる音もあったりするんで。」
・"SPACE INVADER"もシングルとして出てた既発の頃とは少し変えてますよね。"ビッグジャンボジェット"のアウトロの静寂からシンセが派手に鳴るイントロのインパクトは爽快感があります。
「シングル作る時ってなぜか急ピッチでやらなあかん事が多くて(笑)。アルバム発売までの期間が長かったりして、見返した時にどうしても変えたくなる事が多いんですよね。全部自分でやってるから変えようと思ったら変えれますし。シングルで出てる曲もアルバムバージョンとの違いを楽しんでもらえたらと思います。今回はビート選びもコンペ形式だったんで、"SPACE INVADER"だけじゃなくて、他の曲もインパクト重視になってるかもしれないです。」
・"無敵ライクセブンティーン"はCosaquさん自らメンバーの選定もされたそうですね。
「はい。僕が選ばせてもらいました。無敵ライクセブンティーンというタイトル先行であのビートが選ばれたので、悩まなかったです。音楽聴いてて、無敵感得れる瞬間があるじゃないですか。言葉では表せないあの感覚をリスナーに届けるにはこのメンツやなって。ライターの高木"JET"晋一郎さんの言葉を借りるんですけど、スキル至上主義の旗を掲げた”トライバル感"が全開に出てる曲になりました。みんながどう捉えるかはわからないですけど、個人的には梅田サイファーのアンセム的な一曲に仕上がったと思います。」
・なるほど、トレンドへのアプローチだけでなく梅田サイファーとしてのレガシーなども感じれる一曲なのかもしれませんね。こういうスキルフルなspitのヴァースをRECする際、梅田の場合はどれくらいかかりますか?
「ふぁんく、KennyDoesはめちゃくちゃ速いです。1,2回歌ったらあのクオリティが出るんですよ。テークエムも"無敵ライクセブンティーン"のサビのハモリとか"急かされるのはごめんだぜ"のハモリとか、その場で歌いながら簡単にやってました。まあでも録りのスピードがクオリティに直結しない場合もあるのであまり気にしてなかったですね。」
・ちなみにCosaquさんの中でR-指定さんってどういったラッパーに映っているんでしょうか。梅田メンバーの中でも一番王道かつ異質な人だとは思うのですが。
「ラップの本質に対してちゃんと愛があるラッパーですね。本人が設定してるラップに対してのハードルはかなり高いと思うんですが、どの作品を聴いてもそのハードルに対して妥協が無いし、そこにリスナーもちゃんと着いて来れるように種まきもしてる。それを嫌味なく自然体でやるんで信頼できます。梅田のMVのコメント欄を見ててもリリックに対しての考察が増えたりしてるのは彼の功績やと思います。人としても尊敬してます!」
・その他で制作面で何か印象に残ってる事ってありますか?
「"リズム天下一武闘会"のKBDさんのナレーション録りちゃいますかね。長すぎて流石にカットになったんですけど、ほんまは歌うメンバーが変わる度にKBDさんが1人ずつ紹介していく形式やったんですよ(笑)。結局長すぎるからボツになってしまったんですけど。あの声の出し方は喉を酷使するみたいで、めちゃくちゃ辛そうでした(笑)。
あとは、曲作りには適材適所があるので、一番良い方法を見つける必要があるんですけど、そこに対しての柔軟性とか選択肢が増えたなって思います。例えば"急かされるはごめんだぜ"のフックをRが考えてテークが歌ったり、teppeiがヴァースとして書いて来たものをブリッジにしたり。"もぬけ"のフックのメロディをタウさんが考えて、ドイケンがそれを元に広げて作っていくみたいなやり方が目立ってました。良い素材を最大限に活かせる作り方を模索してやってたのはとても印象に残ってます。」
・Cosaquさんから見て、梅田サイファーの制作の特徴などありますか?
「お互いの理解度が高くて、それが制作にも反映されてることですかね。それこそ"ビッグジャンボジェット"で、ガガがフックを作るっていうのは最初から決まってて今のフックになる前の原型を持ってきたんですよね。それをKennyDoesが後半変えたらかっこよくなるって言って、でもその場で書き直しをするんじゃなく、ガガをRECブースに入れてひたすらフリースタイルで面白いワードが出るまで待つとかをやったり。メンバー間で理解し合っているからこそ出来る事やと思います。
梅田は好きな音楽もみんなバラバラやし、アルバムもバラバラなジャンルの曲が集まってるけど不思議なまとまり感があるのは、サイファーで共有した時間が長いがゆえの、メンバーそれぞれの理解度が要因の1つなのかなと思います。」
・Cosaquさんにとって梅田サイファーはどんな場所になりましたか?
「僕を語る上で欠かせない場所になりました。」
・分かりました。Cosaquさん個人の展望や告知などあればお願いします。
「自分のプロデュース作品を出したいです。あとyellow baseさんから話をいただいて、ビートメイクのワークショップを定期的に開催していきたいと思ってます。まだ準備段階ですけどやります。それと、6月にKennyDoesとのアルバムが出せそうです。」
・随時楽しみにしています。では、最後にファンや読者の方へメッセージをお願いします。
「梅田サイファーの『ビッグジャンボジェット』ツアー、こういう時期でどうなるかわかりませんが僕らも開催できる事を心の底から願ってます。みんなと会場で会えた際には『ビッグジャンボジェット』の持ってるパワーを爆発させたいと思ってるんで、一緒に楽しみましょう!」
→続いてOSCAの記事を読む
梅田サイファー「ビッグジャンボジェット」リリースツアー
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170879
兵庫 2021.06.20(日) at 神戸Harbor Studio
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福岡 2021.07.04(日) at BEAT STATION
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京都 2021.07.23(金祝) at KYOTO MUSE
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