ワヤンだけじゃない!インドネシアの現代人形劇シーン|国際人形劇祭"PESTA BONEKA"🇮🇩
夏頃に、大阪で Papermoon Puppet Theatreの作品を観てきた。Papermoon はインドネシアの人形劇界を牽引する劇団で、国際現代人形劇祭とファミリー向け人形劇祭を隔年交互に開催している。2024年は国際人形劇祭(ペスタ・ボネカ)の年だったのだが、スケジュール的に行けなかった。
そんなこんなで気づけば冬になり、年末Facebookに振り返りトレーラーが流れてきて、HPを覗いてみたらプログラムも結構魅力的だった。せっかくなので自分の備忘録も兼ねてまとめておきます。インドネシア、ワヤン(クリ/ゴレ)だけじゃなく現代人形劇の勢いがけっこうあって気になってる。2026年は行きたいな〜
目次は多いけど、項目ごとに書いてあることはそこまで長くないので、軽い感じで読めると思います(たぶん……)。
あと、ちゃんと参加したライターのレビュー記事もあるので、ぜひそっちもあわせて読んでください(というかそっちを読む方がいいかもしれないが……)。
"Tomte" Tom Lee
日本では比較的よく知られている人形遣いだと思う。八王子車人形西川古柳座の『芥川』を観に行った方も多いのでは。彼はHandspring Puppet Theatre の "War Horse" ブロードウェイ公演でキャストを務めていた遣い手でもある。本作は影絵人形劇アニメーション作品で、トレーラーを見るかぎりでは特にこれといって気になるところはないが、スクリーンを切り抜いて三次元に人形が飛び出てくる演出は楽しそう。
"Metamorphosis" Bernd Ogrodnik
Bernd Ogrodnikは、アイスランドの超有名な人形遣い/人形作家/演出家。本作は短編集的なノンバーバル作品だが、人形のサイズや操演、演出もそれぞれ変わり、テーマもなんてことない話から半ば形而上学的なものまであるそう。「何を見ているかではなく、どのように見ているかが重要だ」という、わりあい誰もが考えつきそうなアイデアから、これくらい豊かな作品が生まれるのは流石。トレーラーみるだけでも楽しさは伝わってくる。
"Kala Taru / Pohon Waktu" UlangAlik
インドネシアのグループ。国内のフェスにはちょこちょこ出ているようだが調べてもあまり情報が出てこない。インスタはある。次に貼っているフェスのトレーラーに少し映像が出てきます。HP等は見つからないがインスタは開設されている、というパターンはこれ以降に紹介する劇団にもありました。
"Bochan: Roar & Whisper" Goni Puppet Theatre
"Goni" は、麻袋に使われているジュート(黄麻の繊維)のことだそうで、Papermoon にとって「紙」が重要なマテリアル/オブジェクトであるように、この劇団は「麻袋」からインスパイアを受けているという。このへんの素材に関する視点で、とくに Papermoon はけっこうフィロソフィーがあったので、この劇団にも聞いてみたいところ。ゴミで荒廃した島が舞台の作品で、エコロジカルな主題だから演劇学者たちにウケそう。それはともかく、トレーラー見た感じ普通に面白そうだった。
"Finding Seeds" Mighty Women Mini Puppet Collective
ペスタ・ボネカを通じてつながった、世界各地から集まった 6 人の女性人形劇アーティストによるコレクティブ。人形劇フェスティバルがアーティスト間の国際的な共同関係を生み出している!素晴らしい話だ……。6人それぞれの作品から構成された作品。
Sirikarn Bunjongtad (Jae) "Dog's Poo" ──タイの人形遣い
Hyang Chu "Minh Little Stars" ──ベトナムの人形芸術家/感情・心理的ヒーラー(スピリチュアルヒーラー?)/インテリアデザイナー
Sherry Harper-McCombs "Walking Ginseng" ──米国ディキンソン大学の衣装デザイナー/工芸職人/人形遣い
Bonnie Kim "Haloa" ──ハワイの韓国系アメリカ人で、人形劇・仮面劇のアーティストでもあり、芸術教育者でもある
Pin-Chen Kuo "The Digger" ──おそらく台湾のオルタナティヴ系人形劇団 Puppet and Its Double Theater Company(無獨有偶)の人。この劇団はドイツのFiguren Theatre Tübingenと共作しててアツい(←HP)
May Than "Seed You Again" ──オブジェクト・シアターとパントマイムの融合で知られているタイの劇団の人(←YouTube)
"Tyltyl & Mytyl" Utervision Company Japan
UNIMA USA の Puppetry International 56号 "WOMEN OF PUPPETRY: PAST, PRESENT, FUTURE" にも取り上げられている、佐次えりなさんのカンパニー。20体の人形が出て、三人遣いの人形もあるよう。日本でも観る機会あったのに行けてなくて、自分の観劇スケジューリングを恥じている……。一応YouTube上には、Harmony World Puppet Innovation Festival の観客撮影動画があった。許可得て撮られたやつなのか分からないし掲載しない。
"SONGS FOR US TO MEET" Papermoon Puppet Theatre & Usaginingen
豊島の "Washi Meets Art Festival 2024" でレジデント・アーティストとして来日したPapermoon Puppet Theatre。その際、日本のヴィジュアル・シアターとライブ・ミュージックを組み合わせたユニットUsaginingenと共同制作した作品がこちら。詳しいことはオフィシャルの紹介を読んでください。
トレーラーに出てくる和紙製の鳥は大阪のパフォーマンスでも見た。足を挟み遣いできるようになっている。子どもが俳優的に登場するのも大阪と同じで、当時は「私生活(親としての時間)と演者生活(舞台の時間)に区切りなど作れないと気がついた」というようなことを話していた記憶。この種のパフォーマンスでは、映像と音楽を巧みに組み合わせることはもはや必要不可欠なエッセンス。
"Project Tho dia" ToLô Puppet Theatre Company
ベトナム・ハノイのインディペンデント劇団。布袋劇、文楽、影絵人形劇などから影響されつつ、人形劇とオブジェクト・シアターの実験的制作、歴史的な人形劇のアーカイブ作成、オリジナルのパフォーマンス制作などをやっている。本作はベトナムのỔi Lỗi(棒人形の民族芸能)からインスピレーションを得たそうで、ライブ音楽との組み合わせはもちろん、プラスチックやナイロン、布切れなど、生活から生まれる素材のリサイクルなど、近年のエコロジー系の演劇的な要素までカバーしている。主題も都市と氏神についての話で、かなりフィロソフィーを感じる作品。自閉症スペクトラムの観客に向けた別バージョンもあるようだった。
ちなみにこのカンパニーは、Linh Valerie Pham と Tran Kim Ngoc によって設立されていて、Linhは国際的に活躍する現代人形劇アーティストで、Tranはサーカス劇団で10年間勤めたパフォーマー・ジャグラー。Linh のポートフォリオはこちらから。すごく気になるカンパニー!
"VITA D'OMBRE" Carla Taglietti
イタリアのパフォーマーによる、光と影と身体のノンバーバル演劇。あまり本作についての情報は出てこないが、利澤國際偶戲藝術村(Lìzé Puppet Art Colony)の2018年レジデンス作品である。彼女のインタビューでは、影というもののスピリチュアリティと特有の物質性、光についての深い思索(影よりむしろ光で舞台を構成する)など、影絵人形劇では普遍的とも言えそうなテーマが取り上げられている。
"Fragile" Compagnie Entre les fils
フランスの作品。白いボールと俳優のオブジェクト・シアター。単純に、白い球体から人間の足が生えてる絵面は笑える。影を浮き彫りにさせて目にするとか、まあ予想はできるが面白そうな演出も。この作品は屋外でもやってるらしく、そっちはよりシュールで面白かった。作品としてはどうなんだろう。
"The Rock - TAS" Uçaneller Kuklaevi
トルコの人形遣い。道路を塞ぐデッカい岩をなんとかしてどかそうとする話らしく、大人が知恵を絞って財力を投入しても動かないが、最終的には子どものアイデアで解決する……という、まあよくある感じの話。Uçaneller Kuklaeviはトルコ・リュレブルガズ市当局の介入で市立の劇場から締め出されてしまったそうだが、今も自身の劇場を開いてパフォーマンスを続けているらしい。気骨がある。
"Meet the Puppet at the Corner: a Puppetry Journey Through the Seed of Hope" The Puppet and Its Double Theatre
たぶんPin-Chen Kuoのいる劇団。所属団員の4人がそれぞれ小作品を演じたみたい。台湾の現代人形劇シーンも気になる。
"Safari" Talentshow Theatre
May Thanのところの劇団。たしかにオブジェクト・シアターっぽい作品。
"Drakula" Teater Štrik
スロベニアの人形遣いと、オーストリアのパフォーマーの劇団。本作は俳優とパペットによるオペラで、病気になったMOŽ!爺さんは病をドラキュラのせいだと思い込み……という話らしい。MOŽ!はこの劇団の他の作品にも登場する主人公キャラ。社会的な問題を取り上げることと、劇場を主題に即した空間に作り上げることで知られているよう。人形遣いのTea Kovšeは、Puppet Parkourという、なんか独自の操演メソッド的なものも編み出したそうです。人形のパルクール……?
"AYAH" Sekat Studio
オブジェクト・シアター(Teater Objek)をテーマに据えた、インドネシア・Salihara Arts Centerの『Helateeater Salihara 2023』に選出された4つの劇団のひとつ。もとは、お化け屋敷コミュニティ(!)として始まった組織が、ホラーを探求するオブジェクト・シアターの劇団になったという。インドネシアのオブジェクト・シアター界は勢いもなかなかあって、客層もそれなりにあるらしく、今後の展開に注目したい。
"Aero" Odivo Theatre
バンスカー・ビストリツァで観たスロバキアの劇団。その時はジャグリングと、コンテンポラリー・ダンスの二作品を上演していたが、本作は扇風機とドライヤーでいろんなモノを浮かせて飛ばし、ときに空気を孕んでモノが形を変えていくというオブジェクト・シアター。
"Two Bodies One Mind" BIXO
ブラジルで生まれ育ち、現在オーストラリアで活動するパフォーマー・Keila Terencioが率いる身体演劇とヴィジュアル・シアターのグループ。おそらく紙と思われるマテリアルと、それで作られた等身大ぐらいの人形が登場。人形が見る夢、現実との境界……”Am I actually awake? If it is not real, please wake me up, or stop manipulating me, let me find my body again”……というわけで、写真やフェスのトレーラー、紹介文を見た感じは「こういう作品よくある気がする」という感じだった。
"Bulan Balen" Kahanane Project
インドネシアのグループ。全然情報が出てこないが、オブジェクト・マニピュレーションと俳優の演技を組み合わせたパフォーマンスをやっているらしい。
"HONG" Chamber Music Puppet
マスク、顔の描かれた楽器、影絵、映像などを組み合わせた室内楽人形劇。この手の芝居はどうしてもFeketeより良いかを考えてしまう。インスタ見ると様子がちょっとわかる。
"My Pale Blue Dot" Puppet-kkun BESISI
韓国の人形劇団。あんまり情報が出てこないのですが、トレーラーはありました。
"Pico and the Golden Lagoon" Picos Puppet Palace
人形遣い/俳優のサリー・ミラーと、機械工学/建築の知識をもつジェシー・ハミルトンによる人形劇デュオ。オーストラリアとカナダで活動している。児童向けのエコロジー系作品で、教育的パフォーマンスとして考えれば良さげな感じ。ジェシーの知識がパペットや絡繰に活きているらしく、造形は気になる。ちなみに本作の絵本も売っているようです。
"Divine Cyborg #17 - Dancing with the Ghosts" Karla Kracht
さまざまなフェスティバルに招聘されているドイツ出身の人形遣い。現在はスペインを拠点にしている。映像作家であり、イラストレーターでもあり、人形劇アーティストでもある。国境と移民、科学技術など、さまざまな問題を取り上げており、サイバーパンク〜SF的な作品も作っていて、本作は人類なき世界でサイボーグが人間の儀式を模倣して歪曲させていく……というディストピア的な物語。操演そのものよりも、ライブカメラによるスクリーン投影と映像ヴィジュアルが目を惹くオルタナティヴ・シアター。こういう主題を扱いつつも、あえてガチの機械人形を使わないところが印象的。
"Open Oven" Borneo Art Play
パントマイムとオブジェクト・シアターの複合パフォーマンスらしい。情報があまり出てこないが、主宰であり人形遣い&俳優のAbdul Khafizdは、インドネシアでマイムのフェスティバルを主催していたらしく、現地ではなかなか有名なマイミストなのかもしれない。最近のインタビューを発見した(後半に出てくる男性)。
"Foolish Doom" Tiny Colossus Productions
フィジカル・シアター × オブジェクト・シアター × ライブミュージックのパフォーマンス。クラウンぽい。気候問題に立ち向かい世界を救わんとする全能の魔法使いと、眷属の謎クリーチャー(に変装した俳優)が登場。魔法使い役を務めるPeter Sweetは、コンテンポラリー・サーカスとフィジカル・シアターの演者/教師。初めて聞いたんだけど、フランスの "Wutao" という東洋的で少し精神的な身体パフォーマンスの講師でもあるらしい。
"Tasogare Mononoke House" Magica Mamejika
大阪にPapermoonを呼んできてくれたのがMagica Mamejikaで、その時にこの劇団の作品も観た。ワヤン・クリをベースに、影絵と音楽からなるパフォーマンスを作っている。ちなみに、最近関東でやってて人形劇クラスタでは話題になっていた「まよかげ/Mayokage」にも、Magica Mamejikaのダランとガムラン奏者が参加している。
"Nunc" BRAT
イタリアのカンパニー。マスク × オブジェクト × (やや)マテリアルのノンバーバル作品。飢餓がテーマであり、人間の行動が招く結末と、「原始的でありながらポスト・ヒューマンでもあるパラレルワールド」を描いている。タイトルは「いま」という意味で、仮面の大きな鼻より先(の未来)を見ることができず、「いま・ここ」を生きている三人(?)のキャラクターから物語が展開する。作中では農業と工業の生産速度が対比されているようで面白い。
以上!2024年末から書いてたのに2025年になってしまっていた。結局パフォーマンスは生で見ないと何にもならないのだが、こういうリサーチもやっとくに越したことないからね。