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プラハで現代人形劇を観た|マティヤ・ソルツェ
長いことnoteは書いていなかったのですが、ここ最近、研究ログ的な文章を公開する重要性を感じ、久しぶりに書くことにしました。僕が調査している現代人形劇は、日本では著し〜く知名度がないので、少しでもみんなに知ってもらいたいな……という気持ちもあります。
何から書こうか迷ったんだけど、今年は9月末から約2週間、研究出張でスロバキア(バンスカー・ビストリツァ)とチェコ(プラハ)に滞在していたので、そのときみた作品を振り返ることにしました。ここでは、プラハで観た作品を2本紹介しようと思います。
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Teatro Matita "Dog's Life"
Teatro Matita は、2024年2月の下北沢国際人形劇祭で、あまりにも素晴らしくて驚嘆したスロベニアの人形遣い・Matija Solce(マティヤ・ソルツェ)の劇団。そのとき観た作品と同じものを観た。単純に操演が上手いなんてのは当たり前で、鋭い批評性をユーモアで包む脚本・演出能力に脱帽。どっと笑わせておいてから、出来事の裏側にある主題性をあらためて前景化し、観客の自己反省を迫るという手続きが本当に上手い。たとえば、観客が爆笑して見ていたシーンが、実はアウシュヴィッツに向かう列車を描いていた、というように。
なによりマティヤが傑出しているのは、政治的・社会的な問題を主題に置きつつも、人形劇──オブジェクト・シアターとしての魔術的・幻想的世界を確立させているところだと思う。政治的な問題を取り上げている以外に全く賞賛すべきところがない人形劇もあるけど、マティヤのパフォーマンスにそんな心配は必要ない。スロバキアで仲良くなり、「プラハ周辺に住んでるなら絶対来たほうがいいよ!」って誘ったら観に来てくれたおばあちゃんも「ファンタジーだ!」って絶賛していた。マティヤのパフォーマンスはたしかに現実を描いているけど、それでいてちゃんとファンタジーでもある。
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本作は、カレル・チャペックの人生と、その愛犬ダーシェンカ(Dášeňka)の物語がもとになっている。下北では、上演前に「チャペックは、病によって死んだのではなく、当時の世界に失望して死んだのではないか」「チャペックが感じていた失望は、今の時代にも漂っているのではないか」というような説明がされた(覚えがある)。マティヤのパフォーマンスはオブジェクト・シアターの奇跡に満ちているから、こうした主題性を知らないで観ても十分楽しむことはできるし、げんに楽しそうな子どものお客さんもよくみた。大人は大人で、観ていれば舞台で起こっている出来事の正体を察することはできるだろう。
終演後「日本から来たんだ/下北で観て感動したよ」って伝えたら、「日本!この(公演の)ためにプラハまで来たの?」って冗談言われて笑った。「2年後また日本に行く予定」とのことで楽しみ。マジで人形劇に対するイメージが大きく変わると思うので、日本で公演があったらみんな観に行ってほしい。
ちなみに、Loutkář(世界最古の人形劇/オルタナティヴ・シアター専門誌)にマティヤのインタビューが載っているので、興味のある人は読んでみてください。僕みたいにチェコ語まだ勉強中の人は、日本語に機械翻訳するより、英語に機械翻訳したものを読んだほうが良い気がします。
最新作は、アコーディオンを魔改造したマシーンを使った作品。説明で引き合いに出されている元ネタ、ダニイル・ハルムスの『老婆』等については、こちらや、こちらを参照するといいと思います。観たいな〜
Fekete Seretlek & Studio Damúza "EXIT"
こちらはマティヤが率いるフォークエレクトロニカ・パフォーマンス集団。全員卓越したオブジェクト遣いであり、ミュージシャンでもある。音楽とオブジェクト・シアターを密に融合させたパフォーマンス。実はこのグループも下北で見たんだけど、今回は別のレパートリーを見ることができた。個人的にはこっちの作品の方が、音楽×映像(光と影)×オブジェクト・パフォーマンスのマリアージュを体感できて好みだった。ちなみにDamúzaは、99年にDAMU(プラハ芸術アカデミー演劇学部)の学生が作った劇団で、マティヤもDAMU卒業生。
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Feketeのレパートリーは、"KAR" がトルストイの『アンナ・カレーニナ』、"RAT" がオーウェルの『1984年』を題材にしていて、本作はアンデルセン童話がベース。下北では "KAR" を観たんだけど、今回あらためてフォークトロニカバンドとしての底力を感じた。舞台上のモノ全てが物語と音楽を重奏的に織りなしていくさまに釘付け。ただオブジェクトがアニメートされるだけじゃなくて、インストゥルメンタルとしての要素を同時に満たすところが肝。そこらの生演奏つき人形劇とは訳が違う。
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あとやっぱりFeketeのいいところは、客入れの段階から演劇世界をしっかり作っていること。下北で観た"KAR"は「葬式」で、"EXIT"は「フライト」。入場=搭乗前に荷物検査されて(舞台始まるとマッチ擦りまくるんだけど)、機内食コースのメニューカードに見立てたプログラム説明カードみたいなのが渡される。会場入る段階からワクワクさせてくれる芝居は楽しいね〜
番外編|Akropolis劇場の周辺情報
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紹介した2作とも、会場はプラハ3区の老舗劇場 Akropolis(アクロポリス)。ジシュコフのテレビ塔から北西に少し行ったところにある。僕はJiřího z Poděbradから歩きました。このメトロ/トラム駅は、すぐ近くにスロベニアの有名な建築家、ヨジェ・プレチニックが手がけた有名な教会(Kostel Nejsvětějšího Srdce Páně)があることでも有名。せっかくなので、劇場近辺で立ち寄った良い感じのお店を最後に紹介しようと思う。
①|U Mariánského obrazu
わりと入りやすい感じのお店で、チェコ料理が食べられるビアバル。劇場の真向かいにあるから、開演前後にサクッと立ち寄ることができておすすめ。Googleマップの評価も上々!
ここでは、クネドリーキつきのグラーシュを注文した。クネドリーキは、小麦粉を練ったものを茹でた、ダンプリングの一種。「茹でパン」って聞くと身構える人もいるかもしれないけど、モッチャリした食感で普通に美味しい。
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グラーシュは、パプリカ・トマトと肉を煮込んだシチュー。起源はハンガリーのグヤーシュ(こっちはシチューじゃなくてスープ)で、チェコでもポピュラーな料理。味は完全にビーフシチューそのものでした。日本の洋食屋で出てくるのとそんなに変わらない印象。せっかくならスヴィチコヴァー・ナ・スメタニェとか頼んだほうがいいかも。
②|U Houdků
こっちはもっとビアバルっぽい感じ。劇場から少し行ったところにある。ちょっと入りにくい感じだけど、お店のおじちゃんは優しい。僕が行ったときは、ストレートに「チップは10%でいい?」って聞かれました。
メイン料理は付け合わせやソースをオプションで追加できて、チキン・シュニッツェル(軽い衣のカツレツ)にサルサソースとフレンチフライをつけた。見た目通りの味。わりとボリューミーなので胃が小さい人は気をつけよう。
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他にも、プラハではいろいろ劇場や施設を回ったり、個展を見に行ったりしてきたんだけど、長くなりそうなので一旦ここまで。またそのうち書きます🇨🇿👋
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