「入ったら順位なんて関係ない」?ドラフト指名順位と可能性・期待水準

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。
プロ野球のドラフト会議の前後では「指名されて入団したら順位なんて関係ない!」「入ったらみんな同じスタートライン!」などという声を各所で聞きます。
果たして本当にそうと言えるのでしょうか?今日は、そんな話について書いていきたいと思います。

ドラフトの指名順位とは?

プロ野球ファンの読者の方なら理解してくださっているかと思いますが、現在日本のプロ野球チームに入団するためには年に1度開催される新人選手選択会議(通称:ドラフト会議、以下ドラフト)を経由しなければなりません。どんなに高い能力を持ちアマチュア野球界で華々しい成績を残した選手でも、このドラフトにかからなければプロ野球選手になることはできません。
12球団が参加するドラフトでは、欲しいと思った選手を必ず獲得できるとは限りません。もし欲しいと思った選手がいても1位でない限り先に指名した球団に交渉権が与えられますし、1位で指名しても競合してしまったら抽選で交渉権を引き当てるしかありません。
各球団の編成担当者は、スカウト陣や球団社長(球団によってはオーナーも)、現場の監督らとドラフト当日まで会議を行い、
①現在の能力
②将来的なポテンシャル、伸びしろ
③チーム事情・チームにおいて期待する役割
④指名順位縛り
⑤その年のドラフト市場のトレンド
⑥他球団との駆け引き
などの要素をもとに、誰をどの順位で指名するかという戦略を練っていると思われます。各項目について簡単に書いていこうと思います。

①現在の能力
その選手の評価のベースとなる要素①です。現時点でどれくらいの能力を有し(球速、足の速さ、肩の強さなどなど)、現在のステージでどのくらい活躍しているか?同じカテゴリの中でどのくらい飛び抜けているか?などなど。

②将来的なポテンシャル・伸びしろ
その選手の評価のベースとなる要素②です。高校生などは特に顕著に現れると思いますが、身体の線が細かったりフォーム等に修正すべき点があったり…。現在の課題は?それは解決可能か?それを解決したら3年後・5年後・10年後…将来的にどのような選手になっているか?プロのスカウトも時折「伸びしろ抜群」や「豊富なポテンシャル」などと選手を評価することが往々にしてあります。

③チーム事情・チームにおいて期待する役割
ここからは選手の能力以外の要因です。各チーム、ウィークポイント・補強ポイントは違います。投手が弱いチーム、野手が弱いチーム、主力の高齢化により世代交代が急がれるチーム…。それにより、同じドラフト候補選手でも球団によって必要度は変わってきますし、必要度が変われば指名の優先順位も変わってきます。

④指名順位縛り
ドラフト候補(あるいはその選手を輩出する学校)は、ある順位までに指名されなかった場合、それ以降での指名を辞退し大学や社会人チームに進むといった所謂「指名順位縛り」を設けてドラフトに臨む場合があります。これには、例えば上位と下位での球団の扱い(契約金や年俸、入団後の待遇など)や、高い評価(≒高い指名順位)を受けて自信を持ってプロに入りたいといった選手もいます。社会人の場合も同様で、ある順位までに指名されなかったらチームに残留するという選手がいます。
ドラフトの制度上はこういった選手を下位で指名することは不可能ではありませんが、入団を辞退されれば指名枠がひとつ無駄になってしまいますし、その後の当該チーム、あるいはその選手の進学・就職予定チームとの関係にも軋轢が生じる可能性があります。なので、縛りのある選手が欲しい場合はその順位までに指名する必要があります。
2018年のドラフトで指名順位縛りの例を1人挙げると、ドラフトで広島東洋に2位指名された九州共立大の島内颯太郎投手。彼は3位までに指名されなければ関西の社会人チームに進むことが決まっていました。あとは、名城大の栗林良吏投手。内定先のトヨタ自動車から許可をいただき、2位までという縛りを設けてドラフトに臨みましたが指名はされず、トヨタに就職して2年後のドラフトを待つことになりました。

⑤その年のドラフト市場のトレンド
毎年数多くの候補選手がいるドラフト会議において、年度ごとに豊作なカテゴリ、不作なカテゴリがどうしても生じてしまいます。例えば2017年は清宮幸太郎(早稲田実業・現北海道日本ハム)を筆頭に高校生スラッガーが大豊作でしたし、その前年2016年は今井達也(作新学院・現埼玉西武)ら高校生投手が豊作の年でした。その年のトレンドによって、市場の供給が変わるため、各球団の優先順位にも変動が出てきます。

⑥他球団との駆け引き
上のトレンド要素とも関わりますが、自球団の他に11球団が参加するNPBのドラフトでは、当然自分たちの都合だけで指名するわけにはいきません。欲しいと思った選手も、他球団に先に指名されてしまえば獲得はできません。本当に欲しい選手であれば、他球団より先に、すなわちより上の順位で指名することも検討すべきでしょう。

指名順位は本当に関係ないのか?

そうしてドラフトで入ってくる選手は毎年複数名いますが、果たして本当に「入団したら順位なんて関係ない」のでしょうか?
まず、ドラフト上位では能力・希少価値ともに高いような選手が好まれて指名されやすい傾向にあります。具体的に言うと、投手なら速いボールやプロでも武器になるボールを持ち、先発や試合終盤のリリーフなど、投手陣の柱としての活躍を期待されるようなタイプ、野手ならセンターラインを守り攻守走三拍子揃ったタイプや打率とホームランを両方残せて打線の軸になり得るスラッガータイプが好まれて指名される傾向にあります(もちろん、全てがこの限りではありません)。
中位から下位にかけては、レギュラーを掴もうとしている選手の競争要員としての獲得であったり、既にレギュラーが固まっているポジションでバックアップ要員に据えるための獲得であったり、育成や課題修正ありきの獲得であったり、必ずしもレギュラー級の働きを期待して獲得しているわけではないように感じます。

まず、ドラフト指名を受けた選手は球団と契約を交わし、契約金(育成選手の場合は支度金)と年俸が決められます。ドラフト1位で指名された選手の契約金は満額である1億円という場合が多く、さらに活躍度合いに応じて支払われる出来高がつくケースも多いです。そこから順位が下るとともに契約金の額も小さくなり、下位指名の選手だと1位の選手の半分以下であったり1/3以下となるケースがほとんどです。
年俸も同様です。アマチュア時代の実績や実力をベースに、初年度の活躍期待値が年俸という数値で可視化されるといっても過言ではありません。現在、NPBの一軍最低保証年俸額は1500万円であり、またルーキーに対しての最大年俸額も1500万円ですが、競合ドラ1の選手は(球団であったり高卒か大社かにもよりますが)ほとんどこの額を貰っています。また1位でなくとも上位で指名される即戦力候補の選手はこれに近い額を貰うことが多いです。1年目から一軍で活躍することを期待されている証拠と言えるでしょう。一方で、下位指名の選手は1位の選手の半額程度の年俸でスタートすることがほとんどです。高校生はまだしも、大学や社会人を経由してきた選手ですら700万円台からのスタートになることだってあります。

参考までに、千葉ロッテマリーンズの2018年のドラフト指名選手の契約金・年俸をまとめて載せておきます。

ドラフト1位の藤原は契約金・年俸ともに新人選手の満額で、出来高までついています。高卒ルーキーながら球団の高い期待度が伺い知れます。それ以降は、契約金は順位ごとに下がっていき、8位の土居は藤原の1/5である2,000万円となっています。年俸は高校生か大学生・社会人かで多少の上下がありますが、この額がすなわち来年の活躍に対しての期待であると言えるのではないでしょうか。だとすればこの時点で「スタートラインは同じ」とはならない気もしますが…。

指名順位と可能性・期待水準

毎年、ドラフト候補と呼ばれる選手の人数は(年度によってバラツキはありますが)限られています。これには、高校や大学でプロ志望届の提出が義務付けられていることや上述の順位縛りも一部関係しています。そうして限られたドラフト候補を12球団で獲り合うため、1球団が1年のドラフトで獲得できる選手となるとさらに限られることになります。各球団は、その限られた人数の中でいかにチームの補強ポイントを埋めるかを考えてドラフトに臨みます。

当然ですが、チームの補強ポイントに合致し、なおかつ将来的にチームの中心選手になれる可能性が高いと思われる選手ほど上位で指名されます。2018年のドラフトで言えば、ロッテ他3球団が指名した藤原恭大、中日他4球団が指名した根尾昂(ともに大阪桐蔭)、広島他4球団が指名した小園海斗(報徳学園)ら「高校生野手トリオ」はこうした中心選手になる可能性が十分にあると評価され、同時に各球団の編成部や首脳陣がそうした期待を抱いているはずです。だからこそ競合覚悟の1位で指名するのではないでしょうか?

ドラフト会議は基本的にこの要領で進んでいくため、チームの中心になり得る能力・ポテンシャルを持った選手はどんどん高い順位で指名されていくことが多いです。順位が下っていけばいくほど活躍する可能性はどうしても下がってしまいますし、それに伴いチーム側の期待する水準も下がります。例えば投手なら武器は決して多くないものの特定のタイプの打者に対して力を発揮してくれそうな変則派のタイプであったり、野手ならベンチ要員として代走や守備固めで起用することのできるユーティリティータイプであったりが下位指名で指名される典型的なタイプとして挙げられます。

もちろん、上位指名の選手は必ず活躍し下位指名の選手は絶対に活躍しないというわけではないのは皆さんにも理解していただけていると思っていますが、ここで私が言いたいのは「可能性」と「期待水準」は指名順位が下っていくとともにどうしても下がっていくものだということです。指名順位が全てではありませんが、例えばショートの即戦力をどうしても欲している球団がドラフト8位で選手を指名した場合、どの程度期待できるか?ということです。一軍でフルシーズン戦って.250前後の打率を残し、破綻なく守備をこなせる選手として期待できるか?ということです。

ただし、まだ体力的・技術的・精神的に未熟な高校生や、大学生の中でも素材型に分類されるタイプの選手だと下位指名でも話が変わってきます。圧倒的なポテンシャル、例えば球速や打球の飛距離、足の速さや肩の強さなどがない限りこういった育成ありきなタイプは下位に回されがちです。また、こういったタイプの選手だと入団後に本人の努力等で編成陣の想定していたポテンシャルを遥かに凌ぐまでに成長し、レギュラーまで上り詰めるというケースもあります。駒澤大学時代に、東都リーグ通算打率.241、2本塁打、26打点という微妙な成績だった選手が後に広島と阪神で4番を務め、2000本安打300本塁打を達成するレジェンド・新井貴浩になるなんて、当時のスカウト陣はきっと誰一人として想像していなかったでしょう。ただし、少なくともドラフトの段階では入団後の突然変異的な能力の変化まではなかなか想定できないため、上位での指名はリスキーと言わざるを得ません。実際に、上位でポテンシャルを期待されて入団したものの開花せずにプロの世界から消えていった選手も少なくないはずです。選手の担当スカウトは練習や試合で選手の現在の姿(身体・技術・練習態度等)を視察して将来像をある程度想定した上で指名を推薦するのでしょうが、ある一定ラインを超えるとそれはもはや未来予知の次元に突入してくるでしょうし、スカウトも超能力者ではないためそこまでは追うことができないでしょう。

終わりに:下位指名の現実

先ほど指名順位と可能性・期待水準の話をしましたが、そういった側面から見ると大切なのは下位指名の選手を大成させることよりも上位で指名した選手をしっかりと一軍戦力に押し上げることだと私は思います。上位指名の選手は当初チームの大きな穴を埋めるべく指名された選手のはずなので、そうした選手がチームの穴を塞ぐ活躍をしない限りチームは一向に弱いままです(外部からの補強という選択肢はありますが)。一方で下位指名の選手はチームの小さな穴・もしくは穴になりそうな箇所を補填するために指名されることがほとんどなので、もし万が一活躍できなかった場合でもさほど大きなマイナスにはなりません。しかし下位指名の選手が上位指名の選手で埋める予定だった穴を埋めるのはなかなかに難易度の高いことですので、編成の観点から語ればやはり上位の選手が指名順位にふさわしい活躍をしてくれることこそがチームの勝利・優勝に近づくための条件なのではないかと考えます。

各球団、ドラフト会議の会場に持ち込む最終ドラフト候補リストは当日の指名予定人数にもよりますがおよそ80名から100名程度だと言われています。上位3位あたりまでは指名選手を決める上である程度選択肢があり、比較的自由に指名ができるでしょうが、そこから順位が下っていくとリストに載せた選手が次第に他球団に指名されていき、残った数少ない選択肢からのチョイスということになります。下位指名の選手となると、リストに載せるかどうかといったボーダーラインの選手であることも多くなるわけで、そうした選手は必ずしもスカウト陣から「こいつは成功する!」と確信を持たれて指名されたわけでもないのが実情でしょう。

また、順位で期待値が変わるということは、首脳陣の起用にも変わりが生じてくるかもしれません。特に、最近だと二軍の現場とフロントを繋ぐファームディレクター等のポストが登場したり、選手の投球回数・打席数を管理する球団が現れるなど育成も管理のもと行われる時代になりつつあります。例えば同じ高校生内野手でもドラフト上位で指名した選手ならばそれだけ活躍してほしい、活躍できなかった際のマイナスが大きくなるという視点で出場試合数や打席数を優遇されるかもしれませんが、下位指名の選手となると言い方は失礼かもしれませんが上位指名の選手に比べてマイナスは小さく済むことが多いため、そこまで優先的に出場機会が与えられるわけではない、といったことが実際にあるようです。もちろん、下位指名の選手でもキラリと光るものを首脳陣に評価されればそこから機会を得ることはありますが。また、球団がどれだけ我慢をしてくれるかという側面で見ても、下位指名の選手の方が先に戦力外通告を受けやすいというのは否めません。

ここまで読み進めてくださった方にはもう既におわかりいただけたかと思いますが、「入ったら順位なんて関係ないか?」という問いに対する答え、結論は「NO」です。順位なんて関係ないというのは選手自身がそのつもりで競争に勝ち抜くんだという意思表示の表れの言葉として使うものだと私は思います。

最後に、Twitterでこのような話をしたところ、「じゃあ〇〇はどうなんだ」「〇〇は育成からレギュラー掴んだぞ」などと下位指名の選手や育成指名の選手を例に挙げて反論をいただきました。大変ありがたいことですが、皆さん活躍した選手にばかり注目していませんか?(もちろん下位指名から這い上がって活躍した選手は素晴らしいばかりですが)

努力で這い上がって一軍の舞台で活躍する下位指名の選手よりもはるかに多くの下位指名の選手が、一軍の舞台で大観衆が視線を寄せるグラウンドに立って野球をすることなく現役生活を終えているということから目を背けてはいけない。私はそう思います。

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