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育成ドラフトで指名された高校生の何割が支配下登録されるのか?

※計算違い、数え間違いがあったら、申し訳ありません。

昨今話題の高卒・育成選手契約でNPB球団に入団するかどうか。
前号の『野球太郎No.052 ドラフト直前号』に掲載したように、育成選手について【昔拒否、今許容】する指導者もいたり、

『野球太郎No.052 2024ドラフト直前大特集号』より

そもそも高卒プロを勧めない指導者(広陵高の中井監督の取材記事は昨年のドラフト総決算号で掲載しました)もいらしたりします。
指導者も、選手もそれぞれの考え、希望があるので、
最終的には選手個人(やご家族)が気持ちよく次のステージに向かう決断ができれば、赤の他人がどうすべきなど言うのではなく、どんな結論でもそれでいいのでは、と私は思います。
今回の古川遼投手(日本学園高)については、自分の決断を信じ、がんばってほしいです。

その一方で、「外野」が「高卒育成なら大学から支配下でNPBに行ったほうがいい」、なかには「上位指名でいけるでしょう」とさぞ簡単なように意見するのを見かけます。
また、「育成指名から活躍する選手に引っ張られるけど、実際に育成から成功するのは難しい」「特にソフトバンクは選手数も多いし競争が激しいからやめたほうがいい」「いつ育成に落とされるかわからない」とも言われます。

余談ですが、今シーズン中に支配下に昇格した選手でも、石塚綜一郎選手、佐藤直樹選手、緒方理貢選手、川村友斗選手、前田純投手は留まりましたね。

イメージで語られることの多い話なので、実際に高卒育成から昇格できる選手はどれだけいたのか、割合はどんなもんで、球団によって差があるのでしょうか? その謎を解明するため、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった――。

①2012年から21年に高卒で育成指名された選手数と支配下に昇格した選手数を調べました。

いったん昇格した数だけなので、再降格した、1軍で戦力化したか、までは未調査です。
結果は27%の選手が支配下登録に至ったようです。
もっと低いと思っていましたが、意外に高かったです(私の感想)。

②12球団別の直近10年と、数球団の2005-13年の9年間の指名数・支配下昇格数とその割合を、我々一生懸命調べました……そしてお母さん…わかりました。

やはりソフトバンクは他球団より昇格の割合は低く、とりわけ3軍、4軍と拡張し、指名選手がどんどん増えていった直近10年、高校生に絞った直近8年(2014-21年)はよりいっそう支配下に昇格した割合は下がります。
(現段階では、選手のスケールの大きさ、勝利貢献度の高さのような話は考えません)
阪神やヤクルトは、直近10年の指名でいうと半数以上が昇格した一方で、昇格率2割以下の球団もあったりしました。

この球団はこのパーセンテージだから育成契約でも行く・行かない、などの区別、条件づけは出たりはしないでしょうが、現状の数字はこうである、と頭に入れていただけると幸いです。

③育成→支配下の流れから変わって、大学進学ののち、4年後に支配下で指名される選手について考えます。
育成指名されるようなレベル≒東京六大学、東都の主要大学に推薦で入学できるレベル、と仮定します。
ここ2年で、支配下指名された選手が所属する東京六大学、東都の、入学当時(2020年、21年に)野球部のスポーツ推薦で入学した人数と、支配下で指名を受けた選手を確認すると、
支配下で指名された選手は、推薦入学した総数の9%、という結果になりました。
(なかには、確かな実力はあるけど、プロ志望せず社会人に進んだ選手もいれば、反対に入学時に十分力があるのに、大学進学を表明する選手もいるので、そのあたりは相殺ということで)

ただ、9%前後の数字も取り繕った結果で、しかも今年分は1大学で6選手指名されたFJ大学を加えていたり、明確な野球部でのスポーツ推薦があっても、過去2年でドラフト指名がなかった大学は、この計算に加えていないので、そのあたりや入学する選手レベルは同等のものがある首都大学リーグのチームを加えたら、もっと割合は下がりそうな気がします(あくまでも推測のみ)。

ちなみに、大学名をアルファベット1文字で表していますが、よくあるイニシャルではありません。
具体的にはC大は中央大でなく、M大は明治大、H大は法政大ではありません。
はっきりと指名された大学と指名されていない大学と出すのも申し訳なく思い、少し細工を施しました。

④以上のように、高卒育成選手の支配下昇格率は約27%に対して、主要大学の推薦入学→支配下指名率は約9%でした。

高卒育成契約のほうが優れている! 支配下になりやすい! と言いたいのではなく、相応の実力を持って大学進学をしても、4年後にプロ入りできるのは簡単ではないと思っていただければと。
「高卒育成じゃなくて、大卒時に支配下で行けばいいじゃん」などのように安易に言わない方が賢明だと感じます。

育成契約でも20歳そこそこで超一流に触れられる経験は価値があり、たとえ3年で野球で飯を食えないとわかっても、その超一流を知った経験が今後の人生に生きるかもしれません。
21歳なら新しい人生を歩むとしても十分若いでしょう。
なんといっても、野球をやる環境が素晴らしく(多少相性がマッチするかどうかはありますが……)、衣食住の環境を自分で整える心配もなく、24時間野球の能力向上に打ち込めるので、単純にレベルアップするならば圧倒的に育成契約でNPB球団にお世話になるほうがいいでしょう。指導者はピンキリでしょうが、特に裏のスタッフの方々の充実度は、プロの世界には及ばないです。

一方、大学に進めば、野球以外の場でもいろいろな出会いもあり、野球だけじゃない生活を自分で管理しながら学ぶこともある。もちろん勉強もできる。
野球で社会人に就職できることもあり、それでいい人生プランを形成するのも1つの方法です。
もし万が一、野球でうまくいかなかった場合、一般学生と同じように一般就職の道にスムーズに入っていけることもできるでしょう。かつ大学野球部出身を有効利用できることもあるかもしれませんし。

あらためて、NPBの育成選手も大学野球も(ここでは言及しなかった社会人野球や独立リーグなどにも)利点、欠点があり、
なにを選んでも、その後に支配下のプロ野球選手になることは簡単ではありません。

また、高卒社会人の入社数・指名割合などは出しませんでした。それは、古川遼投手は大学進学を目指しているということなので、今回は大学生に絞った話で展開しました。

多少補足しますと、社会人からドラフト指名される選手は高校大学と比較すると少なく、そのなかで、今年指名された社会人選手の経歴は、高卒2人に対し、大卒は11人。昨年は高卒3人、大卒11人。
入社数の違いもあるので、社会人野球に高卒で行くのがいいか、大卒の方が活躍割合が高いのかは、まだわかりません。いつかの機会にまた考えたいと思います。
ただ、いままで明らかになっている話ですと、高校→プロ2軍以上に、高校→社会人のレベル差にとまどうことが多いので、「高校から社会人に進んで、支配下指名を目指せばいい」などという言葉を外野から投げかけるのも、軽率なものかなと感じてしまいます。
そんな高校生が社会人野球に挑戦する難しさの話もしているのが、野球太郎No.053の箱山遥斗選手インタビューなので、ぜひ読んでみてください。

『野球太郎No.053 2024ドラフト総決算&2025大展望号』より

さいごに。
高卒で育成選手でNPB入りをしても、どの大学に入学しても、支配下選手になることは、とてつもなく難しいことです。
各カテゴリーで現役としてプレーしている野球選手が多い中、選ばれし上位数%の実力を得た(かつ需要と供給のタイミングがマッチした)人間しか、NPBの球団と契約できません。
プロ野球ファンの方々にとっては、1軍の試合で活躍する、チームの勝ちに貢献するかが、すごい選手かどうかの判断材料になってしまうかもしれませんが、
育成ドラフトで指名されるだけでもすごいですし、
プロ野球選手になる、支配下登録されることは、とても困難であることをご理解いただけたら、ありがたく存じます。