「ロマン枠」と「四国出身者」 侍ジャパン大学代表候補強化合宿レポート【Vol.3】
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【Vol.1】投手編、【Vol.2】野手編に続く、【Vol.3】は、『野球太郎』ならではの「ロマン枠」と、筆者が高校時代に取材したことのある思い入れの深い「四国出身選手」を紹介する。
衝撃の「155キロ」
「マジかよ……」
2日目紅白戦・午前の最終となる6回表。投球練習から力感なく右腕を振り150キロオーバーを連発する冨士隼斗(平成国際大3年)の姿に、一般客のみならず、プロのスカウト陣からもざわめきが起こった。筆者も思わず冒頭の言葉を漏らしてしまった。
周囲の期待に応えるように「自分の持ち味を出そうとしてストレートを多めに投げた」と冨士は語る。149キロ、151キロで最初の打者を投手ゴロに打ち取ると、続く川久保瞭太(同志社大2年)への初球。アウトコース高め、明らかなボール球ながらキャッチャーミットに突き刺さる弾道にバットが空を切った瞬間、坊っちゃんスタジアムのスコアボードには「155キロ」が表示され、スタンドからは「うぉーーーーー!!」という感嘆の声が上がった。ちなみに過去、坊っちゃんスタジアムで155キロ以上をマークした大学生は、今年8月の東京六大学オールスターで157キロを出した楽天1位指名・荘司康誠(立教大)、そして2009年の日米大学野球第1戦で156キロを出したゲリット・コール(UCLA)。そう、今やニューヨーク・ヤンキースの大エースとなったあのコールである。そして、冨士の3人だけだ。大宮東高時代はヒジなど細かいケガが多く、公式戦登板はなかった冨士だが、「大学で全身を使って投げることに取り組んだ」。この取り組みが功を奏したことでつかんだ「剛腕」が、最終学年で目標の158キロを超えて、どれほどの進化を遂げるのか楽しみでならない。
天理高軟式野球部出身の真野凜風(同志社大3年)は、「来年に侍ジャパン大学代表に入る気持ちで来た」と気持ちのこもった投球を披露する。最速149キロを出して2回1安打2奪三振。夏にソフトバンク3軍を封じ、今合宿でも最速149キロをマークした左腕・滝田一希(星槎道都大3年)も「ロマン枠投手」として要注目だ。
足と守備で際立つ存在
野手の「ロマン枠」筆頭は宮崎一樹(山梨学院大3年)だ。シートノックから各塁への正確かつ強い返球が光った外野手は、紅白戦でも守備で躍動。2日目午前にはライトから一直線の送球で宗山塁(明治大2年)のタッチアップ生還を封じると、午後もレフトファウルゾーンへのフライをスライディングで好捕。3日目の50メートル走では5秒91と参加野手トップタイムを叩き出した。
6打数ノーヒット3三振と打撃面では大きな課題が残った。しかし、オフのこの時期に今のスイングでは「厳しい」ことを知ったのは、むしろプラスに捉えてほしい。足・守備は現時点で十分プロレベルには達しているだけに、打撃のパフォーマンス向上次第でドラフトでも「上」が見えてくるはずだ。
筆者期待の「四国出身選手たち」
筆者は四国に住みライター活動をしている、という前置きをしたところで最後は今回参加した「四国出身」の3選手について。高校時代から知っている彼らを、エールも込めて紹介したい。
徳島商高時代は俊足・強肩強打の遊撃手として活躍し「大学に行かなかったら指名があったはず」とプロのスカウト陣にも高評価されていた石上泰輝(東洋大3年)。紅白戦で力強い2安打。守備面でも足運びのよさに磨きがかかっていた。視察に訪れた徳島商高・森影浩章監督が「体重が増えて少し遅くなった」と話した脚力(50メートル走6秒07)を、高校時代のように戻せれば、ドラフト指名も十分考えられるだろう。
宇和島高東3年時には夏の甲子園に出場。その甲子園では密かに某球団がチェックに訪れていた村上裕一郎(九州共立大3年)は、紅白戦3打数ノーヒット1四球2三振と、松本凌人(名城大3年)の前に4打数ノーヒット3三振に終わった明治神宮大会に続き、アピールできなかった。ただ、最終日のフリーバッティングでは柵越えを放ち、福岡六大学リーグ4本塁打の根拠は示した。
高校時代から大舞台で緊張する傾向がある村上だが、素材は一級品。「もっとレベルアップして侍ジャパン大学代表に選んでもらえるようにしたい」と語る意気込みを、力を抜いて出し切れるようにしたい。
そして「高校時代より上下が連動して投げられるようになって力強さが出ているし、球持ちもいい」とプロのスカウトからも合格点をもらったのが、鳴門渦潮高では3番手だった徳山一翔(環太平洋大2年)。明治神宮大会・国際武道大戦で自己最速にあと1キロと迫る147キロを叩き出し、7回無安打2四球9奪三振と最高の全国大会デビューを飾った。好調ぶりを維持して参加した今合宿の紅白戦でも147キロを出し2回を無失点と好投した。
使える変化球が120キロ後半のスライダーしかない課題はあるものの、スライダーの球速があと5キロ増し、チェンジアップ系の変化球を操ることができるようになれば、2024年ドラフトの上位候補に上がってくるであろう素材だ。筆者も引き続き、四国から足を運べる中国地区大学リーグ戦を追っていきたい。
【Vol.1】で記したようにこの坊っちゃんスタジアムで行われる強化合宿に参加した選手が、2022年ドラフトで12名指名されている。最後にあらためて今合宿に参加した選手の一覧表を掲載するので、来季の観戦構想を練ってみてください。
取材・文=寺下友徳