足し算をする医者、引き算をしたい薬剤師 ~やくわりの話~
どうも、薬剤師の川島敦です。
昨日は薬剤師のしごと、ダブルチェックについて書きました。
今日はダブルチェックの中でも、副作用の発見について書こうと思います。
医者と薬剤師の関係、というよりは役割分担の話です。
医者の役割は救うこと!
まず医者という職種にどういうイメージを持っていますか?
多くの方は『人の命を救う』というイメージを持っていると思います。
特に救急救命や(緊急)手術のイメージが強いですよね。
名医、ゴッドハンド、といった小説やドラマにもなる、アレです。
しかし僕らが日常生活でお医者さんにお世話になるシーンは、こういう命がけのシーンではなくて、もっと軽い『体調不良』の方が多いですよね?
なので医者の『人の命を救う』というイメージを分解すると・・・
『人の病気を治す』だと思うのです。
さらに掘り下げると『病気を治すために(薬物)治療する』です。
調子が悪い時に、どこに原因があり、その原因を取り除くための薬を処方する、というのが今のお医者さんの基本的な考え方だと思います。
具体的に、風邪症状で医者にかかった時をイメージしてみましょう。
患者A
「鼻水と喉の痛みが2日ほど続いて、咳が昨日から出てきた。熱は無いです。
冷房をつけっぱなしで寝ているので、それから調子が悪いんですよね。暑いと寝付けないので25℃設定にしています。
夏の暑さで食欲も落ちてるのであまり食べてなかったです。」
医者「(症状から風邪の初期症状と診断し)鼻と喉の通りを良くする薬、喉の炎症止めを処方しときます。
水分と栄養と睡眠をしっかりとるように。
からだを冷やさないように冷房もタイマーセットするか、設定温度を27-28℃にしてくださいね。」
このように、なにか症状があればその症状を取り除くために薬を活用する、というイメージです。
いわゆる対症療法、というやつですね。
水分と栄養と睡眠をとるように、という生活指導は根治療法や原因療法と言われるもので、こっちの方が治療には大切だったりします。
薬剤師の役割は副作用チェッカー?
話がそれたので、戻します。
このように『症状』に対して『薬を使う』(足していく)というのは、医者として何も矛盾の無い行動です。
これの何が問題なの?
と思う方の方が『普通』だと思います。
ただ、薬剤師という生き物は、この足し算に対して、いつも目くじらを立てています。
目くじらを立てているというか、本当にそれで良いのか?と疑問を持っている、ほうが適切ですね。
例に上げたような風邪症状であれば、症状が治まれば薬を止めて日常生活に戻ります。
風邪症状が落ち着いても「薬を続けたい」という患者さんも医者もいないと思います。
ですが、症状が治まっても「念のため続けたい」という患者さんや、「念のため続けましょう」という医者が多いのもまた事実です。
念のため処方?
実際に経験した事例を紹介します。
胃腸の調子が悪く、食欲が落ちていた患者さんB。
スルピリドという薬が処方されました。
※スルピリドは胃腸の働きを良くしたり、食欲を出す薬です。うつの薬として使われることもあります。
胃腸の調子は良くなり、食欲も戻りました。
ですが、処方は継続して出されます。
おそらく「念のため」処方です。
(※スルピリドは院内処方で病院内で直接薬をもらっていたので、この辺の詳細には僕はノータッチでした。)
半年くらい経ってから、患者さんBから相談がありました。
B「最近、足の運びが悪いと友達から言われる。
実際に、カーペットのような小さい段差でもつまづくことがある。」
薬剤師ならピーンときます。
「それ、スルピリドの副作用=パーキンソニズムじゃないの?」と。
そこで、このような指導をしました。
僕「Bさん、このスルピリドは何の症状で出されたか覚えてる?
食欲がなかったり、胃腸の調子が悪いと使われる薬なんだけど。」
B「前に食欲が無い時に出された薬だね。」
僕「今は食欲は普通にあるの?胃腸の調子は悪くない?」
B「特に問題ないなぁ。」
僕「それは良かったです。
Bさん、足が動きにくいのは、このスルピリドの副作用かもしれない。
続けて飲んでいると、そういう症状が出ることがあるから、胃腸の調子が問題なければ、いったん減らして(1日3回飲むところを2回に減らしたり、1回に減らしたり)様子を見てください。
胃腸の調子が問題なければ、そのまま止めても大丈夫なお薬だから。
お医者さんにも、そのように伝えておきますね。」
B「そんな副作用もあるの? じゃあ、この薬(スルピリド)飲まないで様子を見てみる。」
ということで、薬を飲まずに様子を見ることになりました。
処方していた医者にはコトの経緯を書いて、指導内容に問題があれば連絡をいただくように、FAXしました。
医者から特に返事は無かったのですが、数日後にBさんに確認の電話をしたところ、スルピリドの処方は無くなり様子を見ることになったとのこと。
それから2週間くらいでしょうか、Bさんと話をしたら、足の運びも今まで通りになり、つまづくこともなくなった、と言われました。
めでたしめでたし。
引き算の発想と薬をみる視点
ここで伝えたいのはもちろん「オレすごいでしょ!?」というコトではありません。
薬剤師というのは何か体の不調を訴えてきたときに「薬の副作用の可能性はないか?」という視点でみる生き物ということです。
もちろん、薬の副作用ではなく純粋に病気の進行で起こっている症状のこともあります。
例えばBさんで言えば、純粋にパーキンソン病を発症して、パーキンソン病の薬を飲まなければいけない状態だったのかもしれません。
ただし、今回のケースでは薬の副作用(スルピリドのせい)で出ていた症状だったので、スルピリドをやめれば治りました。
もし「引き算の発想」がなくて「パーキンソン症状がでている」ので「パーキンソンの薬を処方する」となっていたら?
スルピリドという不要な薬を飲み続けてただけでなく、スルピリドの副作用のために、さらにパーキンソンの薬を飲むことになっていました。
じゃあなぜ、僕はそれに気づけたか?そのような視点を持っているのか?
それは「薬理作用」を考え方のベースに持っているからです。
「薬理」とは薬が体のどのスイッチ(受容体)をいじって、どういう作用(&副作用)だすのか、という学問です。
薬剤師は、学生の期間、この「薬理」の勉強にかなりの時間をつかいます。
医学部では「薬理」よりも「病態」「診断」に時間を費やすので、この分野は薬剤師の方が得意分野です。
※医師の本分を考えると薬理に時間をかけている場合じゃないので当然!
もちろん専門領域の薬に関しては医師の方が長けていますし、実際に薬を使用しての治療効果や検査値の変化に対しての肌感は圧倒的にあります。
ですが、専門領域外の薬に対しては、学生の頃や研修医として働いていた頃の知識で止まっている。止まっていなくても、薬の名前や使い方は知っていても「薬理作用」まで理解していないこともあります。
これは人間の時間には限りがあるので、当然です。
ですから薬剤師という役割があって「薬理作用」から副作用が起きていないか?という視点を持っているのが、大切なのです。
偉そうに色々と書きましたが、患者さんの訴えから医師が副作用を発見し薬を中止することも多々あります。
また今回のように、僕が発見することで患者さんや医師から感謝されることもあります。
かかりつけを持っておく安心感
なにより伝えたいのは、今回のBさんのように普段からお付き合いをしていると状態の変化に気づきやすい、ということです。
皆さんも、是非
「最近、調子が悪いなー」
と思ったら相談できる、いきつけの(かかりつけ)薬局・薬剤師をみつけておくことをおススメします。
以上、薬剤師の川島敦でした。
※医師の仕事は上記のような単純な仕事ではないことは承知してますが、医療者でない方が見た時にわかりやすく書いています。
※最近は「ポリファーマシー」という言葉も新聞にも載ることもあり、多くの医師が「薬の副作用」という視点を持っていることは喜ばしいことであります。
※薬剤師はすぐに「薬の副作用じゃないか?」と思いすぎてしまうのも、それはそれで危険なので気を付けたいと思います。