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医者が血圧の薬と抗がん剤を間違えた?~薬剤師のしごと~

どうも薬剤師の川島敦です。

今日は「なぜ、わざわざ薬局で薬をもらうのか?」というテーマで書こうと思います。

先日とある方と色々お話をしていた時に

「なるほど、今日、初めて医薬分業の意義がわかった!」と言われました。

過去にも同じようなセリフを言われたことはありましたが、今回言われたのは、とある業界のトップランナーの方だったので「あぁ、情報感度が高い方にも、医薬分業、つまり薬剤師がいる意味が伝わってないんだなぁ」と実感したのです。

薬剤師に対して、医薬分業に対して同様の感想を持っている方にも、是非、見ていただきたい内容です。

では本題に入ります。

降圧剤と抗がん剤を間違えて処方された

まず【体調が悪く、医者にかかり、処方せんを書いてもらって、薬局に行って薬をもらう】。という流れはわかってもらっている、ということで進めていきます。

10年前くらいの話ですが、実際にこのような処方を受けました。

ノルバデックス10mg 1錠

1日1回 朝食後服用 30日分

この時に処方箋を持ってきた方は男性でした。

ちなみに「ノルバデックス」は乳がんに使われるお薬です。

薬歴(薬局で記録を残している調剤のデータ。顧客データですね。)を確認したところ、うちの薬局で薬を渡すのは初めてでした。

お薬手帳も持っていない・・・。

つまりこの患者さんが過去に何の薬を飲んでいたかの情報が全くない状況でした。

そこで、薬を準備する前に尋ねました。

「今日はどのようなお薬を処方されるか、医師から聞いてますか?」と。

ノルバデックス と ノルバスク

患者さんはこう答えてくださいました。

「血圧の薬を増やすと言われました。

今まで5mgだったのを10mgにする、と。」

ここで薬剤師ならピンときます。

「研修で学ぶアレか。」と。

お薬のなかには、名前は似てるが働きは全く別物、というものも少なくありません。

その一つがこれです。

ノルバデックス=抗がん剤

ノルバスク=高血圧の薬(狭心症でも使われます)

今回のケースでは

ノルバスク5mgから10mgに増量したかったが、

コンピューターを打つ時に「ノルバデックス10mg」と入力ミスしてしまったのでしょう。

ここで僕はこう答えました。

「(答えていただき)ありがとうございます。

今回処方されたお薬はノルバデックスというお薬だったのですが、今まで飲んでいた血圧の薬は「ノルバスク」じゃなかったですか?」

患者さんからの答えはYes。

ということで、事情をお話して病院に問い合わせ。

無事「ノルバスク10mg」を調剤しました。

(当時は10mgの販売が無く、5mg*2錠で対応)

患者さんにも感謝され、こういう時の為にもお薬手帳は持ってた方が良いね、ということもお伝えしてお帰りいただきました。

これにて一件落着。

なぜこんなことが起こるのか?

医師は血圧の薬を処方する、と患者さんに言っているのに、処方せんには抗がん剤が印字されていた・・・。

なぜこんなことが起こるのか?

仕組みがわからないと意味が分からないミスですよね。

これはコンピューターの仕様の問題です。

多くの病院で採用している処方せんを発行するソフトでは、初めの3文字を入力して候補薬の一覧から薬を選んでクリック(決定)する。というシステムを採用しています。

なので今回だとノルバと入力してノルバスク10mgを選びたかったけれでも、ノルバデックス10mgを選んでしまった。

というパターンです。

疑義照会は2%以上というデータも

こんなのレアケースでしょ?と思われるかもしれません。

平成27年の日本薬剤師会が公表しているデータによると

処方せんの発行枚数に対して2.56% 疑義照会が行われていました。

(※疑義照会とは、処方せんの内容に「あれ?」と思うことがあった時に、薬剤師が医師に確認をすることです。場合によっては薬の変更、削除の提案をすることもあります。)

処方せん100枚中2~3枚の割合です。

実際に現場で働いている肌感ではもう少し多いような気もしますが、平均値なので、こんなものかなぁとも思います。

疑義照会したなかで、処方が変更された割合が74.88% でした。

つまり発行されている処方せんのうち1.5%は、処方変更された。ということです。

100枚に1~2枚は【問題のある処方せん】が混じっている可能性がある、ということですね。

これを多いと思うか、少ないと思うかは人それぞれですが、薬なので限りなくゼロに近づけたい、というのが医療者全員の想いです。

※2020年度の処方せんが7.4億枚なので
1.5%とすると約1000万枚に処方変更があった計算になります。

なんでそんなことをお前に言わなきゃいけないんだ!?

今回何故気づけたのか?というと、2つのハードルがあります。
1つ目は薬剤師にフラグが立つか?ですね。
知識が無いと気づかない可能性があります。

そして2つ目のハードルは患者さんです。
患者さんから教えてもらえるかどうか?

薬剤師として非常にやっかいなのはこのセリフです。

「医者に色々話したのに、なんでお前にもう一度話さないといけないんだ」

ごもっとも。ごもっともなんですよね、これ。

ただ先に書いた通り「100回に1~2回、処方が間違っている」んです。

正しい薬を飲めなくて病気が治らないだけじゃなくて、間違った薬を飲むリスク(副作用の心配)もあります。

なので、医師に話した内容、病状に合った薬が処方されているか、ということをダブルチェックする役割として薬剤師が存在しているのです。

ということで、医者にかかって「わざわざ」薬局に行き、薬をもらわなきゃいけないシステムを国が作った理由がわかってもらえたかと思います。

このダブルチェックの仕組みは医療先進国では当たり前のこと、と僕が学生時代(1998~2002年)にも教わっていました。

やっと医薬分業率が70%を超えた日本ですが、いまだに「院内に薬を戻せ」という医師や、経済エコノミスト、患者さんたちが一定数いらっしゃいます。気持ちはわかりますが残念なことです。

(緊急性のある薬だけは院内で渡す、という例外事例はここでは議論しません。)

99%は薬剤師は何もしてないように見える

そうは言っても100件中1~2件ということは、逆に言うと98~99件は何もしてないように見えてしまう、というのも、また事実です。

薬剤師は医者の処方どおり薬をそろえて渡すだけで高い給料(税金が投入されている)もらっている、と言われることもあります。

その通りです。表面だけみたら、本当にその通りです。

ただし、問題の無い98~99件にも「本当に問題ないか?」と頭をフル回転させていることもお伝えしておきます。

ここまで書いてから、製造業の方と話をしたときに言われたことを思い出しました。

「製品の完成度(完成率?)が95%以上を超えたら、そこからミスをなくすよりも、初期不良が出たら交換した方がコストは安いんです。それが製造業の発想なんですけど、確かに医療ではそうはいかないですよね。」

と言われて、少し救われたことも思い出しました。

今日はこの辺で、失礼いたします。

※医師は意図的に間違っているわけでなく、人間なのでミスをすることもあるよ、というお話です。

※ミスをする、という前提にたってシステムを組む時に「ダブルチェック」という仕組みが有効なのは多くの業界で証明されています。

※だったらダブルチェックの仕組みを構築するのが理にかなっているし、多くの医療先進国でスタンダードな「院外処方(処方せんを発行する)」して「(いきつけの)薬局」で薬をもらう「医薬分業」を進めよう。

という昭和の時代から進めてきた政策の中で起きた現場のお話でした。

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薬剤師 川島敦
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