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手綱のない獣を、封じる為の。【交流企画:ガーデン・ドール】


「どうしよう、かなあ」


青い空の下、花壇の傍らに腰を下ろしたヤクノジは誰にともなく呟いた。


どうしようとは言っているが、その口振りは迷って出たものではない。既に粗方の答えが出ているもののそれだった。


クラス対抗PGPの最中、ヤクノジは罰則通知を受けた。


ガーデンにはいくつかの校則がある。
校則ごとに罰則ポイントが設けられており、10ポイント溜まってしまうと全校集会で生徒が集められた上に公開処刑をされてしまう。

罰則ポイントが溜まる前に贖罪券というものを購入し、それを清算してしまえば問題はないのだが、何とも物騒なシステムである。


ヤクノジも既に贖罪券をポイント分購入したので罰則ポイントは消えているが、やってしまったことの記録が消えるわけではない。


罰則の内容は、『ガーデンに不利益になることを禁ずる』というものだ。
具体的には様々な物事が抵触するのだが、ヤクノジの場合「一般生徒ドールが見ている前でマギアレリックを使用したこと」が不利益とされた。

ガーデンはキミ達が優等生であることを願っています、といういつもの言葉で締めくくられた端末の通知を改めて眺め、ヤクノジは軽く目を伏せる。


別に何も考えていなかったわけではない。


様々な能力を持つマギアレリックだが、ヤクノジが持つ内のひとつは物理的な力を倍増させるという分かりやすい暴力の塊だった。

実にシンプルで、分かりやすい。

その明確な「力」を羨ましがられたこともあるし、マギアビーストとの戦闘のような場面では重要なアイテムにもなる。


だからこそ扱いには気を遣っていたし、そもそも有事でなければ使用することはない。


何より、このマギアレリックはヤクノジが今の人格に変わる前から所持していたもの。なので、ヤクノジの過去と現在を繋ぎ止めるものでもあった。


そこまで厳重に扱っていたからこそ、今になって浮かんだ細やかな疑問に勝てなかった。

果たして、どれだけの力が出るのかと。


共に綱引きをしてくれたイヌイには申し訳ないことをした。けれど、あの時身に染みて感じたのだ。より一層、使用に気を付けなければいけないものなのだと。管理が必要なものなのだと。


けれどこのマギアレリックは困ったことに、「壊れるマギアレリック」だった。


マギアレリックには二種類ある。
壊れるものと、壊れないものだ。

壊れるマギアレリックは、壊すとマギアビーストを出現させる。
そして、出現したマギアビーストを倒すと壊れないマギアレリックに変化して、また誰かに与えられる。
壊れないものになると同時に、効果なども変わってしまうようだが。


以前から考えてはいたのだ。
壊れなくなった状態のものを管理した方がいいのではないかと。


しかし、マギアビーストを出現させてドールを危険に晒してまですることではないと思っていた。
数少ない過去の自分の持ち物を、過去のヤクノジとの繋がりを壊すのは、いい気分がしなかった。


けれど。


「……多分、きっと」


きっと、やるなら今なのだ。


マギアビーストが出現しても、それに対応出来る程に戦闘慣れしたドールがいる。
このマギアレリックと自分との繋がりを、無視しないでいてくれるドールがいる。


不安はある。

自分がマギアビーストを出現させてしまうことに。
ガーデンの平穏を脅かす原因になることに。


けれど、今を逃したら本当に機を逃してしまう。


繋がらない過去を、続かない自我を、捨てるわけではない。
この気持ちは、この孤独は、この身体に刻みついたものだ。
簡単なものだと差し出したり、すぐに消せるものでもない。
この痛みもこの寂しさもこの悔しさもこの嘆きも何もかも。


この身体に、この人格に、刻みついた生傷のままの古傷だ。


ゆっくりと立ち上がり、花壇に咲く花を眺めて目を細め。

寮に貼り出す謝罪と願いの文面をどうするかを考えながら、ヤクノジは自室に向かうことにした。


11月2日に所持しているマギアレリックを壊します。
壊れないマギアレリックにして管理した方が、安全だと考えたからです。
ただ、マギアビーストを出現させてしまうことになる。
それだけは、本当にごめんなさい。
それと、すごくワガママな話なんだけれど、討伐された後にマギアレリックが付与されたら、僕に譲って欲しいんだ。
思い入れ以上に、思い入れがあるから。
うん、すごくワガママなのは自分でも分かってる。でも、お願いします。
出来るだけのお礼もするから。
よろしくお願いします。
      ヤクノジ


#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品
企画運営:トロメニカ・ブルブロさん

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