雪の下でほころぶもの。【交流企画:ガーデン・ドール】
切欠は、異変が起きる前のこと。
異変が起きる数日前のことだったのだ、と後になれば自覚が出来た。
行方が分からなくなった仲間を探し、ガーデン全体に緊張が走っていた日の夕暮れ。
無事に発見した知らせに、自分の傍で良かったとボロボロ涙を流すドールがいた。
以前自分に栞をプレゼントしてくれたリラである。
その涙が此方の緊張感も溶かすようで、そんな状況でもないのに口元に笑みが浮かんだ。
余程安堵したのか腕にしがみついて泣く姿に、泣くのが下手な自分の分も泣いてもらっているようだった。
素直に泣くのは、難しい。
だからこそ、泣いてくれるのは有り難かった。
その数日後、異変が起きた。
緑の多いガーデンが一晩にして、雪で白く染まってしまった。
他の異変に比べればマシと言えなくはないが、急変した天気と気温には驚くしかない。
どういうことだと寒さを堪えて自室の窓を開ければ、顔面に雪玉が直撃した。元気なドールの誰かが我慢出来ずに行ったことだろうが、芸術点が高いので怒りより笑いが込み上げる。
大雪により原因が解決するまで休校。
一般ドールは登校しない。
ということは、風紀委員の仕事が本当になくなってしまう。
異変を解決するとしても、この雪は魅力的だ。少しは遊んでおきたい。冬エリアにまでわざわざ出向かなくとも、ここには大量の雪がある。
遊べと言われているようなものだ。
その一方、雪が危険なのも事実。
場合によっては雪かきでもしたほうがいいのだろう。いい暇つぶしにもなる。
そんなことを考えながら、音もなく降り積もる雪を窓から眺めていた。
何かとトラブル続きだったガーデンが、こんなに静かに白に染まるのか。
そう思えて、寒さを忘れて眺めていた。
夜。
何か温かいものでも飲むかとLDKに入ると、そこには先客がいた。やはり皆突然の寒さに戸惑い、期待を滲ませ、さて今回の異変はどうするかと話している声がする。
寒い中で此処は温かく、いつもより気が緩んでしまいそうだ。
そこにはリラもいて、温められたスープを貰う。此処への廊下を歩いていた時は温かければコーヒーでもいいかと思っていたが、それは同じ風紀委員のリブルに釘を刺された。
先日の騒動もあって、異変は起きていても穏やかな空間はじんわりと温かいマグカップの温度が指先にうつるように染みていく。
これでいい。
これがいい。
この日々が。
いつまでも。
柄にもなく、そう思ってしまうくらいには。
だからつい、スープを飲み干したのに追加でホットココアを作って飲もうと珍しく考えてしまっていた。
もう暫く、この空気に浸っていたいと思っていた。
キッチンでは、リラがにこにこと笑っていて。
ココアを作る間も、他愛のない話に付き合ってくれて。
そういう時間を、受け入れている自分がいた。
だから、リラの隣に座ったのはきっとそういう温かさが心地良かったからで。
自分の隣でうとうとし始めるリラはあたたかくて、数日前の泣き顔が今はこんなに穏やかなことに安心して。
つられて自分も眠くなって。
人前に自分を色々と晒すのは難しくても、特例はあるんだと実感することになった。
#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品
企画運営:トロメニカ・ブルブロさん
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