やくさひろです。
NPAA衛生管理責任者向け衛生知識習得講習で使用していたテキストをnoteで全公開いたします。
やくさひろ手のお手入れ認定インストラクターの方々や、やくさひろネイルスクールに入学された方、またネイルに興味を持たれている方など幅広く一つの読み物としてお時間ある際に目を通していただければと思います。
はじめに
ネイルへ施術する本来の目的は、「健康な爪の育成をサポートする」ことです。健康な爪にすること、更にその健康な爪にアートを施し「楽しみながら健康な爪を保護していく」こと、それを専門的に出来るのが「マニキュアリスト」の役割であると考えています。
NPAAではこれらのことを習得して初めて「お客様に対して施術が出来る」知識を有していると考えています。
ネイルのプロであるマニキュアリストとしてお客様に施術を行なうという意義をご理解いただければと思います。
当社におけるネイル検定事業の総称部門を「NPAA」と略して表記いたします。ネイルサロンにおける衛生管理に関する指針は「指針」と略して表記いたします。
1.ネイルサービス業
(1)ネイルサービス業とは何か
つまり、ネイルサービス業とは「清潔で健康な爪を維持し美化するためのサービスを提供する」ということです。これは一番大枠の定義であるといえます。もう少し細かく見ていきましょう。
清潔で健康な爪を維持し美化するためのサービスを提供するためには、どうすることが必要なのでしょうか。NPAAでは、
とネイルサービス業の内容を定義しています。NPAAではこの内容をネイルサービス業の内容をより具体的に示したものと考えています。
(2)ネイルサービスと責任
ネイルサービス業は「健康な爪を維持し美化するためのサービス」であり、更に技術的サービス・人的サービス・サービスの安全性の3つのサービスに分かれます。ネイルサービス業はこの3つのサービスをお客様に提供する(責任を果たす)ことですが、それでは、お客様に「提供した」(責任を果たした)といえるためには、どうすることが必要でしょうか。ここでは、サービスを行なう上でのネイルサロンの「責任」にスポットを当てます。
ネイルサービスの責任を裁判所が判断した例はありませんので、美容室の美容契約の内容を裁判所が判断した事例を紹介しました。
美容院における美容サービス、ネイルサロンにおけるネイルサービスには以下の共通点があります。
①デザインについての原告の求めはある程度抽象的であること
②頭髪と同様、爪の状態、性質には個人差があり、年齢、コンディションによっても変化するため、同じ施術を施しても同じになるとは限らない。
③施術において、有機溶剤、ニッパー、プッシャー等お客様の生命、身体を害する恐れのある用品を利用する
このような共通点より、美容室における美容契約の内容は、ネイルサロンにおけるネイルサービスの内容と合致するとNPAAは考えておりますので、その考えに沿って進めていきます。
ポイント
ネイルサロンがネイルサービスにおいてお客様に対して負う責任の内容は
という3つです。これらの責任を全て果たした時に始めて「お客様に対してネイルサービス上の責任を果たした」ということになります。
(3)施術契約の種類
◎ネイルサロンにおける施術契約は、裁判所の判断から「準委任契約」(民法656条)の一種と解釈され得ると言われています。つまり、「仕事の完成を目的」(請負契約 民法632条)とするのではなく「仕事の実施を目的」とする契約となります。その理由として
①施術における完成形は、お客様のイメージの中にありますが、ネイルはそのイメージを施術者の技術と感性(センス)で施術するため、その完成形を特定することが難しい。
②爪の状態は個人差があり、年齢、コンディション等で施術が変化することがあり、お客様とイメージと施術が一致することが難しい
ということが挙げられます。
◎準委任契約においては、「善良な管理者の注意」をもって契約内容の実行を行なうことが求められています。「善良な管理者の注意」とは職業上一般的に要求される注意、つまりネイルのプロとして一般的に要求される注意を払うことが必要だということです。
NPAAではこの善良な管理者の注意の具体的な内容が
2.ネイルサービス業における責任の具体例
技術的サービス
技術的サービスの内容
お客様の身体の一部を施術することを認識し、ネイルに関する知識(施術の可否等)、技術 (ケア、アート含め)を提供すること
◎デザインに見合った手法を採用すること(合理的な施術手法)
合理的な施術方法とはネイル業界においては、「使用する用品」によって施術方法が異なる場合が多く見受けられます。統一した施術方法がない以上、もっとも合理的な施術方法といえるのは「ネイル用品のメーカーが打ち出した施術方法」であると思われます。各メーカーは、自社のネイル用品の性質を考慮した使用方法を提唱しています。使用を考えるネイル用品のメーカーが打ち出した施術方法を確実に習得することが重要であると考えています。
その意味でも施術方法の確立されていないいわゆる「ノーブランド用品」の使用には十分注意が必要と言えます。単価が安いからという理由で安易に「使用方法が確立されていない」ネイル用品を使用することは、合理的な施術方法であったか、お客様の安全に配慮する義務を果たしたかという点において考慮されうることだと思われます。
ネイルサービス業にプロとして携わるマニキュアリストは、使用する用品類の知識も習得しておくことを推奨致します。
サービスの安全性
サービスの安全性の内容
お客様の安全に配慮した知識、技術、空間の提供、コンプライアンスを重視したサービスの提供
◎お客様の生命、身体を害しない安全配慮義務
ネイルサロンにおける安全配慮義務 衛生管理の重要性
ネイルサービスにおいてお客様の安全配慮を行なう際、もっとも重要であるのが「衛生管理」です。2010年9月に公表された厚生労働省「ネイルサロンにおける衛生管理に関する指針」(以下「指針」という)は、ネイルサロンに何らかの問題が発生した場合、保健所等が指導にあたる際の基準となるべき内容が記載されています。逆にこの内容を把握し、実践することで、問題を回避することが出来るということになります。ここでは、お客様の生命、身体を害しないために必要な指針の内容を習得します。
衛生管理習得の目的
お客様、従業員の爪の健康・体の健康を守る知識の習得
⇒ 皮膚、爪の構造、感染症等爪の病気に関する知識、作業場の環境
皮膚、爪の構造は、「健康な爪」を知る第一歩です。爪とは何か、ネイルをすることによってどこがどのようにダメージを受けるのか、そのダメージはどのように回復するのか等、「爪」のプロとしての知識が必要です。またネイルサービスを行なうことができない爪の状態とはどのようなものなのか、病気を診断することは出来ませんが、爪の病気等を未然に防ぐ知識が必要となります。
お客様、従業員の爪の健康・体の健康を守る手段の実践
⇒ 使用する道具類の消毒
ネイルサービスに使用する道具類は、お客様に共通に使用するものも多く、いわば感染症の媒介になり得るものです。そのため、正しい使用方法と消毒を行ない、感染等を防ぐことが必要です。道具によって異なる「消毒の正しい手段」を習得し実践することが必要となります。
お客様、従業員の爪の健康・体の健康を守る体制の構築
⇒カルテの作成、説明義務等、従業員管理等
ネイルサービスはマニキュアリストだけで行なうものではなく、お客様にも知っていただく知識や情報があります。またお客様の情報等を把握することで、感染症や健康を害する要因を未然に防ぐことが出来ることもあります。どのようにしてお客様へお知らせするのか、どのようにしてお客様の情報を得るのか、お客様に直接触れる従業員の管理(体調管理等)をどのようにするのか、その体制を構築することが必要となります。
衛生管理責任者とは
指針に記載されている衛生管理責任者の役割は以下の通りです。
〇施術が衛生的に行われるように、常に従業者の衛生教育に努めること。
〇衛生に関する知識を有し、ネイルサロンにおける十分な経験を有することが望ましい。
〇常に従業者の健康管理に注意し、感染性の皮膚疾患にかかったときは、当該従業者を作業に従事させてはならない。
〇従業者が感染症にかかっていないかどうか等、健康状態を毎日確認すること。
〇ネイルサロン、設備、器具等の衛生全般について、毎日点検管理すること。
〇ネイルサロン及び取扱い等に係る具体的な衛生管理要領を作成し、従業者に周知徹底すること。
〇開設者の指示に従い責任をもって衛生管理に努めること。
人的サービス
人的サービスの内容
お客様の御希望、御要望を引き出す力(カウンセリング)、施術の間お客様に安らぎや安心感等を与える接客を行なうこと
◎疑義(内容が曖昧な点)が生じればお客様に確認すること
ネイルサービスにおける疑義
ネイルは、お客様の抽象的なご要望を形にするサービスです。特にお客様からは口頭で要望を聞きますので、マニキュアリストはお客様の話しやすい対応、環境を作り出すことが大切です。ネイルサービスの目的はマニキュアリストがお客様に対して納得いく施術を行なうことではなく、お客様に納得していただける施術を行なうことです。疑義が生じるのはある程度仕方がありません。しかし、お客様との関係を円滑にしてお客様の抱く疑義をお客様の望むように解決することが重要なのです。
お客様の疑義に対応するには
ネイルはマニキュアリストとお客様とがコミュニケーションをとりながら進めていく必要があります。
コミュニケーションとは「二人以上の人間同士が、意思や感情、情報などを相手に正しく伝え、相手から誤りなく受取り、共有すること」をいいます。この共有するプロセスがコミュニケーションです。
これは、お客様とのコミュニケーションだけではなく、ネイルサロンにおけるマニキュアリスト同士のコミュニケーションも必要となります。
また、お客様と一対一で施術を行なうマニキュアリストとしては、接遇、ホスピタリティが必要となります。NPAAではネイルサービスは、ネイルの施術を行なうことに加え、お客様に対する接遇、ホスピタリティもサービスの内容となると考えています。
疑義が生じる要因とその解消
疑義が生じる主な要因は以下の通りです。
さて、これらの要因を少しでも解消するためにはどのようなことが必要でしょうか。
(1)カウンセリングにおいて
コミュニケーション技法を用います。
①お客様の考えや気持ち、意図を理解し、推測することができる。
②お客様に集中してじっくりと話を聴く姿勢を示すことで、お客様を大事に思っていることを示すことができる。
③お客様との関係を安定させることができる。
傾聴を行なうには、以下のことが重要となります。
①お客様の御要望を全面的に受け入れるところからスタートすること
⇒否定的な言葉は、お客様が要望を言うことをためらいます。
②笑顔を浮かべた穏やかな表情を行なうこと
⇒お客様はリラックスして話をすることが出来ます。
うなずき・あいづちの重要性
①真剣に聴いているということを態度で示すことができる。
②お客様が、マニキュアリストの反応をみて、話をつかんでいるのかどうか確認することができ、話を修正することができる。
③お客様の安心感を得ることができる。
単に「うんうん」と同じようなあいづちばかりを繰り返すと逆効果になりかねませんので、確認の意味でお客様のご要望の要点を短くはっきりと繰り返すことでさらに効果的です。
たとえば「それは ~ ということですね」という具合です。ここでは自分の価値観で確認するのではなく、お客様の御要望を受容的に(全面的に受け入れて)きいた結果を確認することが重要です。
また、マニキュアリストがお客様のご要望を理解できていないと判断した場合は、お客様に質問を行ないます。施術中にお客様に進行具合によってお客様のご要望どおりに進んでいるか確認をする際にも使用します。
情報を多く入手したい時(全然理解できていないと感じた場合)
開いた質問 「はい」「いいえ」では答えられない質問
情報や事実(お客様のご要望)を確認したい場合や施術中にお客様に確認を求める場合
閉じた質問 「はい」「いいえ」で答えられる質問
情報共有
同じネイルサロンで働くマニキュアリストは全員「チームの一員」です。全員お客様によりよいネイルサービスを提供することを目的として集まっています。このチームにおいて情報を共有することでお客様の疑義が避けられる場合があります。
一例
接遇とは
お客様への応対と接待を接遇といいます。単なる応対だけでなく、環境を整え、礼儀正しい態度でお客様と接し、お客様の目的が果たせるように心配りし、相互の心が開かれるような状況を作ることです。
接遇に当たる際には
会話(言葉の使い方)
聞き手(お客様)がわかりやすい話し方を心掛けることが大事です。お客様にご理解いただけるように分かりやすく伝えるようにしましょう。
お客様へ話しをする際には
ホスピタリティ
お客様一人一人の立場に立って気配りや配慮をし、心からのおもてなしをすることをホスピタリティといいます。このような深い心地よさは、信頼感や安心感につながります。
ネイルサービスの相手はお客様です。
マニキュアリストの自己満足ではなく、お客様にいかに喜んでいただくかということを考えなければなりません。
そこには施術だけではなく接遇、ホスピタリティ等総合的なサービスが必要となります。お客様と信頼関係を保つサービスを提供し、お客様のご要望に少しでも近づけるよう「お客様が話しやすい環境」を作っていきましょう。
(参考)
ネイルサロンと衛生管理(指針発表の経緯)
衛生管理指針公表の経緯
衛生管理指針の位置づけ
衛生管理指針は厚生労働省健康局長から、各都道府県知事、政令市市長、特別区区長宛、つまり、保健所を設置できる自治体の長に通知されています。また、当指針は、地方自治法第245条の4第1項に規定する技術的助言にあたります。この「技術的」とは主観的判断や意思を伴わないという意味です。
ネイルサロンで健康被害が発生し、保健所等に相談が寄せられた場合は、この指針及び地域の実情に応じて指導又は助言が行われることになります。
また、生活衛生関係営業等衛生問題検討会の資料として公表されている中に、「ガイドラインの位置付け」があります。それによると
とされています。
最後に
ネイルサービス業に従事する者は、ネイルサービスの本質を理解することが重要です。本書はネイルサービスの性質、ネイルサービスおける施術者側の責任、その責任を果たすにはという観点から作成いたしましした。ネイルサービスの全てを網羅している訳ではありません。
ネイルサービスはお客様からお金を頂戴し、ネイルの施術を行ないます。そこには施術を行なう責任の範囲が必ず存在します。
最低限責任を全うするためには、内容をご理解いただくことが大切であると考えています。
ネイルサービス業はこれから益々発展していくことと思いますが、ネイルサービス業に携わる一人一人がプロとしての自覚と更なるスキルアップを目指し精進していくことが、よい方向での発展につながっていくことと思います。
1.ネイルサービス業 の章については、佐藤健宗法律事務所(の佐藤健宗弁護士に監修いただきました。
参考(引用)文献
コミュニケーション検定初級公式ガイドブック&問題集 ㈱サーティファイ
美容師のための接客・接遇マナー ㈱ウイネット
どうでしょうか?
読んでいくうちに頭が痛くなる、一体何からどうすれば?という方もおられることでしょう。わたしも最初は同じでした。具体的に何から着手すればいいのだろうか?と。
いきなり最初から全てを網羅し完璧にサービス提供する必要はないと思います。自身のサロンでできることから少しづつ実践していくことが大切だと考えます。
初心に立ち返り、本当の意味でのネイルサービスとは?こういったディスカッションをサロン内に行ってみることをおすすめします。
多角的な視点から、そのサロンのやるべきことが発見できることもあるからです。
日本中に、世界中に笑顔溢れるコミュニティをもっともっと増やしていきましょう!