8.23
この生は逃避によって続いてきた。いまも、逃げているといえばそうだろう。何から、と問われればそれはきっと多岐にわたる。出来事から、人から、言葉から、規範から。わたしはずっと、ごく自然に、よくわからない人でいたかった。
近づけないのではなく、とおいひと。概念ではなく、実体めいていないひと。やわらかな部分を晒しながら(例えばことばのかたちをした思考)、かたい部分はずっと夜のなかに置いてあるひと。わたしは実際に会って話すよりずっと多くのことを書いてきた。書いて、ひっそりと置いてきた。わたしを含むあなたが置いてきた言葉に触れるということは、たった一瞬であれこの祈りの交錯する地点に立つということだと思う。通り過ぎても、気づかなかったとしても。わたしはこの祈り方が好きなのだ。
どうしたって書きたいことは震えている。わからなさを抱えながら、わたしは絶え間なく変わる。言葉が足りない。言葉が足りないとわかっているから、向き合うと決めたことがある。強い言葉は少し、時にすごく怖い。でもどうしたって書きたいと思うのは、そこに祈りの交錯する地点を作りたいからだ。強く切り捨てるのではなく、頼りなくとも掬い上げたいからだ。理想ではない、もうずっとここに在るから。
一昨日、たったひとりの部屋に帰ってきた。ここはひとりが脅かされなくて落ち着く。なんだか空気の抜けたような夜を通り抜けて朝。