穂高の稜線で県歌『信濃の国』を噛みしめる話【西穂独標】
てらしなのです。
寒くなってきましたがいかがお過ごしでしょうか!
この夏、まずは西穂高岳の独標まで行ってきました!!!
穂高連峰、実は長野県にある私の実家の庭から見えます。
小さい頃からずっと見ていたからこそ、
登山を始めてからは心のどこかで
いつかあの峰々を登ってみたいと思っていました。
特に、西穂高岳の独標までなら、北アルプスの岩場の入門編であり比較的挑戦しやすいという話。
動画サイトでひたすら独標の登り降りの様子を確認。自分でも行けそうな道のりかを想像。
「行ける気はするが、ダメそうなら必ず引き返そう」と、行くことに決めました。
今回初めて登山用のヘルメットを購入。
独標までならここまでの装備は不要かもなと思いつつ、でもどんくさい私だからな……と買うに至りました。
結果的に、少なくとも私が登った日は装着している方が多かったし、買って良かったんじゃないかと思います。
滑落で亡くなった方の中には、ヘルメットさえしていれば一命を取り留めたかもという方が一定数いるという話を聞いていたので尚更。
宿泊地は平湯温泉に決定。
登山前日に高速バスで平湯温泉バスターミナルに到着。
そのまま宿で一泊して、翌朝に平湯温泉バスターミナルから新穂高ロープウェイまでバスで行くという計画。
温泉地ということもあり、キャンセル料の縛りが緩めな宿を探し、念のため早めに予約しておきました。
夜勤明けで新宿へ移動。
美味しいラーメンを食べてからバスに乗り込む。
登山動画の投稿者がよく平湯温泉バスターミナルへ向かっているのを観てきたので、ついに私もそこへ行けるんだとバスの時点でわっくわくでした笑
途中、諏訪湖サービスエリアで休憩。バスから降りて空気を吸った瞬間、「わぁ…!長野県中部の匂いだ……!」と驚いてしまった。
うまく表現できないけれど、どこか甘くて、山や土の匂いが混じってて、季節によってはほんのり果実の匂いも混じっているように感じる。
(たまに肥料や動物のフンの匂い、野焼きの煙の匂いなんかも混じる笑)
普段関東に暮らしていて、地元の匂いが恋しいなーとは思ったことがないのに、いざ戻ってきて空気を吸うと、毎回「地元の匂い!!!」とびっくりする。
生まれ育って、その香りの中で育ってきて、頭や体に染み付いているんだろうな。
さて、そんなこんなで薄暗くなった頃に岐阜県へ入り、平湯温泉バスターミナルへ到着。
山奥だからこそすごく静か。少しだけひんやりしている。温泉街だから営業している宿やお店があるのも知っているのに、少しだけ心細くなる空間。
それにくすぐられた冒険心。
チェックインを終え、荷物を置いて外へ出るともうあたりはかなり暗い。とりあえず温泉へ。
例によって、山以外の下調べを欠きまくる私は、浴室に入って匂いを嗅いだ時に初めて、泉質が硫黄であることを知った笑
そして「うわぁ〜硫黄じゃん!!!」と叫んだ笑
そういえば、中学で乗鞍高原にキャンプに行った際に浸かった温泉も硫黄だったなーと思い出したり。
露天風呂でボーっと夜空を眺めながら温泉に浸かる。
気持ち良すぎて「これ、明日の登山終わりにも浸かりてぇ…」と思ったけれど、明日は実家へ戻る予定で、時間的には寄っていられない。だから物凄くゆっくり浸かって平湯温泉を堪能した笑
夜勤の経験者なら分かると思うが、夜勤明けで浸かる温泉は至高。しかもこんな山奥の温泉地で、明日には行きたかった山への登山も控えていて。これ以上ない幸せな時間だった。
温泉を出てふと空を見上げると、先ほどよりも暗くなったおかげでより星がはっきり見えるように。しかも、信じられないことに天の川が若干見えるほどにたくさんの星が見えた。
もっとしっかり星を見たくて、虫を若干気にしつつも街灯が少ない方へ歩いてみたり。
夕食はこちらで。山奥の温泉地なのに遅くまで営業してくれている有り難いお店…。
飛騨牛美味しい!!
あまり褒められた言葉遣いじゃないけど、
「バカ美味ぇ…」ってしみじみ言ってしまった笑
平湯は、温泉と料理と星空と山の静寂を満喫できる素晴らしい温泉地でした。
正直、前泊地くらいにしか考えてなかったけれど、本当に行ってよかったです。
地元から行きやすいのでまた再訪したいと思います。
さて!!!
ようやく登山当日!!
良い天気!!
バスに揺られて新穂高ロープウェイに到着。
こんな朝からどんだけ人が集まってるんだよ!!とツッコみたくなった行列。
そして、ようやく登山口へ到着!
今回の山行はGoProの試し撮りも兼ねてたため、ときどき立ち止まって機械をいじってました。
少し湿った樹林帯を登ったり降りたり。
最後にぐわっと登ると、1時間ほどで西穂山荘に到着。周りにかわいいお花も咲いてるね。
看板かわいい。
少しだけ休憩をして、独標へ向けて出発。山荘を出てすぐの岩の段差が結構大きくて「膝頑張れーー!!」という感じだった笑
まずは西穂丸山。聞いていたように、たしかにここまでなら来やすいかも。
ここを過ぎると、ペンキの○×が出現したり、岩だらけになったり、いよいよ岩稜の様相を呈してくる。
「すげぇ〜〜!!本物の穂高だぁ〜〜!」と岩をペタペタ触りながら感動していた私笑
動画でよく見ていた岩の色、削れ方。「うわー、この岩剥がれそうー」と思って触ってみたら案の定取れたり。
そしてそれを見て、本来なら怖いと思うのかもしれないが、「剥がれたー!さすが穂高ー!」と謎の感動をしてしまう私。
そうは言っても、油断するともちろん来世行きなので、それはそれはしっかり足元や手元を確認しながら進んでいく。
「ここを道って言い張るかいお前はぁ!」とペンキに文句を言いながら進むと、いよいよ独標が目の前に現れた。思ったよりも高さがある。
ルートを探しながら登る。一応あたりを見回していたつもりだったけれど、やはり経験が浅いせいか途中で見落としていたらしい。ルートをミスしてしまい、先を行っていた男性が教えてくれた。その男性にアドバイスされながら正しいルートへ戻る。
一応この場面も動画で撮っていたから、帰宅後は復習して反省会。もっと危なげなく登り降りできるようになりたい。ルートの探し方に慣れないと。
そして、そこそこの人が行き交っているため、そこそこ高さがある岩場でも順番待ちがある。しばらくしがみついていても大丈夫そうな場所を見つけて、下りてくる人に道を譲り、誰もいなくなったら元の道に戻って再び登るということを繰り返す。
頭上につけたカメラで撮影したものがこちら。
なかなかの角度のところを登っている。
そして、ついに現れた独標のしるし!
ぐるりと見回す。上高地や焼岳が見える。そして、笠ヶ岳は何度見ても本当に美しい。
そして、この稜線は常に長野と岐阜の県境となっている。自分の生まれ故郷の端にいるというのがなんとも不思議な気分だった。
それにしても随分スリリングな県境笑
入門とはいえ、穂高の名所の一つに登れた。それが凄く嬉しかった。
登ってきた人たちはほとんどヘルメットをつけていた。
ある人に「今日はどこまで行くの?」と訊かれた。
「今日はここまでです。安全にいきます笑」と答えた。
そして、そう答えながら心の中で、「いつかこの先にも行きたい」とハッキリ思った。独標までじゃなく、西穂高岳の山頂まで行きたいと。ここまでで良い、ここまでで充分とは、私は思わなかった。
普段の私はあまり具体的な目標をもたない、計画性のない人間。
でも、山での私は、結構欲張りになる。
「今度はあそこへ登れるようになりたい」「いつか絶対に行く」という思いが宿る。
だから、山に来ることが、私が一番生き生きできることなんじゃないかなと思う。
「今度はそっちにも行くね」
山頂へ続くピーク達に声を掛けて、独標を下り始めた。やはり、登りよりも下りの方がスリルは感じる。
でも、結構楽しかった。途中、ルートを見失っている人を見つけて、今度は私が声を掛けた。独標は穂高の入門となっている分、色んなレベルの人たちが来る。だからこそか、皆で励まし合い、教え合う空間になっていた。
赤の他人なのに、お互いの無事と成功を祈る場所。
山ってやはり不思議な場所。
下りは「独標をクリアしなきゃ」という気負いがなくなったおかげか、風の音や雲の流れを楽しめるようになっていた。
目を閉じて風の音に耳をすませる時間がとても好きだ。
なんとか西穂山荘まで戻り、名物の西穂らーめんに間に合った!!!
美味しい!
そして腹ごしらえをすませたあと、広いスペースを見つけて、山では滅多に付けないイヤホンを耳につけた。
聴いたのは、Jリーグ松本山雅のサポーターがスタジアムで歌った、
県歌『信濃の国』の音源。
長野県の松本市周辺の市町村をホームタウンとする松本山雅FCは、
その応援歌の一つに、なんと県歌がある。
信濃の国は、小学校などで教わるため、長野県民は歌えることが多い。だから、信濃の国だけは、県民であればわざわざ事前に練習しなくてもスタジアムで歌えてしまう。
サポーターみんなで歌う信濃の国。
その歌いだしはこんな感じだ。
「信濃の国は十州に 境連ぬる国にして
聳ゆる山はいや高く 流るる川はいや遠し」
十の州と隣接する国であり、
聳える山はとても高く、
流れる川はとても遠くまで流れている……という意味だと思う。
まさしくこの日、私はこの歌詞に描かれている長野県の一面を体感した。
岐阜と隣接する場所を歩き、山々の迫力に圧倒され、稜線から見下ろせば、上高地に流れる川の美しさに目を奪われた。
なんて素晴らしい県に生まれたのだろうと感極まって、山の中で涙が溢れた。そして、素晴らしい県に自分は生まれたのだと実感できることが、どんなに幸せなことか。
私が登山を好きになった理由の一つは、故郷の良さに気づけるからかもしれない。
西穂山頂へ行きたいという次の目標を見つけ、自分の生まれた場所への思いが深まったこの山行は、とても思い出深いものとなった。
そして、思いがけず、実家からはそう遠くない場所にある素晴らしい温泉地に気づいてしまった。
今度は親を連れて来てみたいなと思った。
平湯温泉バスターミナルの足湯で癒やされた後、バスに乗車して実家へ。
母から「こっちから見てたら穂高の方、結構曇ってたから心配してたよ〜」と言われた。
自分が登っている山が、実家にいる母から見えるなんて不思議な気持ち。
でも、繋がっている感じがして嬉しい。
「あの山に登って、無事に戻ってきたよ!」と
これからも言いたい。必ず。
そして、私にはこの夏、もう一つ行きたい山があった。
色んな理由でずっとずっと見送ってきた山。
松本平から「早く登りたいよ」と毎年見つめていた山。
ついに、そこへ行くことができた!!!
燕!!!!!
続く
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