【mt.Akimoの「山になりたい」】 ①そもそも「山になりたい」 てどういう事よ?(前編)
“職業・山屋”を自称し、山に関わるあらゆる仕事に貪欲に突っ込んで行っては山を「浴びる」かのような生活をおくる、山を愛しすぎた若き現代の岳人、Akimo氏。インターネットでコアな人気を誇る彼の、奇特すぎる人生哲学を追う魅惑の(誰得な)コーナー。ちなみに表題は彼の口癖。
私がAkimoさんと知り合ったのは3年前。ツイッター上で、山への溢れる想いを呟き続ける尋常ならざるアカウントを見つけ、それらの呟きがあまりにも面白くてフォローしていたのだが、ひょんなきっかけで実際に知り合うことができ、仲良くなった。それから頻繁に会っては話をするようになったのだが、彼の物の考え方、人生哲学、そして山への想いは、やはりただ「山が好き」程度では収まらない、常軌を逸したものだった。それは彼の生き様そのものにも現れている。
彼はほとんど家に帰らない。ずっと山にいる。収入も支出も、山に関わることでほぼ完結している。いつ会ってもニコニコ楽しそうにしていて、でも能天気なのではなく、頭の中ではいつも燻り、難しいことを考え、熱い想いを滾らせている。
そんな彼の口癖が、「山になりたい」。
彼は常に山で新しい経験をし、それを吸収して、山への想いや考えを深め、たまに会うとその内容を楽しそうに私に話してくれる。そんな話を聞く度に私は、「こんな面白い話、自分だけが聞いているのはもったいない」と思うようになった。
彼の魅力を私なりに引き出し、その面白さをひとりでも多くの人に共有できればいいなと思い、始めたのがこのコーナーだ。お付き合いいただければ幸いである。
――そんなこんなで始まったわけなんですが。
Akimo
こんなコーナー読みたい人いるんですか?(笑)
――いますいます。Akimoさんファン多いんですから。で、はじめに。表題の「山になりたい」って、Akimoさんの普段からの口癖じゃないですか。これ普通の人が聞いても、「あぁ、この人ものすごく山が好きなんだな」くらいにしか思わないと思うんですけど、Akimoさんのって、そうではないじゃないですか。
Akimo
違いますね。
――じゃあ「山になりたい」って何なのってのを、一度ちゃんと聞いてからじゃないと、この企画は始められないなと思いまして。ほら、ぶっちゃけ山にはなれないじゃないですか(笑)。
Akimo
「風になりたい」人っているじゃないですか。そういう歌もあるし。僕もそういう感じで「山になりたいなあ」って、山に登り始めたわりと最初の頃から思ってて。
――最初の登山っていつ頃のことです?
Akimo
高専時代です。もともと山になんか全く触れずに研究室で試験管を振り回してた頃に、友達のお父さんに誘われて中央アルプスの木曽駒ケ岳に登ったのが最初で。その時、なぜかいきなりバリエーションルート* から登ることになったんですよね。
沢沿いでテント張ってビバーク* して、夜には近くに獣が寄ってきてる気配がして、朝起きたらテントのすぐそこに真新しい糞が落ちてて。
で、テント撤収して、沢の一番低いところから一気に尾根に突き上げるラインを歩いて行くと、どんどん植生が変わって樹の背丈が低くなっていって、最後は青空に抜けて山頂をきわめる、みたいな過程の全部が、一気に好きになって。もう虜になっちゃって。
「グサッ!」って山が僕に刺さって抜けなくなったんですよ。
「これはもう山だな」って。
*バリエーションルート:
一般的な整備された登山道から外れた、登山道外のルートのこと
*ビバーク:
緊急時の野営のこと。
――最初からバリエーションルートだったんですか! どのルートだったんです?
Akimo
それ、調べればきっとすぐ分かることなんですけど、あえて僕は調べないで、そのルートとまた自然に巡り合わせがあるのを待ってるんですよ。
初めての山で、受け身で連れて行かれたら、色んなことを把握していないじゃないですか。だからどこから登ったとかって皆そんな覚えていないし、間違えていることも多い。たぶん僕もそうなんで、敢えて調べずに、今後のお楽しみにとっておいてます。
――へえ~。
Akimo
それで、山が刺さって抜けなくなったんで、下山後に調べたら木曽駒の麓に大学があったんで、高専をやめてそこに入学しようと思ったんです。翌日、退学届を持って学校に行ったら、先生から「急だな!?」って言われて(笑)。
僕としては気持ちが固まってたんで、「今すぐにでも山の近くに住んで、山に登りまくらないと僕がここにいる意味が無い、試験管を振ってる場合じゃない」みたいに説明したんですけど。高専って5年制で、その3年目の終わりくらいだったんですよ。なんでまあ、却下されますよね。ここで中退したら高卒にならないから、大検受けないと編入もできないって具体的な理由もあるし。
で、僕は不服だったんですけど、確かに高専に入ったのも自分で決めたことだから、最後までやりきるかと思い直しました。
――高専では何の研究をしてたんです?
Akimo
植物の細胞の研究ですね。もともと自然とか理科とかが好きで。
5年制の高専って、ある程度人生の方向性を決めて入ってくる人が多いんですよ。どの分野の企業に就職するかとか。でも僕は、それから進路について「山と関わることを軸にする人生」にどうやったら舵を切れるかってのを考え始めたんです。山の研究をしている信州大学の森林科学科ってとこに編入することはすぐ決めて。で、2年後卒業してようやく実現したんです。
――普通の人って、たぶん「こうしよう!」って思ったその気持ちをすぐ実現できなかった場合、2年間その気持ちは続かないと思うんですよね。それが、ちゃんと実現したってのはかなりのエネルギーですよね。
Akimo
でも、その場に留まっている現状には結構投げやりになりましたね。特に、今やってる試験管振る系の研究はフィールドワークとは無縁の道だったので、これは変えないと厳しいぞと思って。で、その研究室は先生と喧嘩してやめちゃって。でも、高専の中にも石の研究をしている先生がいたり、菌類の研究があったり、生物っていう枠で見ると山の成分と結びついている要素はいくつもあったんで、それを高専にいる間に集めようとはしてましたね。原生林から取ってきた土を研究室に提供して菌のスクリーニングをしてもらったりとかしてました。