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【mt.Akimoの「山になりたい」】 ①そもそも「山になりたい」 てどういう事よ?(後編)

写真 2019-04-10 22 43 25

どれか一つを選ぶんじゃなくて、
山の全部に触れながら生きたい


――「山になりたい」っていうのは、つまり「山の近くにいたい」って意味なんですか?

Akimo
 それは全然違いますね。実際、山に関わり始めてから、「山になりたい」って思うようになったのは、大学でフィールドワークをするようになって少し経ってからなんです。
 いざ山に関わって生きていく上で、自分はどんな仕事をしたいのかって考えた時に、まず山の成分をいくつも分類してみたんです。植物・動物・土・森林・菌類・地形・観光・人……とか色々分けていって、そのそれぞれに触れてみたんですよ。

 4~5年かけて各地の山やいろんな山の成分に触れてみて、さあ、どれを仕事にしたいのかって考えてみたんですけど、無かったんですよ。
 全部好きで、その全部に触れながら生きていくことが、自分の理想だと思ったんです。でもそれって専門性があるわけじゃない。「山の全部が好きなだけの若者」って、仕事じゃなくて趣味じゃないですか。その方向ですぐには飯のタネにならなそうだなって。
 でも、だからといって無理やりどれか一つの成分を選んでその職業に就いて、それに山を「当てはめる」ってのはなんか違うなあと。で、「山の全部に触れながら生きたい」という欲求を曲げずに山に居続ける方法を考え続けたんです。

――なるほど。

Akimo
 で、考えに考えた結果、今度は「山の全てに触れる」っていう、その「全て」って何だよって問題がずっと引っかかっちゃって。今まで触れてきたもの以外にも、山の成分はもっとあるし、どこまで新しい山を集めて吸収していっても、「分かったつもり」になってるだけで、分かってない部分が絶対にある。というのの繰り返しがずっとスパイラルになって、じゃあ、もうゴールを決めようということにして。
 どうしたら目指しているゴールにたどり着くのかっていうのを考えたら……「山になればいいんだ!」と。

――なるほど……!?(笑)

Akimo
 自分が山だったら、それはもう百パーセント山なんですよ。山の全てに触れている。僕がまだ知らない山の成分があったとしても、僕がその成分を持っていない山なだけで、山なんです。
 僕が人間として山を集めている限りは、知らない成分が絶対あるんで全てに触れることはできないんですけど、主体が山になれば、必然的に全てに触れられる。という感じで、僕は山になりたいんですよ。
 山になってしまえば、僕が満たされることは分かっているんです。ただ、そこにたどり着くかどうかが問題、って感じなんですよ。

――今までの話って、「自分は山の全ての成分を好きになる自信がある」って状態じゃないと成立しない気がするんですが。

Akimo
 そう。そうなんですよ。で、そこが山なんですよ。

――「そこが山なんですよ」って何?(笑)

Akimo
 そこが山の凄いところで、僕は山に絶対的な信頼を持ってて、山ってやっぱ越えてくるんですよ。

――(爆笑)

Akimo
 僕、もともと飽き性なんですよ。好奇心が強いんで色んなことには手を出すんですけど、すぐ分かった気になったり、「性に合わない」とかで飽きてやめる、みたいなのが積み重なった人生で。
 でも、山で考えると、不思議とどれもこれも好きだな、飽きないなってことに気づいて。でも、自分が飽き性なのは自覚してるんで、「どうせこういう事は飽きるだろ自分」みたいな嫌いになりそうな項目について、山と自分を試すかのように片っ端からやってみてるんですよね。でも、そこが山なんですよ。好きになっちゃうし、飽きない。
 で、一度触れてみた山の成分は、今も全部自分のライフワークの中に残ってるんですよ。他のひとつの成分が面白くなっちゃってほかをやらなくなる、という事が全く無い。

 今もまだ触れていない山が沢山あって、「山の何だったら自分は嫌いになるんだろう」っていうのは、今も試して続けている最中です。
 でも今のところ、山に触れ始めて8年ほど経つんですけど、全く無いですね。

――そうとう山と相性よかったんですね。

Akimo
 でも、山っていうくくりを外れると嫌いになったり、山の環境の中ではすんなり受け入れられたことが、山から降りて下界で考え直すと違う風に感じたり納得できなかったりするんです。
 でもそれらは大体が、下界で起きうることが山の上で起きているっていう人間由来のことで、自然由来のことじゃないんですよね。でも、逆にそれも考えるとすごいなって思って。
 僕あんまり人間関係好きじゃないんですけど、山だと人間関係のこともポジティブに素直に捉えられてるなぁっていうのに気づいて、「山すげえな!?」って。だからやっぱ山なんですよ。

――今まで山の色々な成分に触れてみたって言ってましたけど、たとえば具体的にどんな仕事をしてきたんです?

Akimo
 思いつくまま挙げてみると、歩荷、夏山パトロール隊、登山道整備、森林調査、狩猟、山岳撮影補助、トレランコースの整備や大会運営補助……あと雷鳥を捕まえて保護・孵化させたり、土を採取して成分をピンセットで一粒一粒分類してサンプル提供する、とかも。それから林業……ロープ高所作業とか伐採とかですね。林業つながりでほかには、植林とかの人間が山を作る行為や、逆に重機で山を切り拓いて道を作る、とか。木材ばっかり百種類以上サンプリングしたりとかもしました。あと高山植物の写真から花の種類を同定するアプリを作ってみたり……これはまだ未完成ですけど。

――雷鳥は保護して、でも狩猟で動物は殺して、とか、山を作ったり逆に切り拓いたり、相反するような成分の両方をやってるのが面白いですね。

Akimo
 山で仕事をしている人って、信念があるんですよ。雷鳥はこうだから保護しなきゃいけない、とか、この動物はこういう理由で減らすんだとか。
 でも、僕が最初からその信念を持ってるんじゃないんですよね。僕は山の成分が知りたいだけで、仕事として信念を持った人たちの中に入って、山に対してこういう事を考えている人たちがいるっていうのを、外からの価値観でやんや言うんじゃなくて、中に入って、そこに染まって実際にやってみる。その結果、その場では一旦染まるんだけど、終わってみて自分なりに色々分析してみたり思うことはあったりします。

――山の一要素として、観光登山やハイキングなんかがありますけど、Akimoさんはそれは普段あまりしてないですよね。Akimoさんにとってそれらは、あまり山の要素ではない?

Akimo
 いや、断然それも山ですよね。
 でもやってない理由もあって、今、夏は主に山岳パトロール隊をしてるんですけど、そこで登山客の人たちやガイドさん、それをもてなす山小屋などの、「観光と組み合わさった」山の真っ只中に身を置いて、そこで救助をしたり、安全対策の環境を整える仕事をしてるんです。
 なので、観光登山にはだいぶ触れているというか、一番コアなところで感じてはいるんですよね。

――ああ、システムの中にはいるから。

Akimo
 ただもちろん、お客さんをガイドする、っていう行為は触れていないポイントとして残ってるんで、自分で案内したらどういう風に人と山が見えるだろう、っていうのは知りたくて、信州登山案内人(長野県の登山ガイド資格)を取ったのがようやく今年なんですよね。
 自分が知っている山を案内して、案内された人がその山をどんな風に見るか、その人がその人の感覚で捉えた山は僕が見ている山とは絶対に違う。ということは、人を案内すれば案内するほど僕が知らない新しい山を吸収できるわけじゃないですか。

――その話聞いてると、集めているのが「物」なのか「事象」なのかの違いはあれど、高専時代に色んなサンプルを取ってきては分析してた行為と、割と似てますよね。

Akimo
 そうなんですよ。山を集めてるんですよ。山集め。それをずっとやってる。
 で、最近の傾向として、山がある程度集まってきて、カテゴリーごとにちょっと積み重なると、仕事になるというか、仕事が来るんですよね。山があって人がいて、そこに仕事になるような需要があるけど、散漫にやってるだけだとどれも仕事にはなり得なくて、でも熱心に集めていると、仕事にしようっていう強い意図がなくても仕事になったりして、それが面白いなって。
 なので最近はより一層山を集めまくってます。
 ある仕事で集めた山が、また他のこととリンクしてたりして、それが新しい仕事を生んだりとか、それがここ最近たくさん起きてて、面白くてやっぱ山やめらんねえなって。で、どんどん家に帰らなくなるんですよね(笑)。

――ぜんぜん家に居ないよね(笑)。

Akimo
 年間300日ペースで山にいますからね(笑)。

――実際に山になれそうですか?

Akimo
 それもよく考えるんですよ。それこそ下山する度に毎回。
 今回の仕事で自分はどれくらい山になったかなって。今回の山を因数分解して、「これは今まで触れてなかった山の成分だ」みたいに分析して嬉しくなったりした後、じゃあ今回の仕事で自分はどれくらい山になったかなって考える。
 ひとつだけ言えるのは、数年前の自分より、今の自分は格段に山なんですよ。100%山になった自分を知らないので、どの程度山になったかは判断がつかないんですけど、でも加速度的に自分の中に山が集まってて、山に近づいてはいる。
 「去年の自分よりは確実に山だけど、まだ人間なんじゃないか……?」みたいに考えるのが、いつもの山の終わりなんですよね。

――まだやってない山の要素、これから手を付けることのロードマップってどんな感じです?

Akimo
 それには大きく分けて2種類あって、ひとつは今やってる山の延長線としての山。そしてもう一つは全く新しい山です。
 前者はたとえば「ガイドをする」、「年間を通して救助に携わる」、「林業の特殊伐採をする」とか。

――専門化ですね。

Akimo
 そう、今やってる山の専門化。そこにはその道を突き詰めた人たちが居て、その側面において僕よりもずっと深く強く山に関わってるはずなんで、それを見に……というか、なりに行きたいです。
 逆に、全く新しい山は……一番パッと浮かぶところで言うと、海外の山、関連かなと。これはまだ明確なビジョンはないんですけど。


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「山との関わり方」という面で、
未踏の道が無いか探している


Akimo
 面白いのは、僕が糸口としてつかめる山って、先に人間がいるんですよね。でも最初は居なかったはずなんですよ。先人をたどる山を集めていった結果、もしかしたら、まだ人間が切り込んでいない山があって、そこに切り込んでいけるんじゃないかなっていう思いが、僕の一番の希望としてあります。
 それは、クライマーの人がいう未踏峰なんかに近いんですけど、もっと「山との関わり方」というアプローチでそういう未踏のものを探し出すのが夢ですね。
 まあでも、人類が生まれて数千年、山と関わり倒して今があるので、そう簡単ではないですよね。死ぬまでに見つかるかどうか。
 登山という山のジャンルのクライミングという細分化されたジャンルの中でも、新ルートをやるのはすごく難しいですからね。


第1回 そもそも「山になりたい」 てどういう事よ? 了
『ヤクのあしあと』2019.春号(2018.12.30刊行)収録分より転記

取材対象:Akimo
@nature1118_life(生活用)/@nature_1118(仕事用)
http://mount-akimoto.com/

インタビュアー・編集:まだら牛
http://yaku-no-koya.com/


→ 次回:②「山屋とSNSとポエムと」


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