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【mt.Akimoの「山になりたい」】 ③歩荷(ぼっか)というヘビーウェイトなお仕事(後編)

写真 2019-04-10 22 43 38

歩荷が楽しいのは、
重い荷物を背負うことが「快感」だから


――歩荷の仕事って楽しいですか?

Akimo 
 めちゃくちゃ楽しいです。

――それは、荷物を持つことそのものが? それとも、歩荷をする上で多職種の人たちと関わったりすることが?

Akimo 
 どっちもあるんですけど、でも純粋に山で重い荷物を持つこと自体が楽しいんだと思います。 
 何も持たずに山を歩いてる状態って自由じゃないですか。 その状態で山を見たり感じたりすることって、すごく開放されててもちろん楽しいと思うんですけど、それが50キロ背負った状態で同じように感じていられるかっていうと、重さに耐えることに精一杯でなかなか最初はそうはいかないと思うんですよね。
 でも続けてるとだんだん、それまで何も持たずにいた時のような感覚で歩いたりできるようになっていくんですよ。 その感じがすごく面白い。 これは山をやる上での一番の基礎になっていると思います。 負荷がかかった状態で山にいられて、楽しめるってことは、より山に迫っているような、山との距離が近づいているような感じがするんですよね。

――つまり、歩荷をして、たくさん背負えるようになっていると、余裕が生まれたり行動の選択肢が増えるってことです?

Akimo 
 そう、ですね。歩荷をやっておくことは全ての山の活動においてプラスになる。 んん……でもこの話だと、体力つけておけばもっと山行けるよねって話になっちゃうんですけど、僕が歩荷が好きな理由は、もっと別のところにあると思うんですよね……どうなんだろ。
 なんかこう、重たいものを担ぐことによって、僕らって、山に……「押さえつけられている」わけじゃないですか。

――(おっ、何か始まったぞ)……続けて?

Akimo 
 山があって、その上に自分がいて、背負ってる荷物が重ければ重いほど、山に押し付けられる力が強いわけじゃないですか。 たぶんその状態で自分が、山頂なり山の目的地に向かって、山にこすりつけられながら前進していくって感覚が、なんて言ったらいいのかな……さっきからこれしか言ってないんですけど、たまらない感じがするんですよね(笑)。

 変な話だとは思うんですけど、荷物が重ければ重いほどグッと来るし……荷物が重いってことはその山で自分がやろうとしている事に必要な物資が多いわけで、つまり、自分がやろうとしている事が質量……重さという具体的な圧力として自分にのしかかって来ていて、それに自分が半ば潰されるような感じで山にこすりつけられている感覚が、ダイレクトに足に、肉体に訴えかけてくるんですよ。 で、それを自分の力でやるっていうのが、満足感が得られる。

――えー……ちょっと待ってください、噛み砕くから。
 ええと、この例えが正しいかどうかは分からないんだけど、僕の頭に浮かんだイメージって、「山に線を引く鉛筆があったとして、軽い力で線を引くと、芯はあまりすり減らないけど、薄くて細い線しか引けない。 けど、上からグッと押し込んで線を引くと、太くて濃い線が引ける……みたいな感じなんですけど、これって合ってます?

Akimo 
 そう、まさにそれです! 僕はその線が太ければ太いほど快感が得られるんです!

――まじか(爆笑)。

Akimo 
 歩荷は、その線の太さがストレートに感じられるんですよ。 他の仕事でもたぶん同じように山に引いた線の太さとか満足感みたいなのはあるんですけど、歩荷はとにかく、荷物の重さと歩いた距離でわかりやすく明確にそれが感じられる。
 そこで面白いのは、歩荷の人たちってある程度背負えるようになると、ニヤニヤしてもっと持ちたがるようになるんですよ。 たぶん皆、歩荷をしててグッとくるラインの重さがあって、それは「歩荷力」が高まってくると、そのラインの重さも増えていくんですよね。 だから歩荷が好きな人らは、余計に荷物を持ちたがるようになるんじゃないかな(笑)。

――すごい……。昨今のウルトラライト志向(荷物の軽量化志向)とは真逆の考えを、「必要性」じゃなくて「快感」で語ってる。

Akimo 
 あ、でもそれすごく重要で、常に僕は必要性じゃなくて快感を重視してるんです。 必要性だけを重視すると、必要じゃない行為、たとえば人に頼んだほうが楽だとか、目的を達成するためだったら合理的な選択肢が他にあるとかになると、その行為は排斥されていっちゃう。 でもその行為が快感だった場合はやる理由があるじゃないですか。だから僕は歩荷をやりたいんです。 なぜなら僕は歩荷に快感を感じているんで(笑)。
 他の仕事もそうです。僕の全ての仕事って、その行為を通して僕がキモチイイからやってるんですよね(笑)



歩荷の延長線上にある彼の「夢」


――日本では歩荷って言いますけど、海外でも「ポーター」ってあるじゃないですか。ヒマラヤとかが代表的ですけど。

Akimo 
 僕、ヒマラヤでポーターをやることに憧れがあるんですよ。 北アルプスの北部とかで仕事をしていると、ネパールの方とかとよく出会うんですけど、彼らはむこうでガイドだったりポーターだったりをやってる人がいて、よく話を聞いたりします。
 ヒマラヤ山脈って、世界中の人らの憧れの山だったりするわけじゃないですか。 そこへの登山はもしかしたら、一生に一度の夢の山行かもしれない。 もしくは世界的な偉業を成し遂げようとしているのかもしれない。 そんな登山をサポートする重要な役割としてポーターがある。 要は誰かの夢を叶えるために荷物を運んでいるわけですよ。 

 もちろん、ポーターを生業にしている理由は人それぞれ違うだろうし、そこには国の経済的な格差などの理由も絶対あると思います。 どれだけの人がその仕事にやりがいや楽しみを見出しているかとか、僕は全然知らないし勝手な事は言えないんですけれど、だからこそ、誰かが山で叶えたいことがあって、そのための舞台になっているヒマラヤでポーターをしているって、どんな感じなんだろうっていうのにすごく興味があって、その環境の中に入って実際に仕事を共にしてみたい。 いつかやらせてもらえる機会がないか、探りを入れたりして虎視眈々と狙っています。


第3回 歩荷というヘビーウェイトなお仕事 了
『ヤクのあしあと』2019.秋号(2019.8.25刊行)収録分より転記

取材対象:Akimo
@nature1118_life(生活用)/@nature_1118(仕事用)
http://mount-akimoto.com/

インタビュアー・編集:まだら牛
http://yaku-no-koya.com/


(次回更新は3/25ごろ予定)


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