暮らしの薬学【予防しよう!熱中症編】~③脱水症時の正しい水分補給
経口補水液とは?
「脱水症」は体液が少なる状態でしたね(暮らしの薬学【予防しよう!熱中症編】~②体液と脱水症参照)。体液の組成は、水と塩分ですから脱水傾向にある場合や脱水症になった場合は、これらを同時に補給(補水)します。水だけを補給しても体は水をためておけず、尿や便になって排泄されてしまいます。塩分には、水を吸いとる力があり、体に水をためる働きがあるため、同時に補給する必要があるのです。さらに、塩分による水の吸収能力は、糖分を同時に摂ることで高まります。
このような補水を目的とした飲料のことを「経口補水液」と呼んでいます。経口補水液は、塩分とその吸収能力を高める糖分など、その組成が厳格に決められていて、アミノ酸、タンパク質、脂肪、ビタミンなどは含まれません。
一方、同じイメージにある“スポーツドリンク”には、組成の基準がなく、商品によって塩分濃度、ブドウ糖濃度が異なり、アミノ酸やビタミンが配合されたものもあります。甘みを増すために糖分濃度を高くする、機能性を持つためにアミノ酸やビタミンを配合すると浸透圧が高くなり、小腸からの吸収が遅くなります。
脱水症の治療、改善には、素早く、確実に補水することが重要であり、脱水症時には、できるだけ「経口補水液」(代表的な経口補水液商品名:OS-1)を選ぶか、経口補水液に近い成分のスポーツドリンクを選びましょう。
高齢者と乳幼児は脱水症になりやすい
高齢者は、からだにある水分量が少ない上に、多くの水分が尿として出てしまいます。しかし暑いのに汗をかきにくく、認知機能が低下している場合、高温や多湿が感じにくくなります。
逆に乳幼児は体液量が体重の70~80%を占めるほど多いのですが、肌から水分が奪われ(不感蒸泄)やすく、その体液量の割合が少なくなると脱水症になります。また、からだが十分に発達していないため、汗腺が未熟で汗が出すぎたり、出なかったり、のどが渇いたことを訴えられない、自ら補水行動を起こせないため脱水症になりやすいと言われています。さらに感染症にもかかりやすく、下痢や発熱により脱水症になります。
高齢者、乳幼児が脱水症時のサインがありますので、それに早く気づいて経口補水液を飲んでもらいましょう。
【高齢者の場合】
・トイレに行く回数が減っている、便秘になっている
・何となく元気がない
・暑いのに皮膚がさらさらしていて脇の下が乾いている
・昼間寝てばかりいる など
【子供の場合】
・機嫌が悪く、泣いてばかりいる、泣いているのに涙が少ない
・おむつが濡れていない
・微熱がある
・おっぱいを吸ったままなかなか離さない など
経口補水液の上手な使い方
経口補水液は、健康で三食の食事が摂れている場合には必要ありません。食事とともにお茶、清涼飲料、その他コーヒーから水分を摂取すればよくて予防的に摂取する飲料ではありません。
脱水症の状況になった場合はもちろんですが、暑い季節になり、夏バテで食欲が低下しているときや、暑さで多くの汗をかいたりした場合には体液が不足した状態にありますので、経口補水液を飲むとよいでしょう。
経口補水液は、一気に飲み干すのではなく、できるだけ少しづつ、ゆっくり飲みます。そのスピードは「30分間かけて、500ミリリットル」です。
高齢者や嚥下障害がある方に液体を飲みやすくする「とろみ剤」がありますが、経口補水液に使用するととろみ剤のでんぷんにより組成比率が変わることで、吸収速度が変わってしまうので利用しないほうがよいと思われます。経口補水液には、ゼリータイプがありますので、それを利用するとよいでしょう。
Q. 経口補水液には、塩分と糖分が入っているので、血圧が高い人とか血糖値が高い人は飲まないほうがいいですか?
高血圧や糖尿病の人が脱水症になった場合は、体に必要な塩分や糖分が不足している状態ですから、「経口補水液」を飲んでください。特に、糖尿病を罹患している高齢者が脱水症を起こした場合は、急速に病状が悪化して昏睡状態になる場合もあるので、医療機関を受診するまでのつなぎとして「経口補水液」を500ミリリットル程度飲むことをお勧めします。ただし、脱水症が回復し、もとの状態になった場合には、医師の指導なく経口補水液を飲み続けてはいけません。
もっと勉強したい人に ~ 参考リンク・参考図書
●よくある質問(経口補水液オーエスワンシリーズ:大塚製薬工場)
https://www.os-1.jp/faq/02/
●熱中症予防のために(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212502.html
●「特別用途食品の表示許可等について」の一部改正(令和5年5月19日消食表第237号消費者庁次長通知)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/notice/assets/food_labeling_cms206_230519_10.pdf
<参考図書>
『「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』
『知って防ごう熱中症 ―正しい予防と迅速な処置のために―』
『いのちを守る水分補給 ―熱中症・脱水症はこうして防ぐ―』
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<書いた人・監修>
藤田知子
京都薬科⼤学卒業後、メーカー勤務を経て、ドラッグストアでOTC医薬品販売から処⽅箋調剤など薬剤師業務 に従事。“薬剤師は町の科学者”をテーマに薬系新聞に寄稿、「ドラッグストアQ&A」(薬事⽇報社)を編集。