ナメ川ユーコ

元公務員の主婦系派遣社員。本の感想、美術館の感想、日々の誰にとってもどうでもよいことの感想など。アイコンのミーアキャットをグッズにした→https://suzuri.jp/name_low_club

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最近の記事

20200831 Cocco「みなみのしまのはなのいろ」

人はデフォルトが明るくも正しくも清くもなんともないから、きっと人は感情と理性の違いに重きを置いたし、歴史は動いたし、表現やら技術やらなにやらをせっせと発達させ続けた。 だから、ダークサイド、とはまっとうな人の道である。 世界がずっと平和に晴れて、緑生い茂って心地よくいやがるなら、そんな世界に人間はずっと転がってればいいんだ。 のんきに転がっていられないから、仕方なく人は起き上がる。 世界は不穏だから、という理由で起き上がっておいて、人はそんな不穏な世界にどうにかこうにか希望

    • 【読書感想文】ベンヤミン

      「絵がついてるし読みやすいかと思うも、読んでもやっぱり分からん。 ちくま学芸文庫「ベンヤミン」(文:ハワード・ケイギル他/絵:アンジェイ・クリモウスキー/訳:久保哲司) 大学のとき、「複製技術時代の芸術作品」「パサージュ論」の手ほどきをゼミで受けたこともありました。 私が画家のパウル・クレーという画家を知ったのは、ベンヤミンがきっかけ。 しかし、さっぱり。 むしろ、簡単にわかられてたまるか、という人なんだと思う。 簡単にわかられてたまるか、わかったふりをされてたまるか

      • 【感想】兵庫県立横尾忠則救急病院展

        入館するやいなや、白衣の女性に検温と問診票の記入を求められる。 まだチケットも買っていないのに、すでに私は病院にいる。 まるで入る扉を間違えたかのように、唐突に。 作り込まれた空間に、有無を言わさず連れ込まれたかのように、強引に。 と思いきや、非接触型の検温マシンは、コロナウイルスの感染防止対策のために。問診票は、美術館の利用者にコロナウイルスの感染者が発生した場合に、感染者と接触した者の履歴を取るためのものだった。 万一感染者が出た場合、この問診票に連絡先を書いておけば

        • 【読書感想文】「現代思想の冒険」/竹田青嗣

          押入れの一角、いわゆる「積ん読」状態となっている本が並ぶ辺りに久々に手をのばしたら、「思想」というものについて、ふとまた触れたくなった。 特に理由はない。 「また触れる」といったって、最初に思想というものに触れたときに、きちんと触れたかどうかすら危ういが。 私は10年前、文系の教養系の学部で、近代思想を専攻していた学生だった。 ただし、真面目に勉学に打ち込んでいたとはいえない。 華やかなキャンパスの物陰をのっそのっそと這って進むかのように、マイペースに気だるく過ごした大学の

          あの本屋のあの隅の方にあるあの黒い本

          「看板猫がいる古本屋がいる」 そう聞きつけて、正確には人からの会話で得た情報ではなくインターネットから得た情報なので、耳で聞きつけてというよりは、読みつけてとでも言うのが妥当か。 なにはともあれ、猫がいる本屋が、新居から歩ける距離にあるという。 引っ越しで泣く泣く処分を決めた本の引き取り先も探したかったので、早速その古本屋に向かった。 JRの高架の傍ら、穏やかさを膨ませ始めた春の陽の光がほどよく射し込む、いい雰囲気の本屋だった。 猫はおるまいかと猫を探す目と、良い本はある

          あの本屋のあの隅の方にあるあの黒い本

          美術館の夏の陽が好きなんだ

          今の住処に引っ越してきて、嬉しかったことのひとつ。小さな美術館が、家から歩いてすぐのところにあることだ。 しかも、かねがね好きだったアーティストの方の作品を専門にした美術館だ。あの方が描き出すエネルギーのかたまりが、徒歩5分の場所、コンビニよりもスーパーよりも近いところにあるなんて、信じられない。 引っ越しが落ち着いたら、絶対行こう。 しかし春、新居に荷物を運び入れて荷解きをはじめるやいなや、新型のウイルスが日本中で猛威をふるった影響で、新居の近くのあの美術館は長らく休館と

          美術館の夏の陽が好きなんだ

          【読書感想文】アーバンギャルだった私はまだ死んでいない『水玉自伝~アーバンギャルド・クロニクル~』

          はじめに私は「アーバンギャル」だった。 堂々とそう自称していられる時代は、自分の中で一区切りがついてしまったみたいだ。 音楽を聴いて気持ちが高ぶるということから、久しく遠ざかっている。 芸術へのすがるような思いも関心も、いったいどこに去ってしまったのか。 本の中に作られた言葉の庭を味わうことよりも、本の中に整頓された実用的な事柄ばかり求めるようになってしまった。 目の前の生活で、それどころではなくなっているうちに、 私の精神の感度は、そこそこ生きていくに困らない程度の最低

          【読書感想文】アーバンギャルだった私はまだ死んでいない『水玉自伝~アーバンギャルド・クロニクル~』

          家から出られないしずっとニトリデコホームの猫愛でてる

          ニトリデコホームの猫が好きすぎる。 緊急事態宣言が発令され、家から出られない昨今。いや、そんな宣言が出ていなくても、家から出る用事のない、3月に仕事を辞めてから暫く無職の私。 そんな私の家でのお供は、「ニトリデコホームの猫」、この猫である。 正式名称は「モチモチクッション キャット」、ニトリデコホーム公式は「猫のもちもちクッション」と呼んでいるようだ。 当初発売は昨年(2019年)の冬で、この可愛さが話題を呼び、全国各地で品切れとなったという。 https://new

          家から出られないしずっとニトリデコホームの猫愛でてる

          不慣れな雪の日に一人を思う

          ガリ、ガリと聞き慣れない何かを削るような音が窓の外から聞こえてきて、私は目を覚ました。暫く布団に潜ったままでガリガリという音に耳を傾けていると、音の正体の目星がついたので、私はのそのそと布団から這って起き、カーテンを開けた。 やっぱり。雪が、窓の向こうの山を、家々の屋根を、向かいの駐車場のアスファルトや車たちを、こんもりと白く覆っていた。ガリ、ガリという音は、シャベルや雪を運ぶプラスチック製のチリトリのような道具が、路面と雪との間でぶつかって鳴る音だ。気候の温暖さでは日本有数

          不慣れな雪の日に一人を思う

          美しい文章を編むことを楽しみたいのか、たくさんの人に読まれる文章を書きたいのか、分からない

          noteを始めたのはそもそも休職中の手習いだった。 半年前の私は、仕事に心身のエネルギーを全て食い尽くされてもうすっかりボロボロの心身に、「生活のため」「責任」という現実的な道理だけをぶちこんで燃やして騙し騙し働いていた、動く屍だった。ホラー映画に出てくるような、悪役に妖しい呪術をかけられて蠢き出す死体のような働きぶりだった。動く屍には、仕事を数ヶ月休養せよという医師の診断書が発行された。 しかし、騙し騙しでも動くことだけはギリギリまで辞めなかったぐらいの屍だったので、身

          美しい文章を編むことを楽しみたいのか、たくさんの人に読まれる文章を書きたいのか、分からない

          引越しと古本屋と愛

          県外の大学に進学したことに始まり、就職、転職、同棲していた男との出会いと別れ、転勤といった理由が重なり、ここ10年ほど引越しの多い人生を送ってきた。大学進学からこれまでの14年で、なんと8回引越ししている。ここ数年の私の口癖は「定住したい」だった。 定住できなくて何が困るかというと、物を持てないことだ。困るというよりは、深刻に困って悩むわけではないけれども、生活の幸福度が下がってしまって少し残念というところだ。具体的には、本の所持に制限がかかることが、自分にとって少し悩まし

          引越しと古本屋と愛

          問題は入らなかった一物じゃなくて、世渡りに入れない私「夫のちんぽが入らない」読後

          婚約者と、喧嘩とまではいかないが、互いの悲しみをぶつけ合って双方が気落ちしてしまうような言い合いをした。 こんな日にこそ、読んだ方がいいような予感のする本のあてがあった。今から本屋に行って、もしこの本が置いてあれば、その予感はきっとあたりだ。というわけで、電車で一駅のデパートのビルに入っている大型書店に私は向かった。お見事、目当ての本は、文庫本コーナーの棚に一冊、慎ましく収まっていた。 センセーショナルながら脱力系のポップさのあるタイトルに、安易に飛びつくことがどこか品の

          問題は入らなかった一物じゃなくて、世渡りに入れない私「夫のちんぽが入らない」読後

          組織というディストピアー「ボラード病」読後

          医師に「こんな職場に病気から復帰するなんて意見書を、書くんですか!?」と困惑された診察から帰宅し、何気無く手に取って読んだ本が吉村萬壱の「ボラード病」だったのは、出会うべきものが、出会うべき時と場所と気分を察してジャストタイミングで鉢合わせた、としか言いようのない調和だ。 * 私は秋から仕事を休職している。原因は、仕事のストレスによる心身の不調だ。私の勤め先は、日本のとある業界の中の、超大手グループの地方支社、といったところだ。この業界、このグループ系列に勤める者は、(余

          組織というディストピアー「ボラード病」読後