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しょうゆマヨネーズご飯 #あの日の景色 あの日の味

ユーラシアだのアトランティスだのと名前のついた、ロードバイクは、見合うような、美しいスタイルと色を誇る。それだけで、胸が高鳴るようなデザイン。動いていなくても、若さ、とか、躍動、を連想する。


そんな美しい乗り物が、わたしたちが泊りがけのロードトリップに出るときには、トラックの荷台の連想が加わった。後輪の両側に、荷物用のバッグがつき、荷台に、ものがくくりつけられる。テント、シュラフ(寝袋)、飯盒と鍋、燃料。


大学のクラブなので、旅行に出るのは、休みのある春と夏だ。長い夏休みには、ラリーと呼ばれる、3、4泊くらいの、他校との交流イベントもあった。

サイクリングの旅行やイベントでは、食事は、基本的に全部自炊だった。朝、起きて、飯盒で米を炊き、味噌汁をつくる。残ったごはんを、昼飯にする。夜は、米をまた炊き、鍋を使った、腹に足る料理を作る。

テントでの寝泊まりなので、一日中、外で過ごす。キャンプでの食事が、シンプルでも何を食べてもおいしいように、自転車旅行の、自炊の食事は、どれもおいしかった。

2、3日おきくらいに店で買い出しもする。まぐろの缶詰は常備品。安いし、味が濃いので。ご飯がすすんだ。わたしは、実家では食べたことのなかった、納豆を口にした。


ただ、不思議だったのは、食べる米の量だ。一人一合、一食で。もちろん、それ以上食べてもいいが、一合が、「ノルマ」と呼ばれた。そんなに、食べたくないときも、食べられない気がするときもあった。でも、性別かかわらず、一食一合が最低線。

女子部員の数が、男子の3分の1くらいだったが、わたしたちは、食べられないよ、と言いながらも食べた。それに、そのくらいは食べられるから。慣れてくると。サイクリングは、ゆるいスポーツとはいえ、体育会だ。同学年の男子は、半分冗談で、3合ノルマ、とか言われたり言ったりしていた。

でも、おかずがなかったり、どうしても米飯がおわらせられないとき。切り札があった。

しょうゆマヨネーズ。ご飯にマヨネーズと醤油をかける。

必殺技、というよりは、あたりまえにしていたことだ。おかずなしで、半合くらいは軽くいける。しょうゆはもちろんだが、マヨネーズは、切れないように買っていた。

しょうゆマヨネーズご飯。わたしは実家住まいだったが、普通の生活のなかでは、その言葉に、試してみる気もしなかった。

でも、なんで、あんなにおいしいんだろう、サイクの旅行や合宿のときには。なんで、あんなにおいしく思えるんだろう。

何人か、自分の寮やアパートで試してみる部員もいた。食べ続けられなかったと、誰もが言っていた。


わたしたちのロードバイクでの旅行。わたしたちは、北海道を、東北を、四国を、九州を走った。若かったわたしたちは、いろいろなことが気になり、いろいろなことが気にならなかった。




そのうち、学生でなくなったわたしたちには、ロードバイクを使うことも、旅行することも、遠くになった。

わたしのユーラシアは、実家の倉庫に何年も眠り、家を建て替えるときに捨てられた。そして、しょうゆマヨネーズご飯。大学4年の、新歓合宿以来、わたしは口にしたこともない。



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