犬の散歩
うちの二匹の犬は、体重が、合わせると私のを上回る。引っ張られて転ばされたことも何度か。それでも、なんとか、二匹を散歩に連れ出していた。
去年の夏まで。
歯が折れた。でも、もっとショックだったのは、治療費の請求書だった。
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コロナ下で、近所には、いつ歩いても、人や犬が道にいた。それで、わたしが強く引っ張られることも増えた。
7月のある日。雨が降った後で、人出も少ない気がして、油断した。わたし一人で二匹を連れて出た公園で、ふわふわの大型犬に、どちらも反応した。
わたしが、歩くのをやめなければよかったのに、公園の中の、歩道が細いところで、道をゆずるために、立ち止まってしまった。
止まってから歩き出すときの、最初の一歩の勢いのことを忘れてはいなかった。でも、しかたがない。
ストップ。ステイ。
その姿勢で、うちの犬たちはじっとしている。でも、しっぽを激しく降って、向こうのふわふわ大型犬から目をはなさない。
大型犬は、反対方向に進みだす。じゃあ、うちも。ヒール、と呼びかける。二匹が勢いよくかけ出す。ふわふわ犬の方向に。
引きずられて転んだ。メガネがこわれ、前歯が2本折れた。
病院から帰ったとき、自分では冗談のつもりで、「それで、犬は安楽死?」と言って、家族をシーンとさせた。
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気になったのは、折れた歯のことだけだったのに、頼みの歯医者が、電話を返してくれなかった。行かなくてもいい気はしながら、相談の電話をした病院に、言われるまま行き、時間外診療を受けた。
それを後悔したのは、ひと月後に病院の請求書が届いた時だ。
治療費総額、4000ドル(40万円)。レントゲンも撮ったし、時間外だし、高いだろうと覚悟はしていた。それはいい。でも、本人負担額が2500ドル(25万円)。
厚遇と言われる保険に入っているはずなのに。米国の保険制度の粗さも知ってはいたのだが。折れた歯を含め、脳も何も心配なし、の安心料は高くついた。
請求書の額に、強く思ったこと。これからは、歯が折れて顔が血まみれになったくらいでは、病院には行かない。そして、犬の散歩時の保険がほしい。