将棋観戦記#2~A1A3団体戦第2局 あかつきさんvsうぇいつぅさん~
冬を彩るA1A3団体戦。開幕局はぽてとさんが中碧さんに勝利し、A1勢の強さを鮮烈に見せつけました。翌日の1月31日には第2局・第3局が行われ、団体戦の熱狂はとどまる事を知りません!また、この日からYoutube配信の担当が中碧さんにバトンタッチ。前回企画でB級3組の監督を務めたボロネーゼさんをゲストに、熱戦の模様が中継されました。第2局は短手数決戦となりましたが、私の棋力から見た感想を提示することでその応酬の深みをお届けできればと思います。強い人からすれば「そんなの当たり前じゃん!」となるかもしれません。ですがそれこそが既に高度な領域に達しているということの証左に他なりません。やきそばが観測した本局をどうぞお楽しみ下さい!
そこに駆け引きはあったのか
A1A3団体戦第2局
令和3年1月31日21時30分
於・将棋倶楽部24 大阪道場「自由対局室」
▲うぇいつぅ △あかつき(持ち時間各15分、秒読み60秒)※敬称略
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4二飛
▲6八玉 △6二玉 ▲2五歩 △7二玉
▲9六歩 △9四歩 ▲4八銀 △3三角
▲同角成 △同 桂 ▲7八銀 △2二飛(第1図)
第2局の先手はA3のうぇいつぅさん。第5期指す順では7勝4敗の全体3位となり、A級2組昇級が決定しています。リーグ期間中には同じく来期昇級者のずーさんとあさねぼうさんを破るなど、実力者を破っての昇級とだけあって充実ぶりが伺えますね。対する後手番はA1のあかつきさん。魔境A1にあって4勝6敗と残留争いに回ることになりましたが、前期に得た好順位を活かし入替戦を回避。来期もA級1組を戦います。
そんな両者の戦いは角道オープン振り飛車の立ち上がり。どうもこのあたりはあかつきさんの戦型選択に駆け引きがあったようなのですが、詳しいところは本人のみぞが知るといったところでしょうか。銀を上がらずに直接△3三角と上がった手から角交換が成立。後手が向かい飛車に振り直して本局の戦型が確定しました。
コビンを睨み合う
第1図以下の指し手
▲7九玉 △4二銀 ▲7七角 △2一飛
▲3六歩 △6四角(途中1図)
▲3七銀 △5四歩 ▲4六銀 △3二金(第2図)
数手進んで途中1図。両者の角が盤上に舞い戻りましたが、先に角を打ったのは先手のうぇいつぅさんでした。△4五桂などの活用を牽制すべく▲7七角の自陣角を据えます。受けにも効く好配置で、▲6六角と比較すると角の露出度が下がって狙われにくいのが利点なのでしょうか。対して22手目にあかつきさんも△6四角。▲3六歩から桂頭を攻められそうなところを、こちらも角で牽制。互いに飛車をにらみつける展開になりました。△3三桂型にしている以上常に桂頭攻めは警戒するところではありますが、先手から▲3七角の打ち直しが無いので安心して打てます。後手が△2一飛と引いて角のプレッシャーから早々に脱出したことを思うと、この応酬は後手がわずかに得をしていたのかもしれません。とはいえ先手の自陣角も全く不満無い形ですので、きっと形勢に大きな影響はありません。むしろ、そのような何気ない手にも検討する要素が山ほどあるのが面白いですね。将棋の奥深さを勝手に感じてしまいます!
対する▲3七銀は受けのようで角をいじめる▲5五銀が見えます。そこで後手は△5四歩とその筋を消しておきます。角の可動域が広がって味がいいですね。先手は▲4六銀と繰り出し、いよいよ戦いが始まっていくことになります。
自然な仕掛け、技巧の受け
第2図以下の指し手
▲3五歩 △同 歩 ▲3八飛 △4四歩(途中2図)
▲3五飛 △5三角 ▲3六飛 △4三金(第3図)
うぇいつぅさんは▲3五歩と仕掛けを決行。△同歩に▲3八飛と寄って3筋への攻めを画策します。後手は依然として角筋のプレッシャーを見せており、飛車の動きが軽くなるだけでも先手は十分戦いやすくなったと言えるでしょう。しかし簡単に攻めを許すあかつきさんではありません。△4四歩(途中2図)が技ありの一手。▲4四同角と飛びつけば△4三銀で桂頭攻めは頓挫しますし、△4五歩と突かれるプレッシャーもあります。そこでうぇいつぅさんは▲3五飛と攻めを継続しますが、△5三角と引く手が絶好の一着。次の△4五歩が両取りになっていて威力がさらに増しているではありませんか。▲3五歩~▲3八飛~▲3五飛の攻め筋は先手側から盤を見れば思い浮かぶ手順かもしれませんが、果たしてあかつきさんはどこまで読んでいたのでしょうか・・・。△4四歩・△5三角の形を知っていて、あるいはその筋が見えての△5四歩だったのでしょうか・・・?指されてみれば「なるほど」の好手順ですが、こういうしなやかな手は一体どのようにすれば見えるようになるのやら!独りで勝手に舌を巻く私です。
▲3六飛△4三金と互いに自然に構えて第3図。先手の積極的な動きをうまくいなす後手。均衡が崩れる瞬間を求めて、うぇいつぅさんとあかつきさんは互いに探り合いを続けていきます。
にじり寄る決戦
第3図以下の指し手
▲3七桂 △2四歩 ▲同 歩 △同 飛
▲2六歩 △3四歩 ▲5八金右△4五歩(第4図)
うぇいつぅさんの継続手は▲3七桂。ここで▲3四歩とキズを修復される前に打つ手が見えます。△4五歩の勝負なら▲3三歩成から相当に見えますが、△4五桂とかわされるくらいであまり手になっていなさそう。ここは圧迫感に屈することなく形を整え、決戦に向けて力を溜めていきます。そして次は後手のあかつきさんが動く番。△2四歩と2筋からつっかけて行きました。うぇいつぅさんは3分弱の考慮で▲2四同歩~▲2六歩を決断。▲2五歩と当てては後手に動かれて苦しくなると判断したのでしょうか。あかつきさんの△3四歩も冷静な対応。△2四飛型を維持している以上、この歩を打てば先手も攻めるのが難しそう。無理は禁物、うぇいつぅさんも▲5八金右とひたすら形を整えます。
ここに至っては手も若干飽和気味なのか、1分前後のペースでじりじりと持ち時間が消費されていきました。最後はあかつきさんが4分超の長考で△4五歩(第4図)を決断。虎の子の歩を繰り出して、本局はついにクライマックスを迎えます。
総交換の先、長考の海に没す。
▲2四同桂△同 桂 ▲同 銀 △3五歩
▲4六飛 △4四歩(第5図)
▲同 銀 △同 金 ▲2五歩 △同 飛
▲4四角 △同 角(終局時)
まで、54手であかつきさんの勝ち。
(消費時間=▲15分、△15分)
決戦の△4五歩に▲同桂と交換を迫りますが、第5図の△3五歩が機敏な動き。飛車が縦に動けば△2六飛があります。標的になりそうな歩をそのまま活用する非常に味のいい手です。先手は戦機を4筋に求めて▲4六飛。あかつきさんは銀を抑える△4四歩ですが、強気に▲同銀。すぐさま▲2五歩と飛車をずらしての総交換がありました。△3四飛と逃げても▲2六桂がぴったり。効果的なタイミングで歩が決まったように思われます。
とはいえシンプルな手順ですから、あかつきさんも受けてて立つ所存の△4四歩打ちだったことでしょう。交換の順序はどうか、盤上に残るのが飛車なのか角なのか・・・。不可避の展開のその先、盤上の深海を2人は読み進んでいたことでしょう。
そんな戦いの幕切れは突然に。総交換の最後を飾る一手を目前に、うぇいつぅさんの持ち時間が切れてしまいました。▲4四同飛の次に、攻め合う手段を求めていたはず。一人の観戦者として、幻となった▲4四同飛の向こうを見てみたい気持ちもあります。ですがこれが勝負というもの。濃密な中盤戦、没頭できる好勝負であるがゆえの決着だったと私は思います。
本局は”濃厚”の一言に尽きます。幻となった終盤を前に、そこに至る激流を生み出した一手一手の攻防。そして振り返ればその前には、角交換のタイミングを伺う味わい深い序盤戦がありました。指し手を無責任に解釈し、変化手順からifの世界を生み出すことできるのが観戦記執筆の醍醐味。ですが私には本譜の意味を考えるだけでもいっぱいいっぱい。多彩な変化手順を提示するプロの文章に改めて畏敬の念を抱きます。
本シリーズはこれでA1側が2連勝。本記事の投稿時点では既に次の第3局まで終了しています。A3B3団体戦がそうであったように、毎局毎局を楽しみにしていると、あっという間にこの企画も終わってしまうのでしょう。たった2本の観戦記で既にロスの気配を感じる私ですが、観戦記は団体戦の進行より遅れてスローペースで進めて参ります。次回もどうぞお楽しみに!
令和3年2月6日。やきそば