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将棋観戦記#1~A1A3団体戦第1局 ぽてとさんvs中碧さん~

 1月の寒空の下に再び戦を知らせる狼煙が上ってきました。盤上に火花を散らし、盤の外にて盃を酌み交わす指す将達の祭典「指す将順位戦」。昨年に第5期が終了し界隈がオフシーズンを迎えるなか、スピンオフ企画としてA級3組とB級3組の団体戦が行われたのが12月のこと。私は熱戦の最中にさらなる交流が芽生えていくのを確かに感じ取っていました。年が明けて交流と戦いの渦はさらに広がることになります。「A1A3団体戦」その主旨はA級1組によるB3勢の仇討ちとされていますが、ハイレベルな戦いを前にじわじわと盛り上がる様子が私のタイムラインでも観測されました。そこで何を思い立ったか、B級3組所属の私やきそばが筆を執り、観戦記をしたためてみることにしました。対局者の方々と比べ棋力では遥かに劣る私ですが、前回団体戦の自戦記と同様に「B3の棋力から見た世界」をお届けできればと思います。ではさっそく始めて参りましょう!

得意形と用意の作戦

A1A3団体戦第1局
令和3年1月30日22時
於・将棋倶楽部24 大阪道場「自由対局室」
▲ぽてと △中碧(持ち時間各15分、秒読み60秒)※敬称略
▲2六歩 △3四歩 ▲6八玉 △4二飛
▲2五歩 △3三角 ▲4八銀 △6二玉
▲7八玉 △7二玉 ▲6八銀 △4四歩
▲5六歩 △5二金左▲3六歩 △3二銀
▲5八金右△9四歩 ▲9六歩 △8二玉
▲5七銀左△4五歩 ▲3七桂 △7二銀(第1図)

 A1のぽてとさんが先手番となって対局開始。ぽてとさんは今期のA1リーグを9勝2敗で駆け抜けた強豪。なにより前々期・前期と全勝昇級を続けてきた指す順きっての連勝メーカー。3期連続の全勝とはならなかったものの、堂々の3期連続昇級でS級に足を踏み入れた実力は誰しもが認めるところ。対するナカアオさんは実力拮抗のA3リーグで6勝5敗の勝ち越し。順位の差で入替戦に届かなかったものの、四間飛車党の実力を見せつけるには十分な成績。企画にあたっては動画・画像制作に中継配信など、前面に出て団体戦を盛り上げる情念の人でもあります。A1・A3の両監督がトップバッターに2人を据えたのも納得ですね。

 対局はナカアオさんの後手四間飛車。対するぽてとさんの作戦に注目が集まりました。ナカアオさんが△4五歩から美濃囲いを完成させて第1図。四間飛車側からの攻めを模索するナカアオさんの得意形と言えます。対して急戦調の立ち上がりを見せるぽてとさんですが、ここから用意の作戦を見せていくことになります。

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端角より愛をこめて

第1図以下の指し手
▲7九角 △6四歩 ▲4六歩 △同 歩
▲同 銀 △4三銀 ▲4五桂 △1五角(途中1図)
▲1六歩 △4八角成▲同 飛 △4四銀
▲8八玉 △5四銀 (途中2図)
▲4三歩 △同 銀 ▲5五歩 △1四歩
▲7八金 △3三桂 ▲同桂成 △同 銀
▲5六桂 △6三金 ▲3五歩 △7四歩
▲4九飛 △4四桂 (第2図)

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 第1図から▲7九角。ぽてとさんのTwitterによれば、ナカアオさんの棋譜を参考に鳥刺しの構想を描いたとのこと。△4五歩の突き出しに斜め棒銀は素人目にも仕掛けやすそう。本譜も▲4六歩から開戦していきます。

 味よく▲4五桂と跳ねた手に対して△1五角!(途中1図)が吃驚の一手。当然の▲1六歩に△4八角成▲同飛△4四銀と力強い進行。気迫を感じる立ち回りですが、ここからぽてとさんの冷静な指し回しが光りました。

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 途中2図から▲4三歩△同銀▲5五歩が抑え込みを図る好手順。二枚銀の数によるゴリ押しを一歩で咎める三手一組には美しさを感じます。少し進んで△3三桂と捌く手に、桂交換から▲5六桂と打つのもこれまた好形。急所に自然と手が伸びていくような指し回しはぜひ身に付けてみたいものです。
 局面はさらに進んで後手が△4四桂と2度目の桂交換を打診。この手からナカアオさんが1分将棋に突入し、秒読みのなか中盤の熱闘が続きます。

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時間攻めと反撃の活路

第2図以下の指し手
▲2四歩 △同 歩 ▲3四歩 △同銀右
▲4四桂 △同 銀 ▲3九飛 △3八歩
▲同 飛 △3五歩 ▲4三歩 △同 飛
▲3二角 △4二飛 ▲2一角成△4五歩
▲5七銀 △4六桂 (途中3図)
▲同 銀 △同 歩 ▲5七金 △7三桂
▲4六金 △4五歩 ▲4七金 △5五銀
▲4八金 △4六歩 (第3図)

 先手は2歩突き捨ててから▲4四桂~▲3九飛と攻めの継続を図ります。ぽてとさんは▲2四歩に3分弱の考慮を挟んだ後、一連の手順とばかりにノータイム指しを見せました。最善の対応を模索するナカアオさんはじっくり考えて△3八歩~△3五歩の対応。連打ではなく一度叩いてすぐ納める手順は意図を測りかねましたが、△4六桂(途中3図)が実現したとなれば一目瞭然ですね。叩いた時点では4六の地点に先手の銀が居たので私には見えませんでした。シンプルな狙いを実現させる手順というところに、強い人の技巧が現れるのですね。

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 この手順中にも少考とノータイム指しを織り交ぜて戦うぽてとさん。A1監督のゆーてんさん曰く「A1は時間攻めや粘りで戦う人の集団」。純粋な棋力だけではない”勝負術”の部分で勝ちを拾う技術にも、学ぶべき点はたくさんあります。△5五銀~△4六歩(第3図)と反撃の活路を見出したナカアオさんでしたが、ここからぽてとさんが本格的な攻勢に出ていきました。

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強い人は端攻めがうまい(偏見)

第3図以下の指し手
▲4三歩 △6二飛 ▲1一馬 △5四歩
▲9五歩 △同 歩 ▲9四歩 △8一銀
▲9五香 △8四銀 ▲9九香 △9七歩
▲同 香 △8五桂 ▲9三歩成△同 香
▲同香成 △同 銀 ▲同香成 △同 玉
▲9四歩 △8二玉 ▲5七角(途中4図)△9一香
▲8六香 △8四香 ▲8五香 △同 香
▲9六銀 △8四香 ▲7六桂 △7五歩
▲8四桂 △同 歩 ▲9五銀 △7二飛(第4図)

 先手はここで▲4三歩。飛車の去就に注目が集まるところで、ナカアオさんは△6二飛と横効きを維持させる方針。対する▲1一馬もどこかで指したいなあと見ていた一手で、△5四歩の応手がまた味の良い受け。「ほえー」と口を開けて見守るしかない私でしたが、次の一手にさらに口が開きます。ここがチャンスだと言わんばかりの▲9五歩です。

 なるほど、先手は右辺で抑え込まれているが後手は△6二飛と回ったのが壁形。手順に香車を拾ったことも大きく端攻めをするには絶好の局面ですね。きっと▲1一馬をこのタイミングまで保留したのも、端攻めの前に飛車を叩いて対応を聞いておきたかったからなのでしょう。狙いを考えるだけでなく、ベストのタイミングを模索する。私はぽてとさんの指し回しにただただ感嘆するばかりでした。

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 後手からは△8一銀・△8四銀と盤上盤外の銀を巧みに使って受ける手が印象的でした。特に玉の懐を広げる△8一銀にはある種の生命力を感じます。それでも駒の押し引きを経て確実に有利を拡大させるぽてとさん。絶好の▲5七角(途中4図)など、味良い手順の連続でナカアオ玉にプレッシャーをかけていきます。第4図に至って後手も反撃の望みを繋ぎましたが、互いの持ち駒の軽さが玉頭にかかる圧力を強めている印象です。

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粘りを押しのけて

第4図以下の指し手
▲9六桂 △6五桂 ▲6六角 △4七歩成
▲同 金 △4四歩(途中5図)
▲5五角 △同 歩 ▲8三香 △同 玉
▲8四銀 △8二玉 ▲8三銀打△7一玉
▲4四馬 △6二角 ▲3四馬 △7六歩
▲7二銀成△同 銀 ▲8三桂 △同 銀
▲同銀成 △8一香 (第5図)

 第4図以下の数手が私にとってのハイライト。▲9六桂は攻めに厚みを持たせたところに、△6五桂が反撃を目指す一着。対する▲6六角だけでも声が上がるというのに、△4七歩成~△4四歩(途中5図)と馬筋を遮断するナカアオさんの判断には思わず叫び声を上げてしまいました!この技巧こそがA1のA1たる所以であり、この粘りこそがA3を背負って戦う者の意地なのでしょう。

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 以下はぽてとさんが▲5五角から決めに出ます。△同歩に▲4四馬が見えましたが、実戦は▲8三香から王手を決めるだけ決めて▲4四馬。この方が手番を握りやすいということなのでしょうか。以降も自然な攻めを繋げたぽてとさんが、確実に後手玉を寄せていきました。

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決着

第5図以下の指し手
▲9三歩成△7七歩成▲同 桂 △7六桂
▲7九玉 △9五角 ▲4四馬 △5三銀
▲2二飛 △4二歩 ▲同飛成
まで、151手でぽてとさんの勝ち
(消費時間=▲15分、△15分)

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 ナカアオさんの最後のお願いを受け流し、確実に攻め切ったぽてとさんが快勝。開幕局をA1勢が制しました。長い長い中盤戦が非常に面白かった一方、私としては「指された数手後になって意図の理解できる手」が多かったなあという印象でした(自分自身の棋力不足という意味で)。よく「○手先まで読む」なんて表現がありますが、直線的な読みではない、数手先に見える狙いを実現させるための立体的な読み筋に私はついていくだけでも必死でした。強い人の思考に追いつけるようになりたいものですね!これがヤムチャ視点か・・・!

 自然にポイントを重ねるぽてとさんの棋力に圧倒される私。それに喰らいつくナカアオさんの気迫にも圧倒される私。このような勝負をあと11回も見ることができるというのですから、もう待ち遠しいなんてものじゃありませんね!完全に外野の私ですが、団体戦に少しでも花を添えられるようちょっとずつ書き続けていこうと思いますので、気長にお待ちいただければ幸いです。次回、「あかつきさんvsうぇいつぅさん」の対局でお会いしましょう。
それではまた!

令和3年1月31日。やきそば

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