将棋自戦記#28~第8期指す将順位戦第3局~vs兜 四郎さん

 みなさんこんにちは、やきそばです。早いもので今年も半分が過ぎ去り、指す将順位戦も3局目を迎えました。私はというと仕事が繁忙期を迎えつつあり、業務量の増加にビビる日々。そんな日常の潤いがこの指す将順位戦ですね。今期は観戦にも楽しく参加することができておりまして、勉強会仲間の対局を応援しながらわいわいやっております。去年は体力が無さ過ぎて観戦も控えていたことを思えば、ちょっとは夏バテに抵抗できているのかもしれません。それはさておき、友人も大切ですが自分の事もきっちり振り返っていきましょう。まずはいつも通り準備のお話から。

局前の準備~兜 四郎さん編~

 本局のお相手は兜四郎さん。24サークル「のりたま将棋クラブ」のメンバーで、指す将順位戦には今期初参加にして開幕2連勝中の強豪です。今年の1月に行われた広島オフでもご一緒しており、リアルで盤を挟む方が先という非常に稀有なパターンとなりました。
 棋風はオールドスタイルの本格居飛車党というイメージ。のりたま棋戦の棋譜が数少ない資料でしたが、振り飛車には急戦・持久戦両方指しつつも舟囲い急戦を好んでおられる様子でした。オフシーズンに急戦の勉強をしていたこともあり、ここは受けて立とうと決心し準備を進めます。

▲3七桂早仕掛けの変化を主軸に

 想定図(後手番)が本局の作戦。△4二銀型のまま△6四歩を突いて仕掛けを待つのが▲3七桂早仕掛けの定跡手順ですが、本局は△5三銀を早決めして仕掛けを誘うことを狙いました。ガチガチの定跡形で相手の経験知・研究手順を引き出すよりは、こちらの土俵で戦える方が良いという判断です。定跡の本筋から外れる分、破綻していては困るので仕掛け近辺を調べました。幸いAIを使いながらあーだこーだと並べると、指したい変化も多く戦えそうな感じ。とはいえ仕掛けを見送る選択肢もありますし、そもそも舟囲いではなく金無双急戦なども考えられるところ。悩みましたが相応のリスクを受け入れて、調べる局面はある程度絞りました。色々な発見があって楽しい準備期間でしたが、△5三銀早決めを軸にすると決めたのがけっこうギリギリになってしまい、急ぎ足の準備になったのが反省点。序盤検討というのはキリがないもの。不足がある分には気になりませんが、今思えば詰め込みすぎだったかも。

ぼおおおおおっっぎぃぃん!!

第8期指す将順位戦B級2組3回戦
令和5年7月9日20時
▲兜 四郎 △やきそば(持ち時間各15分、秒読み60秒)
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩
▲4八銀 △3二飛 ▲2五歩 △3三角
▲6八玉 △4二銀 ▲3六歩 △6二玉
▲7八玉 △7二玉 ▲5六歩 △5四歩
▲5八金右 △5二金左▲9六歩 △9四歩
▲6八銀 △8二玉 ▲5七銀左 △7二銀(途中1図)
▲4六歩 △5三銀 ▲3七銀(第1図)

互いの思惑がすれ違う序盤

 20時を回って対局開始。初手から▲7六歩~▲2六歩の出だしはゴキゲン中飛車がチラつきましたが、ここは予定通りノーマル三間を選択しました。駒組みを進めて途中1図。▲6八銀~▲5七銀左を先に指しているのが兜さんの作戦選択。これだと対四間飛車でもよく見られるナナメ棒銀や、▲3七銀からの棒銀なども考えられます。いわゆる早仕掛け系統に的を絞っていただけに、早くも悩みどころといった感じでした。直後の▲4六歩で斜め棒銀は決めますが、ここで△6四歩では定跡形に合流してしまいます。初志貫徹の△5三銀に▲3七銀(第1図)で棒銀模様が確定。互いに予想を少し外し合うような序盤で、研究勝負から駆け引き勝負へと様相が一変しました。

棒銀が見えているなら△4三銀も考えられたが、早仕掛けの線も残っている。急戦党の手広い序盤戦略が勉強になる。

戦場を移したいが・・・

第1図以下の指し手
△6四銀 ▲2六銀 △4三金
▲1六歩 △1四歩 ▲3五歩 (途中2図) △5一角
▲3八飛 △5五歩 ▲同 歩 △3五歩
▲同 銀 △5二飛 (第2図)

威風堂々たる仕掛け。

 ▲2六銀~▲3五歩が見えているのでこちらも急いで迎撃態勢を整えます。角頭は金に任せるより無いので、先に△6四銀を繰り出します。続いて△4三金と上がって、これで仕掛けに備えつつ△5二飛の筋を用意できました。当初の準備でも類似形を何度か検討していたので、その流れを継承して勝負する決心。途中2図の▲3五歩で戦端が開かれました。
 ここは△4五歩と振り飛車らしく捌く手もあり悩ましい局面。私が狙ったのは5筋への転換でした。△6四銀型を活かして中央に戦火を灯すことさえできれば、おのずと飛車の捌きが見えてくるはず。ですが▲3四歩の取り込みがあって、これがなかなか厄介。というのも△同金の形がすこぶる悪形に思えます。角頭の緩和を優先して△5一角▲3八飛の交換を入れてからどう指すか。△5五歩▲同歩△5二飛と弾みをつけてから回るのが第一感でしたが、瞬間歩切れで捌きが止まりそう。そこで一歩手にする本譜の手順を選びましたが、棒銀を捌かせた損の方が大きくこれは判断ミスでした。ここは代えてすぐに△5二飛が勝ったように思えます。ここから兜さんの技巧が光ります。

突き捨てが余計だったか。

手厚く、軽く、着実に

第2図以下の指し手
▲5六銀(途中2図)△3三角
▲3四銀 △同 金 ▲同 飛 △4三銀
▲3六飛 △3四歩 ▲3二歩(第3図)

いざ位を取られると手が分からない!

 兜さんは飛車回りを見て▲5六銀(途中2図)。これが入ってしまうので突き捨ては疑問手だったわけです。次に△5五銀と出られないことを知り形勢の悪さを実感します。▲3四銀はしょうがないと△3三角と戻ってさばきを目指しましたが、ここでは△5四歩▲同歩△同金と厚みを加える手があったかもしれませんね。もう少し色々な手段を考えられるようになりたいなぁ。
 金銀交換に△4三銀~△3四歩は少し元気が無いですが、ここは飛車先突破の防止が最優先と判断しました。結局歩切れになるのが痛いところですが、次に△4五歩さえ回れば振り飛車側にチャンスが来ると信じてここは我慢の時間。
 先手も手段が難しかろう、と思っていた矢先に▲3二歩(第3図)の垂れ歩が飛んできます。こりゃまた軽妙な一手があったもんだ!!

振り飛車党としては羨ましさすら覚える垂れ歩

焦燥と強硬手段

第3図以下の指し手
△4五歩 ▲3一歩成 △5五角
▲同 銀 △同 銀 ▲5四歩(途中4図)△同 銀
▲2一と △5七歩 ▲同 金 △4六銀
▲同 金 △同 歩 ▲3四飛 △5八銀 (第4図)

取るべきか否か。悩ましい手が飛んでくる。

 候補手は3択。①無視して△4五歩、②千日手含みで△同銀、③形よく△同飛。特に①と②で迷いました。△同銀に▲3四飛なら△4三銀で千日手の筋がありますが、▲3一金と放り込まれたときに結局桂馬を取られるのが損だと判断しました。「金を打たせた」という捉え方もできるのですが、▲3二金△同飛が入ると飛車が戦場から遠ざかってしまうのも嫌ですし、それを嫌って△4三銀と戻るのも結局手数がかかってしまいます。▲3一歩成~▲2一とまでの間に捌ければ…と本譜は△4五歩を選択。
 しかしこれは速度計算を誤っていました。△4五歩▲3一桂成に△5五銀が利きません。なぜならその瞬間に▲2一とと桂馬を取られて、△5六銀に▲3三角成が生じてしまうからです。▲2一とには△4四銀と数を足したいところですが、▲4三金があってはゲームオーバー。よって本譜は同じ駒損でも被害が少なそうな△5五角から無理攻めを承知で突っ込みます。垂れ歩への正着が③△3二同飛だったのは内緒です。

手筋の一着。焦点に垂らして後手は困っている。

 そこで▲5四歩(途中4図)がまたも好手の垂れ歩。兜さんはこの一手で秒読みに突入しましたが、冷静さを感じさせる一手が飛んできました。手抜けば次に▲5三金。△同飛では▲6五金があるので、△同銀が唯一の応手ですが飛車先が重くなってしまいました。ペースを握られたまま、じわりじわりと反撃の手段を狭められ、どうにか加速する方法は無いかと私は考えます。しかし居飛車側から見れば無理攻めを誘う意味もあったかもしれません。数手進んで銀を前線で捌き、舟囲いがやっと見えてきたという局面で△5八銀!(第4図)とタダ捨ての強手に出たのが実質的な敗着。暴発に誘い込まれ、ついに大ミスが出てしまったのです。

決定的な悪手が出てしまった。

なにゆえもがき、いきるのか

第4図以下の指し手
▲同 金 △4三銀 ▲5三歩 △同 飛
▲5四歩(途中5図)△3四銀▲5三歩成 △4七歩成
▲同 金 △5八飛 ▲6八金 △5三飛成(途中5図)
▲3一飛 △4二龍 ▲4六歩 △3一龍
▲同 と △4九飛 ▲5七金寄 △5六歩
▲同 金 △2九飛成 ▲5三桂(第5図)

形勢は既に悪いのだが、それでも代えて△4七歩成が冷静だったか。

 △5八銀(再掲第4図)の狙いは▲同金△4三銀の大捌き。そこで飛車を成り込み合う展開になれば逆転も狙えるはず・・・。でしたが、▲5三歩~▲5四歩(途中5図)が痛恨の連打。片美濃囲いで戦う後手としてはこれ以上の駒損は避けたかっただけに、一連の手順は冴えていませんでした。
 既に劣勢ではあったものの、もう少し前の時点で腰を落として考えるべきでした。考慮時間をうまく使えていない感覚がありました。もちろん局面としては先手から早い攻めは色々ありそうでしたが、それでも△5八銀と△4三銀しか見えていなかったというのは反省点です。

単純な連打だが、これで決まってしまっている。

 ですが、まだ先手陣は金角だけの薄い守り。少ない攻め駒でも急所が見つかれば、形勢を縮めることはできるはず。これしきの劣勢で諦める私ではありません。△4七歩成から飛車を下ろして自陣に成り返り、長期戦を辞さない構えを見せます。続く▲2九飛には龍をスライドして再度の飛車交換に持ち込み、再度打ち込んでもう一勝負。桂馬を拾ったところで▲5三桂(第5図)ついに美濃に直接手が付きます。ですがこの手はただの金取り。形勢接近を狙う最後のチャンスと意気軒昂に戦いを挑むのでした。

金取りだが二手スキだ。隣(?)で戦友島ノ葉さんが指しているはず。諦めるわけにはいかない。

一手差に散る

第5図以下の指し手
△6四桂 ▲6一桂成 △同 銀
▲6六金 △5六歩 ▲3二飛 △7二金
▲6五銀 △3八龍 ▲6四銀 △5七歩成 (第6図)
▲7三銀成 △同 桂 ▲7四桂 △9三玉
▲8二銀
まで103手で兜 四郎さんの勝ち
(消費時間=▲26分、△24分)

綺麗な詰めろかけてるだろ、自玉が詰んでるんだぜ。

 △6四桂から最後の攻勢。▲6一桂成~▲6六金と手堅く攻防を繰り出されますが、壁角が祟る形になったとも言えます。飛車打ちには△7二金とがっちり受けて、▲6五銀~▲6四銀が詰めろじゃない!!!と駒音高く△5七歩成と踏み込みました。しかし無情にも自玉はコビンからの攻めに耐えるだけの余力が残っておらず、▲8八銀に受けの数が足りません。自玉の詰みを悟り、心を落ち着けるのに決して多くの時間は必要ありませんでした。最後の歩成は形作りだったのだと言い聞かせて投了ボタンに手を伸ばし、本局の決着となりました。兜さん、対局ありがとうございました!

7二に居るのが金だから、銀は打てないという錯覚があった。無念の投了図。

振り返りと、次局に向けて

 本局は作戦選択上の読み合いに負けた一局でした。私は「急戦党の兜さんなら▲3七桂早仕掛けを大本命にするに違いない」と踏んで、▲3七桂早仕掛けという一本の定跡の中で変化する作戦を取ったわけです。終局後に兜さんに伺ったところ「三間飛車党なら対棒銀の経験値が少ないはずだから、一般論で言われているほどの損は無いだろうと思って棒銀を選んだ」とのことでした。
 つまり、兜さんは「舟囲い急戦」というよりマクロな視点から変化することを選んだわけです。相手も変化してくる、という視点が抜けていました。そういう意味では△6四銀・△4三金型を敢行したのは微妙な選択でした。結果論だけで言えば△4三銀型にシフトチェンジして戦うのもあり得たわけです。定跡知識は劣るものの、棒銀と戦うのは僕も好きなわけですし。最序盤の細かな意識の差が、じわじわとリードが広がっていく展開の起因になったのだろうと思います。
 生活面でも本局は反省点が残りました。前局のミスを経て、勉強に対する意識・クオリティ向上はそれなりにできていました。一方で序盤検討の着手が遅れ、後半の疲労回復を妨げてしまったように思います。自戦記執筆のタイミングが遅くなったのも影響しているので、さっそく改善といわんばかりに対局翌日に筆を執っているわけですね。準備期間を前倒しして、対局直前はなるべくコンディション調整に充てられるよう意識しようと思います。

 4回戦の相手はわわわさん。2年連続で4回戦で当たるということで、不思議な縁を感じます。星取りが1勝2敗の負け越しに転じてどんより気分な夜でしたが、指す順は苦しみを背負うところに面白さがあるというものです。ただね、昨年と違ってそれで本当に心を沈めている場合じゃありませんからね。わくわくする戦いがまだまだ僕を待っています。今シーズン初となる相振りが予測されるので、その辺りも気分を一新して臨もうと思います。気を取り直して頑張っていきましょう!お読みいただきありがとうございました!

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